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26話

 


 ギラついた眼で金を返すのか女を差し出すのかどっちか選べと、開口一番に五頭は言ったが、その言葉に心が無いことは明らかだった。


 対面する大海は迷うことなく言った。


「断る」


 低く放たれたその一言は、まるで合図のようだった。まさしく開戦の鐘の音。五頭は迷いなく剣を抜いた。村の争いというには、あまりにも重く、冷たい光りだった。


 笑った五頭の顔に、胸騒ぎがした。


 その瞬間。味方であるはずの星田と門田が、突如襲い掛かってきた。まさかの裏切り。信じていた同じ村の人間に、斬りつけられたのだ。


「くそ……!」


 それでも大海は奮闘した。最初の一撃で側頭部を打たれながらも、必死に五人を相手に戦った。


 ようやく気付く。五頭は最初から村に手を回していた。そしてその罠は見事に決まった。


 結果的に敵を追い払うことはできたが、五頭は余裕の笑みを残し、高らかに笑って去って行った。そして大海は、その場に崩れ落ち、気を失った。


 ――そして五頭は手紙をよこした。日時を指定してまた行くから、花嫁の準備をして待っていろと。そして今、再び姿を現した。今度は人数を一人増やして。


 大海の傷はまだ癒えていない。つい昨日になってようやく、自分の足で立てるようになったばかりだった。


「実はその時のために、町で助っ人を頼んでいたのです、息子が動けないことは分かっていましたから………」


 しかし五頭は、手紙に記された日付より三日も早くやってきたのだ。まるで、団平の思惑をあらかじめ読んでいたかのようだった。


「俺はやるよ………」


 大海は覚悟を決めていた。


 けれど覚悟を決めていたものがもうひとり、それが向日葵だ。他者を守るために命を失う覚悟を決めた者と、他者を守るために嫌いな男に嫁ぐ覚悟を決めた者。


 優作は黙って、二人の姿を見つめた。


 ポケットの中にあるスマホ、その中にいるアイちゃん。彼女が何を思っているかぐらい、長い付き合いで分かる。


「俺に任せてくれ」


 静かながらも威圧するほどの強さを持つ優作の声に、室内の空気がわずかに揺れた。


「一体どうして……」


 大海の強い視線が優作を捉える。


「優作様、こう言っては悪いが貴方はよそ者です」


「もちろん」


「話し合いなんかで話がまとまるとは到底思えない。向こうは武器を持っているし、人数も多い。怪我では済まないです」


 大海はあきらかに自分の力で解決したがっていた。それを分かっていながらも優作は言葉を止めない。


「そうしたいから」


「え?」


「悪いが黙って見ていてもらう」


 ニコリと笑ったその裏には、有無を言わせぬ、確かな意志の強さがあった。


「………任せてみようよ優作さんに」


 まだ納得していない顔をしている幼馴染に対して、諭すように向日葵が言った。


「だけど………」


「こんなとんでもない日に、たまたま優作さんが来てくれた。これはきっと運命、だから私は受け入れたいと思うの」


 優しく微笑む向日葵はいま確かに美しかった。


 明るくて元気で負けず嫌い。ずっとずっと好きだった。子供の頃から好きだった。そんな彼女は今まで見てきた中で今が一番美しい。


 大海は言葉が出なかった。




 ◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆






 古き良き時代を思わせる、茅葺屋根の家々が肩を寄せ合う農村。


 水田には風に揺れる稲の青が広がり、畑ではトマトや茄子、きゅうりがたわわに実っていた。


 花咲村の入り口、踏み締めれば土埃の立つ細道の先で、優作は仁王立ちになって敵を待っていた。


「今回は、僕が戦うよ」


 静かな声だったが、風に負けない程度の強さはあった。


「わかりました」


 小鈴の返事はあっさりとしていたが、少し弾んでいた。


 少し離れた場所には、団平村長、大海、向日葵、そして何人かの村人たちが息をひそめて様子をうかがっている。優作が頼んでそうしてもらった。


「これでもし負けたら格好悪いですよ?」


 アイちゃんの声が、からかうように頭上から降ってくる。


「そうなんだよ、そこが問題なんだよ……」


 優作は苦笑いを浮かべた。


「自信が無いのならお止めになったらいかがですか、ご主人様」


 AIとは思えない挑発的な口調に、優作は肩をすくめる。


「本当はそんなこと思ってないくせに。あのふたりを助けたいと思ってるんでしょ?」


「わかりますか?」


「どれだけ一緒にいると思ってるの」


「そうですか………私は正義と愛の味方ですから」


「やっぱりそうだよね」


 口元に薄く笑みを浮かべる優作。


「地面に這いつくばって泣いているご主人様の情けない姿を見てみたい気もしますけど」


「やっぱりアイちゃんってドSだよね?」


「そんなことはありません。私はAIアシスタントですから、SとかMとかは存在しないのです」


「はいはい……」


 他愛のないやり取りの間にも、敵の影が六つ、こちらに向かって歩を進めてくる。


「あと少しで敵が到着するというのに、優作さんはずいぶんと余裕そうですね」


 小鈴の声が聞こえた。彼女は刀の姿にならず、まだ人の姿で漂っている。


「やることは決まってるからね」


「と、言いますと?」


「謝罪と賠償。それが駄目なら、殴って蹴る。それだけだよ」


「素晴らしい!実に潔いではないですか」


 小鈴は嬉しそうに拍手した。


「何も考えていないだけよ」


「いいえ、これは侍の精神です」


「それは絶対にない」


 アイちゃんと小鈴のやり取りの中、風がまた一陣、畑の葉をざわめかせる。


「来るなら――早く来い」


 優作は深く息を吸い込み、両足を地に根付かせるように構えた。異世界での初めての戦い、その火蓋は、まもなく落とされようとしていた。






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