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22話

 



 優作のことを一目見た瞬間に叫び声をあげた男女に対して、村長の団平が、優作が鬼ではないことを、丁寧に説明してくれている。


 板の間に座る優作は、やや居心地悪そうに膝を抱えながら、そっと声を漏らした。


「ねえ、アイちゃん……」


(どうしましたか、ご主人様)


「僕って、今後も人に会うたびに毎回、鬼扱いされないといけないのかなぁ……」


(悪気があってそうしているわけじゃないんですから)


 最初にくすっと笑ってから、アイちゃんが優しく言った。


(そんなことよりも、気付きましたか?)


「なにが?」


(あのふたり………なんか、いい感じじゃないですか?)


「そうかな?」


(すごく親密というか、ね)


 土間で話している村長と若い男女に目を向けた。


「それは間違いないでしょう」


(やっぱり!私もそう思います)


「家族だからね」


(ほえ?)


「若い男の方は、家の奥から出て来ただろ。ってことは村長の家族。多分親子だよ。親密なのも当たり前でしょ」


(そっちじゃない!)


 一瞬の間があった後、耳が痛くなるくらい大きな声だった。


(何を馬鹿なことを言っているんですか!若い男女の関係性の事を言っているに決まってるじゃないですか!)


「ああなんだ、そっちか………それだって、同じ村に住んでいるんだから当たり前だよ」


(ご主人様は分かってませんね。あの目を見てください、目を。あれは“ただの同郷の仲”じゃありませんよ)


 アイちゃんは呆れたように溜息をつきながら、まるで頭の悪い犬に「トイレ」を繰り返し教えるかのような口ぶりで言った。


「アイちゃんって、恋愛とか大好きだよね。恋愛リアリティーショーとかよく見てるし」


(大好物です!ご主人様も今度見てみてください、特にABEMAが最高です、きゅんきゅんします)


「ABEMAはサッカーとバラエティーだけで十分だ思ってるんだけど」


「その考えはアホの極みです。極アホです」


「なんでよ!」


 そんな会話をしているうちに、どうやら村長の説得が功を奏したらしく、三人そろってこちらの板の間にやってきた。


「お時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした。最初に私が全村人に説明しておけばよかったんですが……」


 団平は、背筋をやや硬く伸ばしながら頭を下げる。焦りの色を隠せない口調だ。


「気にしていませんよ」


 優作がそう言うと、村長はほっと胸を撫で下ろすように笑い、続けた。


「ご紹介させていただきます。こちらが私の息子で『大海』、そしてこっちが『向日葵』です」


 大海という青年は、頭に布を巻いている。優作の事をかなり警戒しているらしく、身構えているのがわかる。


 一方で、向日葵は派手な柄の着物をふわりと揺らしながら、全く警戒する様子を見せずに近づいてきた。


「近くで見ると余計に大きいー!」


 目を輝かせながら、優作の周囲を一周してはしゃいだり、小さくジャンプしてみたり。明るく元気な声が部屋に響く。


(……なんか嬉しい)


 思わずそんな感情が胸の奥から湧いた瞬間、アイちゃんの舌打ちのような音が耳の奥で鳴った気がした。けれど、それはきっと気のせいだ。


「何を食べたらそんなに大きくなれるんですか? 私ももう少し身長が欲しいって、前から思ってるんです!」


「……マシュマロ、とかかな」


「ましゅまろ? なにそれ、知らない!」


「白くて、ふわふわしてて、甘いお菓子のこと」


 優作はなぜか得意げに言った。


「えーいいなー! 私も食べてみたい!」


「いいよ!」


 可愛い女子に腕の辺りをタッチされて、優作はかなり気分が良くなっていた。


「え?」


「いくらでも出せるからね。さあ、おひとつどうぞ」


 優作がそう言って、手のひらの上にマシュマロを出現させた次の瞬間――。


「うえーーーーーーー!」


 村長の家全体を揺るがすほどの大きな叫び声が、響き渡った。






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