9話
地底湖を越えた先にあった石の小部屋。
広さは四畳半くらいだろうか。天井から外の光が差し込んでいるわけでもないのになぜか明るい。まるで石自体が淡く光を放っているかのようだった。
古い匂いのするその中には、無数の人骨が散乱していて、そのほぼ中心に、真っ白い和服を着てしゃがみ込む黒髪の女性がいた。
優作は思わず息を呑んだ。
(やっぱり幽霊だ………)
女性の体は白い霧のようなものに包まれており、輪郭が時おり揺らめいて半ば透けている。冷たい風もないはずなのに、首筋にぞわりと嫌な汗が流れた。
「ご主人様、何をしているんですか。ほら、早く………」
アイちゃんがすぐに促してきた。
「そうだった………あの、幽霊さん。さっきは怖がってしまって、すみませんでした」
優作はおそるおそる頭を下げた。
「………幽霊さんではなくて、佐々木小鈴です」
まだ少し悲しみに湿っている声が、静けさの中に落ちた。
「すいませんでした、佐々木小鈴さん」
再びぺこりと頭を下げる。
「あなたのお名前は?」
「鬼ヶ島優作といいます」
「おにがしま………」
「変わった名字ですよね。このせいで鬼ごっこをする時は、いつも鬼の役でした」
「良いお名前だと思います」
「ありがとうございます」
和やかな会話が出来たことが意外だった。
「………分かりました。私は優作さんを許します」
長い髪のすき間から、弱々しい笑顔が覗いたような気がした。
「本当ですか!?」
「ここまで来てくれたことに、誠意を感じました」
「ありがとうございます……!」
肩の力が抜ける。正直、もっと時間がかかるかと思っていた。
「それじゃあ、僕たちはこれで………」
「待ってください!」
空気がぴたりと張り詰めた。幽霊──いや、小鈴が、はっきりとした声で言った。
「実は、私から優作さんにお願いしたいことがあるんです。最初に声をお掛けしたのはそのためなのです」
「なんでしょう………」
少し嫌な予感がする。さっきまでの和やかさが、一瞬にしてじんわりと緊張に変わった。
「私を――武器として使ってくれませんか?」
女性は一本の日本刀へと変化した。
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