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29話

 



「す、す、すまん、すまない、ちょっと待ってくれ、俺、俺、俺が悪かったーーー!!」


 武器を手にした二人の男が一瞬で生きる肉塊へと変わる――その光景を目の当たりにした五頭は、顔面蒼白で叫んだ。


「この通りだ、謝るし金も払う、だから許してくれーーー!」


 幅の広い剣を投げ捨て、地面に額を擦りつける必死の土下座。あれほどまでに膨らんでいた威勢は、まるで風船がしぼむように消え失せていた。


「なんだ、お前はそれでいいのか?」


「もちろんだ、もちろんです。あんな戦いを見せられちゃ、降参します。おい!何やってんだ馬鹿野郎! おまえらもとっとと頭を地面に擦り付けろや!」


 怒声に驚いた三人の男たちも、土を跳ね上げる勢いで地面に額をこすりつけた。


「これでどうかお許しいただけますか………?」


「ま、まあ、そうだな」


 優作は困惑した。


 魔法文字で強化された肉体の持ち主として、死力を尽くす激戦になると予想していた。しかしそれは拍子抜けで終わろうとしている。


「金も払うんだな?」


「もちろんです!」


「借金の話も無かったことにするな?」


「もちろんです! この度はお騒がせしてしまい、本当に申し訳ありませんでしたーー!!」


 土下座というより、もはや地面に頭を埋めんばかりの勢いだ。「俺たちの額の指定席は地面の上」と言わんばかりに、這いつくばっている。


「村長たちに相談してくるか………どれくらいの金額を賠償金にしたらいいのか、僕では判断できないからな」


「お手数おかけして申し訳ありません!」


 優作がくるりと身を返し、村の入口――見守っている団平たちの方へと歩き出そうとした、その瞬間。


「きぇええーーーーーーーーーーー!!」


 風を裂くような叫び声。四人はクラウチングスタートの姿勢から同時に跳ね起き、その巨体に向けて武器を振りかぶる。


 ーーーが、それは届かなかった。


「やると思ったよ………」


 すでに優作の姿は五メートル先、視線の先で微笑を浮かべている。


「え、いや、これは………」


「今さら言い訳か?そんなこと許すわけないだろ。くらえ」


「へヴぉば!」


 何かを叫ぼうとした五頭の顔面が、白い塊に覆われた。


「んご、ごご、ごごおーーー!」


 声がその白い物の内部で反響している。


「視覚、嗅覚、聴覚――人間の情報取得は顔に集中してる。それを全部塞ぐ。どうだ?マシュマロ魔法の攻撃的活用法は」


 五頭は仮面のように張り付いたマシュマロを、必至で剥がそうとしている。


「へあ!」


「うわあ!」


 他の男たちの顔面にもマシュマロが張りついた。まるで弾丸のような速度で飛ばされ、躱すことは出来なかった。


「当然ながら呼吸もできない。一瞬で剥がされるようなら、こっちも勝負を急がないといけないがーーー大丈夫そうだな」


 男たちは必死に顔をかきむしっているが、滑る指先はマシュマロを掴めず、ますます焦っている。


「せっかくだから技名でも付けるか、そうだな………デスマスク、とでも名付けようか」


 余裕で佇む優作が言った。


「デスマシュクの方が良いんじゃないですか?)」


 ポケットからアイちゃんの声が聞こえた。


「なにそれ?」


「マシュマロのマスクだから、マシュクです」


 妙に自信満々な調子だ。


「それはちょっと………」


「どうしてですか!)」


「なんかちょっとバカっぽいというか………」


「せっかくの人のアイディアを………バカっていう方がバカなんですよ?!」


 白いマシュマロに顔を覆われた男たちは、ひとり、またひとりと酸欠で地面に崩れ落ちていった。


 圧勝。


 最初は不安もあったが、敵が近づいてくるほどに分かった。自分の方がはるかに強い。数が多かろうが武器を持っていようが、今の自分には到底及ばない。


 強くなっている。


 この世界に来て自分は人間を超越するほどの戦力を持っていることを確信した。この世界でも思うがままに生きて行けるだけの強さを持つことを確信した。


「優作様!」


 駆け寄って来る団平、大海、そして向日葵の笑顔が見える。全く知らない自分の事を受け入れてくれた人たち。


 チート、そして勝利。


「良かったですね」


「ああ………」


 夕暮れが近づく空の色の中を稲穂の金色が揺れる、柔らかな風が仄かにマシュマロの匂いを運んでいた。






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