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27話

 



 ゆっくりと、こちらに向かってくる六人の男たち。もう、顔立ちがはっきり見分けられるほどの距離だった。


「……あれ?」


「どうなさいましたか、ご主人様。まさか緊張のあまりお漏らしを――」


「違うよ!そうじゃなくて、先頭の男……上半身裸、しかも刺青が入ってる」


「確認しました。肌に描かれているのは、模様ではなく“文字”のようですね」


「えっ、アイちゃんにも見えるの? スマホは今、ポケットの中なのに」


「ご主人様と私は魂でつながっております。ゆえに、その目が見ているものを、私も知ることができるのです」


「魔法?」


「はい」


 アイちゃんはきっぱりと答えた。


「優作様!」


 そのとき、村長の息子・大海が駆け寄ってきた。額には汗がにじみ、包帯の巻かれた肩が上下している。


「どうした?巻き込まれないように離れてくれと言ったのに」


「申し訳ありません。しかし、状況が変わりました。作戦は中止すべきです。あの男には、もう逆らわない方がいいかと」


「どうして?」


 大海から緊迫感を感じる。


「……あれは“魔法文字”です。五頭の奴、どうやら天刻者てんこくしゃになったようです」


「魔法文字……?天刻者……?」


「はっ、申し訳ありません。記憶が戻っていないのを、すっかり忘れていました」


「時間がない、簡潔に説明してくれ」


「分かりました。“身体強化”という言葉をご存じですよね?」


「運動能力を大幅に引き上げる魔法」


「そうです。前までは普通の人間でした、しかし今の五頭は魔法文字を体に刻み込むことによって、身体強化が使えるようになったんです」


「つまり、前よりもはるかに強くなったということか」


「はい。身体強化を使う相手と戦う場合、通常の兵では五人がかりでも厳しいとされます。同行している他の者たちも、油断できません」


「なるほど………」


「その戦力差では、いくら優作様でも……やっぱり俺も加勢します!」


「心配ご無用」


「しかし……!」


「心配ご無用」


 大海は目を見開いた。優作の態度には一切の虚勢も冗談もない。ただ、淡々とした事実の提示に過ぎなかった。


「とにかく下がっていてくれ」


「……分かりました」


 出会った当初こそ反発しかけたものの、不思議と納得させられるものがあった。この男の言葉には、従いたくなるほどの自然な“重み”がある。


 そして、驚いていたのは味方だけではなかった。


 成人男性の平均身長が150センチ台というこの国において、198センチという優作の異形の体格は、敵陣にも確かな動揺を走らせていた。






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