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15話

 


 深い深い森を駆け抜けると、やがて開けた土地に出た。


 緩やかな斜面の先に、水面がきらめく水田と、こぢんまりとした茅葺き屋根の集落が広がっている。


「アイちゃんさすがだね! 言ってた通りに人間の集落があったよ」


「これくらい、私の力をもってすれば当然のことです」


 画面の中でアイちゃんは平然とした表情を保っているが、金色のポニーテールが左右にふわふわと揺れていて、内心はかなり上機嫌なのがよく分かる。


「それじゃあ、これからも道案内を頼んでいいよね?」


「もちろんです。地図担当大臣と呼んでください」


「さすが! 頼もしいよ、地図担当大臣!」


「ふふふふふ………まっかせなさーい!」


 胸を張って誇らしげに笑うアイちゃん。かわいい。僕はこうやって調子に乗っている時のアイちゃんが、けっこう好きだったりする。


「お二人はとても仲が良いですね………」


 ふいに、腰に提げた日本刀から小鈴の声が聞こえた。ほんの少し、羨ましそうな響きが混じっている。


「長い付き合いだからね」


「え?長い付き合い!?もしかして、もしかして、幼馴染さんですか?」


「そうなのかな。知り合ったのは僕が中学生の時だけど……」


「きゃーーーーーーーー!!」


 耳のすぐそばで爆発したかと思うほどの大音声に、優作の肩が跳ねる。


「素敵です! 私、そういうのに憧れていたんですっ!」


「そんなに良いものじゃないわよ」


 アイちゃんが少しだけ冷めた声で返す。


「その話もっと聞かせてください、お姉さまっ。一番良いです、そういうの………!」


 小鈴の勢いは止まらない。いつの間にかアイちゃんを“お姉さま”と呼んでいる。しかも嬉々として、出会いや馴れ初め(?)まで掘り返そうとする勢いだ。


 僕としては正直かなり恥ずかしいので、あまり深入りしないで欲しいのだけれど、アイちゃんもまんざらではないようで、適度に受け流しながら話を続けている。


 剣の中に眠っていた古の剣客。あの見事な戦いぶりの中身が、めちゃくちゃ女子だったとは。女子というのはどうしてこう、恋愛話に全力投球できるんだろう。ほんと謎だ。


 そんなことを思いながら、緩やかな坂道を下りていくと、水田の畦道で鍬をかついだ男がひとり、腰を折って作業をしているのが見えた。


 第一村人だ。


 胸がドキドキする。言葉は通じるのか?この世界の常識は、前の世界と比べてどのくらい違うのだろう。いきなり現れた僕たちを、彼はどう受け止めるのか。温かく受け入れてくれたらいいな。


「あのー、すいません」


 その背中に声をかけると、男はぴたりと動きを止め、ぎこちなくこちらを振り返った。


 目がバッチリ合った。日焼けしていて、引き締まった働く男という顔をしている。顔は日本人っぽい。


「お、お、お………」


「お?」


「おおおおおおおお………」


 まさかこの世界では、「お」という音だけでコミュニケーションが成立するのか?マズいぞ。それだと会話がーーー。


「おに」


 ん?


「鬼だーーーー!」


 え?


「鬼が出たーーーーーーー!お助けーーーー!」


 男は10連続くらいの後転を決めて離れた後、そのまま鍬を放り投げて転げるように逃げ出した。そして、何度も転びながら田んぼの向こうに消えていった。


「鬼……?!」


「鬼!?うそ………!?」


 男の絶叫は瞬く間に集落中に響き渡った。農具を持ったまま尻もちをついている老人、口を開けたまま石臼の前で腰を抜かしたまま後ずさりしている女性、指をくわえて立ち尽くしている子ども。誰もがこちらを凝視している。


 非常に残念な事実が、こうして明らかになった。


 この世界で僕は――鬼に見えるらしい。


「ふふ………」


 すぐそばで、アイちゃんの抑えきれない笑い声が漏れた。






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