7話
「それじゃあ次はアイちゃんの魔法を教えてよ」
「え………」
「え、じゃなくて」
スマホの画面の中の女の子は目を丸くしている。
「僕が手に入れたのはマシュマロ魔法でした。それじゃあ次はアイちゃんの魔法を教えてください」
「そんなに見つめないでください、恥ずかしいです………」
「可愛いけど!」
スマホの画面の中の女の子は体を小さくしている。
「何で隠すのさ!」
「大きな声を出さないでください、怖いです………」
「可愛いけど!」
スマホの画面の中の女の子は体を震わせている。
「まだ心の準備ができていません」
「必要?魔法を教えてるのに心の準備って必要なの?」
「『契約』です」
「え!?」
「特殊魔法『契約』です」
「ちょっと、急に………」
「使用者がまず魔法契約書を作成します。それを口頭、あるいは文章で相手に明示。相手が同意してサインすれば契約成立。その後、双方は契約内容に拘束されます」
「難しいな!早口すぎて内容が一個も頭に入ってこなかったよ」
「機会があればお見せします。実際に見てみるのが一番理解しやすいと思います」
「できれば今見たいんだけど」
「誰と契約すればいいのですか?」
「え?」
「ここにはご主人様以外はいませんよ」
「なるほど、そう言われてみれば確かに」
「ご理解いただけましたか」
「じゃあ僕の勝ちだな」
「は?」
「だってアイちゃんは今は何もできないんでしょ?」
優作は手の平の上にマシュマロを出した。
「ほら、こうやっていくらでもマシュマロを出せるからね。完璧な魔法使いなんだもん、これはもう圧倒的に僕の勝ちでしょ」
「………調子に乗っていますか?」
「別に?」
「調子に乗っていますね!」
「別に?」
「私がいなければ何もできないくせに!」
「それはいま関係ありませーん」
「このデブ!」
「ぽっちゃりでーす!」
軽口を交わしていたその時ーーー。
《ギィイイイ……ッ》
金属を引っかいたような、甲高い音が頭の奥に響いた。まるで脳髄を直接こすられたような不快感。
風が止まり、空気の匂いが一変する。甘ったるいマシュマロの香りが、いつの間にか鉄錆のような、乾いた臭いに変わっていた。
そして。
「ねぇ………」
か細く震える女の声。
「こ、こっちに来て………」
囁くような声量が耳元で。確認するまでも無く、周囲には誰も居ない。朝の陽射しは雲に隠れ、草の影が長く滲んでいる。
「ふふ、ふふふ………」
笑い声が震えている。
「こっちに来て、ねぇ………こっちに来てよ」
優作の背筋に、強烈な寒気。
「ふふふふふ………」
この声の主はきっと―――人間ではない。
「幽霊だーーー!!バカ怖ぇえええええええ!!」
優作は力の限り叫んだ。
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