30話
「申し訳ありませんでしたーーー!」
声が枯れそうな勢いで叫びながら、額を地面に擦り付けているのは、花咲村に押しかけた六人の刺客のうち、たった一人だけ残った男。
何故優作がこの男に手を出さなかったのか、それは立ち向かって来なかったから。
「お前は何者だ?」
優作がゆっくりと歩み寄り、尋ねた。というのも、他の連中とは服装が違うように見えたから。ひょっとして一味ではないのでは?という疑問から。
「この男は町で仕事を探していた剣士です」
背後の団平が言う。
「大海がとても戦える状態ではないので、五頭たちと戦ってくれる者を町で探していたのですが、この男はその時に声を掛けた者です」
「おいお前、それなのにどうして五頭の側にいるんだ?」
「それが……」と、土に額をこすりつけたままの男が答えた。
「そちらの団平さんから前金を頂いた後ですぐに、そこに倒れている連中から声を掛けられまして、自分たちの味方になれば金を倍払うと……」
男の言葉を聞いて、優作が何が気が付いたような顔をした。
「団平さん、どうやら助っ人を頼むという策は、あいつらに読まれていたようです」
「な、何と……」
団平は、開いた口を手で押さえた。
「まあ……敵だな」
優作は冷静に呟いて男の目を見る。この男の身長はこの国では破格の198㎝。普通の人間にとっては鬼にも見える異形だ。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
男は慌てて顔を上げ、土まみれの髭面を歪ませた。
「私がこの村に来たのは今日が初めてで、誰かを傷つけたとか、何かを壊したとか、そういうのは一度もしてません!」
「それについてはどうですか?」
団平は頷いた。
「はい、それは間違いないと思います」
「お前、名前は?」
「根津です!」
「ねず……」
「はいそうです! 根っこの“根”に、津軽の“津”で根津です!」
「根津、何もしていないとは言っても、前金を受け取っておきながら敵についたのは事実だろ」
「もちろん、その金は返すつもりでしたとも!」
根津はポケットから取り出した金貨を置いた。
「返そうと思って使わずに持ってきていたんです。これで無罪放免ということでどうでしょう?」
「無罪って言い方は気に入らないな」
「その通りです!許していただく、の間違いでした。申し訳ありません」
「本当に反省しているのか怪しいな」
優作は腕を組みながら言った。
「本当に心の底から反省をしております」
「金は?」
「へ?」
「さっき言っただろ。“謝ったうえで金を支払えば”許すって。前金は返したけど、それじゃあ条件は満たしてないぞ」
「そ、そういわれましても、あいにくの貧乏暮らしで………あ、そうだ!」
何かを思いついたように、根津がぱっと顔を上げる。
「つい昨日、素晴らしいものを手に入れたんです。それを差し上げますから、それでどうか!」
自信ありげな根津の言葉に心を惹かれた。
「………とりあえず見せてみろ」
「わかりました!少々お待ちを……!」
背中に背負っていた鞄を慌ただしく開け始めた。がさがさと布の音がしてから取り出すと、誇らしげに高く掲げた。
「こちら、とれたてほやほやの――ダンジョンコアでございます!」
彼の手の中で光を受けてきらめいたのは、子供の頭ほどの大きさがある透明な石。
布にくるまれていたそれは、脈動するように淡い光を放っていた。
力を感じた。
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