28話
花咲村の入り口にやって来た六人の男たち。武装しているその姿は威圧的だ。
「なんだこいつ……あり得ないくらいデカい。団平の奴め、おかしなのを助っ人に頼んだな……」
そう呟いたのは、上半身裸の筋肉質な男。日に焼けた肌には、判読不能な文字が彫り込まれている。
他の五人は明らかに優作との距離を取り、腰が引けていた。五頭だけは、ためらうことなくずかずかと歩を進め、手を伸ばせば届く距離まで接近してきた。
「誰だお前?」
優作は大きく息を吸い込んだ。
「土下座しろ」
低く、静かな声だった。
「地面に頭を擦り付けて誠心誠意謝罪しろ。そして金を払え。それがお前たちにできる最善だ」
「おいおい、随分とデカい態度だな!」
五頭は半笑いで後ろを振り返ったが、仲間は誰一人として笑わなかった。明らかに縮こまっていた。
「誰だよお前! 赤の他人が人の問題に口出ししてくんなよ!」
「もう一度だけ言ってやる。土下座して、金を払え」
威圧ではなく、ただ冷ややかに、優作は見下ろしながら告げる。その落ち着きこそが、五頭の神経を逆撫でした。
「ちっ……」
舌打ちとともに、五頭が一瞬、目を伏せて思案するような素振りを見せた。その動きに、優作は違和感を覚える。
――おかしい。どうしてこの男は怯えない?
村人たちは姿を見るだけで恐慌に陥った。それなのに、五頭はなぜ平然としている?
「和也、和彦。やれ」
五頭が突然振り返り、命じた。
「ちょっ……!?」
「俺たちが!?」
距離を取っていた五人の中から、若い男ふたりが目を見開いた。顔立ちは似ており、兄弟なのだろう。あきらかに自信のなさと怯えが滲んでいた。
「無理ですよ、あんな鬼みたいな奴……!」
「そうですよ、勘弁してくださいよ五頭さん……!」
五頭の元に駆け寄り、袖を掴んで懇願する彼らを、五頭は鼻で笑った。
「断れる立場か? お前ら、この村を裏切って俺たちの仲間になるって決めたんだろ?その心意気、見せてみろ」
「でも……」
「それは……」
「嫌なら戻りな。案外歓迎してくれるかもな」
嘲るように笑う五頭の声に、二人の男は絶望の表情を浮かべた。
「くそっ……」
「なんで、こんなことに……」
消え入りそうな声で呟きながら、錆びた剣を手に二人は前に出る。乾いた土を踏みしめる足取りは重く、手にした剣も震えていた。
――こいつらか。
優作は思い出していた。五頭が村にやって来たとき、助太刀のふりをして大海に襲いかかり、深手を負わせたこの花咲村の元住人。
「うおおおおお!」
悲鳴のような叫びを上げながら、突っ込んでくる。だが、その動きはあまりにも緩慢だった。
優作の膝が唸りを上げて振るわれた。
「ぎゃわっ」
股間に直撃した蹴りは、大の大人の身体を跳ね上げた。
木の先端程の高度。
鳥の糞が落ちるような音を出し、地面に墜ちた。
「か、か、か、和也ーーーッ!」
白目を剥いて泡を吹き、おかしな方向に足が曲がっているそれをみて、戦う事も逃げることもせず、ただその場に立ちすくみ、叫んだ男。
その胸に、優作の拳が深々と突き刺さる。
鈍く、そして乾いた音。胸骨が砕け、風が止まり、和彦と呼ばれた男の目から光が抜けた。
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