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25話

 



 古き良き日本家屋の中に、息苦しいほどの緊張感が漂っていた。


 煤けた梁がむき出しになった天井の下、壁際に座る大海と向日葵は、何かを言いたげに顔を見合わせながらも、村長の決定を尊重して口を閉じている。


「……事のきっかけは、山の向こうにある呉孫村から、五頭という男がやって来たことでした」


 村長の団平が、やや早口で語る。


 五頭――かつてはこの花咲村と交流のあった呉孫村の村長の息子。だが数年前から、何らかのきっかけで両村の関係は悪化し、今では音信も絶えていた。


「あの男は開口一番、十三年前に貸した金を返せと言いました」


 団平はひと息つき、渋く口を引き結んだ。


 ある年、この村の近くの川が氾濫し、花咲村は壊滅寸前だった。確かに金は借りた、と団平は認める。


「ですが、それはもうとっくに返し終わりました。しかし奴は笑いながら、それなら完済を証明する書類を出せ……そう言いました。金の話は、証文が全てだと」


 団平の顔がわずかに歪む。


 問題は無いはずだった。しかし見つからない。村人たちは総出で探した。証文は村長の屋敷の倉庫にまとめて保管されていたからだ。だが驚いた。


 その中の棚の一つが不自然に、空になっていたのだ。


 五頭の表情を見れば犯人は明らかだった。しかし、証拠がない。彼の姿を村で見かけた者は誰もいなかったのだから。


 そして、五頭は次にこう言った。


 ――返済を待って欲しいのなら、向日葵を嫁に差し出せ、と。


 部屋の空気が凍りついた。その時の状況を思い出したようで、向日葵がうつむき、大海が歯を食いしばる。


 その時、怒りに我を忘れた大海が、五頭に飛びかかったのは自然な成り行きだった。向日葵とは幼馴染。互いの気持ちを口にはしていなかったが、誰の目にも明らかだった。


 濃い土煙が舞うほどの取っ組み合いとなり、壮絶な喧嘩の末に勝利したのは、大海だった。


 口から血を流し倒れている五頭は憎しみに満ちた目で言った。「次は容赦しねぇ」と。――そして、十日後。


 彼は戻ってきた。今度は二人の仲間を連れて。その眼に宿る敵意は隠しようもなかった。





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