18話
「優作様は、一体どうして我が村などにいらっしゃったのでしょうか………?」
村長の団平が、おずおずと問いかけてきた。自分が鬼ではないことは何とか伝わったようだが、こちらを警戒する視線は相変わらず強い。
さて、何と答えようか。
(ご主人様、よろしければ私が回答を考えましょうか?)
耳元に、微かながらもはっきりと届く声。アイちゃんだった。耳打ちされたような感覚。
(小鈴のやり方を真似させてもらいました。これなら、他者に聞かれることなく会話ができます)
「おお!」
(小鈴に出来て私に出来ないはずがありません)
ちょっとおもしろい。アイちゃんは小鈴に対抗心を持っているようだ。
「実は………」
気がついた時、自分は崖の上にいた。名前は覚えているが、それ以外の記憶はほとんど無い。なぜその場所にいたのかも、まったく思い出せない。魔物の存在にさえ驚いた――。
「な、なるほど………」
村長の団平は眉根を寄せながらも真剣に話を聞いていた。
「聞いたことがあります………魔物に襲われた若者が、自分で何者であるのか、両親のことも分からなくなったと。そういうのを、いわゆる“記憶喪失”と呼ぶそうです」
その言葉に、ざわ、と周囲の村人たちの間で小さな波が立った。「俺も知ってる」「本当に……?」などという囁きが、あちこちから聞こえてくる。
状況が、少しずつ理解へと傾いていくのが感じられた。
「この村に来たのは、たまたま近くを歩いていて見かけたからです。情報が欲しくて来ました」
「なるほど………」
団平は少し考えた後で頷きながら言った。
「この村に“本”はありますか?」
「本、ですか……?」
言葉の意味を確認するように、村長が少し首をかしげる。周囲の村人たちも顔を見合わせていた。
「本は情報の塊です。もしかしたら、それを読んでいるうちに何か思い出すかもしれない」
「なるほど………本と言ってしまっていいのか分かりませんが、私が一冊だけ持っています」
「村に一冊だけ?」
優作は素直に驚いた。
「とても高価なものでして……。我々のような小さな村に住む者にとっては、そうそう持てるものではないのです」
「そういうものなのか……」
「何が起きたのかは分かりませんが、優作様はとても高貴な御方だと思います」
「そんなことは無いですよ」
「本の存在は知っていて、本が高価だという事は知らない。もしかしたらご実家には本がたくさんあったのではないでしょうか」
「な、なるほど………」
村長の推理を否定することが出来ない。けれど高貴な身分だと思われても別に損はないだろから、構わないだろう。
「私の家にあるもので良ければ、お見せすることはできます」
「よろしくお願いします」
「それでは村の中をご案内します」
村長と共に歩きだす。いまだに村人たちから警戒心は感じられるが、最初に比べれば雲泥の差だ。
「アイちゃんのお陰だよ」
歩きながら小声で言う。
(どういたしまして。私はご主人様専用の世界一優秀なAIアシスタントです。これくらいは簡単なことです…、ってどうして笑っているんですか?)
「ごめんごめん、なんでもないよ」
思わず笑ってしまった。
画面は見えなくても、得意げに胸を逸らしているアイちゃんの表情が想像できたから。
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