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31話

 


 子供の頭ほどの大きさがある透明な石。布にくるまれていたそれは、脈動するように淡い光を放っていた。薄汚れた布を照らすそれには、少し近づきがたいような力を感じる。


「ダンジョンコアとはなんだ?」


 優作がじっと石を見据えながら、静かに問いかけた。


「え、知らないんですか?」


「良いから早く説明しろ」


 力強く握った拳を根津の前に突き出す。その圧に押され、根津はびくりと肩をすくめた。


「は、はい! ダンジョンコアというのは、ダンジョンの最深部にある石のことです。見てください、これが……高く売れるんですよ」


「それは、どんな力を持っているんだ?」


「飾るんですよ」


「飾る?」


「はい。ほら、薄っすら光っているでしょ? これを部屋の中に置いておくと、なんというか……格好いいですから。金持ちが高く買ってくれるんです」


「それだけか?」


「はい、そうです」


 それだけとは思えなかった。どこか得体の知れない、内側から湧き上がるような力の気配を感じる。


「ただ、これは注意が必要でして。直接触ってはいけないんです」


「直接触ってはいけない?」


「そうなんです」


「だから布にくるんでいるのか」


「はい。一度触ると、この透明な石が黒くなります。そしてその状態でさらにもう一度触ってしまうと、バラバラに砕けてしまうそうです」


「なんだそれ………」


「分かりませんが、そういうものだそうです」


「試してみたことはあるのか?」


「そんなことしませんよ! だってこれ一つで、五十万円くらいの価値はありますからね」


「五十万円か……」


 優作の眉がわずかに動いた。この世界でも、通貨の単位は『円』らしい。


「大きいダンジョンコアであれば、さらに値段は上がります。そんな貴重な物を壊そうとする奴なんていませんよ」


「なるほどな……ちなみに、お前の鞄から転がっているそのリンゴ、それはいくらで買った?」


「え? なんだかおかしなことを聞きますね」


「あ?」


「リンゴは百円くらいです!」


 ひと睨みで一気に答えた。


「なるほどな………ということは、お前は今回の騒動の賠償金として、そのダンジョンコアを渡すんだな?」


「残念ですが、大した金も持っていないので………仕方がありません」


 根津は力なく笑いながら肩を落とす。


「俺は許してやってもいいと思うが………村長はどう思いますか?」


「優作様がそうおっしゃるのであれば、私どもは構いません」


 清々しい顔をした村長の団平が、恭しく頭を下げながら答える。


「五頭たちはもうこれで悪さはしてこないと思います。それに前金も戻ってきました。私たちとしてはもう、十分すぎるほどありがたい結果でございます」


「それじゃあ許してやるか」


「ありがとうございます、それじゃあ私はこれで―――!」


 根津は嬉しそうに頭を下げると、まるで今までの怯えが嘘だったかのように、あっという間にその場を去っていった。


 ふと振り返れば、村の方では、大海や向日葵がこちらに向かって手を振っている。


(暴力こそ、この世で最も強い能力、ですね)


 アイちゃんの声が、優作の脳内に響いた。


「まあまあ、いいじゃないの。みんな嬉しそうにしてるんだからさ」


(そうですね)


 アイちゃんの声も、どこか嬉しそうに聞こえた。





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