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24話

 


「大変だ、大変だ、大変だーーー!」


 村長宅の玄関の扉を勢いよく開けて飛び込んできたのは、松ぼっくりみたいな顔をした若い男だった。


「こら、お客人がいるというのに失礼だろう、松笠!」


「すいません、だけど村長、聞いてくれ。俺は大変なものを見て―――って、何を食べてるんですか?」


「いやいや、なにも食べてない」


 団平は首を横に振る。


「もしかして甘い物とかじゃないですよね?」


「違う………」


「なんか口をもぐもぐさせてません?俺が甘い物に目がないって知ってますよね?」


「いいからお前が何を見たのか説明しなさい!」


 村長の口の周りは少し白い。背中の後ろには串に刺されて炙られたマシュマロ。家の中に甘い匂いが漂っている。


「いや、でも……」


「松笠さん、何を見たんですか?」


「向日葵もここにいたんだ?」


「うん」


 向日葵と目が合っただけで、松笠の耳まで真っ赤になる。


「俺、仕事をサボって丘の上で昼寝しようと思ったんだよで、うとうとしてたらさ……山のほうから、六人組の奴らがこっちに向かって歩いて来るのが見えたんだよ!」


「まさか……!」


「絶対そうだよ、あいつ等だよ!」


「なんだって!?来るのは三日後だったはずだ。それに合わせて助っ人を頼んでいたのに!」


 団平が唾を飛ばしながら立ち上がる。


(どうやらなにか事件が起こっているようですね)


 アイちゃんの声が、優作の耳元に静かに響く。


「落ち着いてくれ二人とも。俺が何とかする……!」


 決意に満ちた大海の声。しかしその立ち上がる動作はまだぎこちなく、頭に巻いた布には赤黒く滲む血が広がっていた。


「何を言ってるんだ、お前はまだこの前の傷が癒えていない。ひとりで歩けるようになったのだって、昨日じゃないか!」


「だったらどうする?この村であいつらと戦えるのは俺くらいだ。俺がやるしかないんだろうが!」


「それは……」


 団平が言葉を失う。囲炉裏の火の爆ぜる音だけが、しばしの沈黙を破っていた。


「無理しなくていいよ……」


 今までとは打って変わった、静かな向日葵の声。


「私があいつの嫁に行けばいいだけの話だから………」


「何言ってんだよ、向日葵!」


 大河が叫ぶ。


「ずっと考えていたの。もうこれ以上、みんなに迷惑をかけるわけにはいかないって。私、この村が好きだから」


「ふざけるな! 俺は絶対そんなこと許さない!」


「大海、あんたのことは私が一番よく分かってる。今のあんたは……子どもの頃、ハブに噛まれたときと全く同じ顔をしてるよ。もう見てられないよ」


「俺のことなんか気にすんな!」


「気にするよ!」


 火花が散るような若い男女の口論。その沈黙を破ったのは、優作の声だった。


「―――話を聞かせてくれませんか?」


 その声には、有無を言わせぬ力強さがあった。





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