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23話

 

「優作様、これは一体どういうことでしょう………」


 手のひらに乗った、白くてふわふわした小さな塊――マシュマロをまじまじと見つめながら、村長の団平が何とか言葉を絞り出した。


「どういうことと言われても、魔法ですよ。ほら、この世界には普通に魔法があるじゃないですか?」


 優作がちょっと自信なさげに言う。


「それはもちろんありますが………」


「だったらそんなに驚くことはないでしょう」


 思いのほか強烈なリアクションに、やらかしてしまった感が押し寄せてくる。


 これは、なろう小説で定番の「俺また何かやっちゃいましたか」状態だ。恥ずかしい、なんだかすごく恥ずかしい。


「いえ、この世界における魔法というのは………」


 優作の動揺に気が付いたらしい団平が、静かに説明を始めた。


 この世界で魔法によって物体を直接生み出す者は、極めて稀であるという。しかも、それらはあくまで火・水・土・風に限られており、他には身体強化があるだけだ。


「それなのに、まさかこのような……白い塊を、それに甘いとは………」


 団平だけでなく、大海も、そして向日葵までもが、無言で優作とマシュマロを凝視している。


「ただの、おいしいだけの魔法なんですけどね……」


「本当に食べることができるのですか?」


「美味しいんですよ、どうですかひとつ」


「は、はぁ………」


 団平はまだ半信半疑のようだ。困惑と警戒が入り混じったその表情は、なんとも形容しがたい。


「あと、これを言っては失礼かと思いますが………」


「なんですか、教えてください」


 言いにくそうにしている村長を促す。


「火・水・土・風以外のものを生み出す者のことを……悪魔憑きと呼ぶ者も、大勢おります」


「悪魔憑き?!」


「その名の通り、悪魔に取り憑かれた者のことです。彼らは悪魔の力を借りて、特別な力を手に入れるのだと」


「ただ甘いだけのお菓子なのに?」


「そうですね」


 優作は考える、なんとか自分が危険人物でない事を分かってもらいたい。


「むしろ火よりも安全じゃないですか?こんなに柔らかいんですよ。ぶつかっても痛く無いし………火事で家が焼けたという話は聞いたことがあっても、これが被害を出すなんてあり得ないですよ?」


「そう言われてみれば………うーむ………」


 優作がとっさの思い付きで言ったことを、団平は真剣に考えているようだ。


「それに、種族が多すぎます」


「?」


 ぽかんとする顔を眺めながら、優作は口にマシュマロを放り込み、もごもごと喋った。


「さっきは鬼だって騒がれて、今度は悪魔憑き……。つまり悪魔に取りつかれた鬼ってことじゃないですか」


「は、はぁ……」


「僕ひとりに対して種族が多すぎます。できれば人間だけにしてほしいですよ。贅沢かもしれませんけどね」


「………なるほど」


 自虐笑いのつもりだったが、誰も笑っていない。ショックだ。笑いの気配も、ない。


「ねえ、それ面白いんだけど!」


 軽やかな声が空気を弾いた。見れば、向日葵が楽しげに笑っていた。


「鬼と悪魔だって!団平さん絶対に大丈夫だよ、だってそんなに悪くて強いなら、私たちとっくにやられてるもん!」


「そう言われてみれば確かに………」


 彼女の着物はこの村で見た誰よりも明るい色をしていて、髪には小さな鈴のついた飾りが揺れている。


 やっぱりギャルはいいよな………。そう思った瞬間にアイちゃんの強めの咳払いが聞こえた。


「ねえ優作さん、もっと面白いこと言ってよ」


「いや、それは……ちょっと難しいかも……」


「優作さんって、見た目と違って面白い人なんだね」


「ありがとう」


「ねえ、なんか感謝されたんだけど」


 向日葵はケラケラと屈託なく笑った。その声は、この張り詰めた空気の中で、唯一、安心できる光のようだった。


 今だったら、恋愛リアリティーショーも楽しめるかもしれない。優作の心はなんだか温かくなっていた。





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