13話
鹿踊を見たことがある。
鹿を模した装束に身を包み、太鼓を持った者達が大地を踏み鳴らすように、力強く、そしてしなやかに踊る郷土芸能だ。
佐々木小鈴の剣技は、優作にその光景を呼び起こした。
普通であれば見るだけで足が竦む、体長2メートルを超える異形の魔物たちを前にして、彼女は恐れの欠片もなく、躊躇いなく飛び込み、剣を振るい、舞うように退く。
風を裂く軌跡が残光を描き、次々と魔物の身体が、黒煙へと変わっていく。それはまるで、血肉ではなく“影”を斬っているかのような、不思議な感覚だった。
《レベルが上がりました》
どこからともなく鳴るファンファーレのような音。この世界が異世界であることを確かに思い出させる。
「いけいけ小鈴! もっとやれ!」
「お任せあれ!」
*
最後の烏賊のような魔物が、ぱん、と弾けるようにして黒煙になった。
──戦闘終了。
子供の頃から憧れていた“侍”になれた気がした。
一刀のもとに魔物を斬り伏せる快感。レベルアップという明確な成長。優作の胸の奥には、火花のような興奮が灯っていた。
「すごいじゃないか小鈴!」
「本当に格好良かった」
「ありがとうございます、嬉しいです」
全ての魔物を倒し終えて、荒野に立つ小鈴は、まるで舞台を終えた踊り子のように、満足げに体をくねらせた。
「優作さんの身体能力のおかげです」
「それにしても、魔物というのは倒されると黒い煙になって消えるんだな。びっくりしたよ」
「私もです」
「そうなの?」
「はい。私がこの世界に降り立ってからかなりの年月が経ちましたけど、魔物と戦ったのはこれが初めてですから」
「そんな風にはとても見えなかった、さすが侍」
「いえ、それほどでも……」
小鈴はまた、くねくねと照れたように身体を揺らす。どこか狐のような愛らしさがあった。
「それと、これ……」
優作は地面に散らばったものを拾い上げた。
ざらりとした手触りの銀貨。五百円玉ほどの大きさで、片面には優しげな女性の肖像、もう一方には羽根が刻印されている。
「ゲームみたいだな。魔物がこうやってお金を落とすなんて」
「たしかに……でも、綺麗ですね」
陽にかざすと、銀貨の表面が微かに虹色に輝いた。
「全部拾っておきましょう。何かの役に立つかもしれません……」
「そうだね」
風に舞う砂ぼこりの中、二人は黙々と銀貨を集めた。
やがて、それが終わると──
「それと、ご主人様にご報告です」
「なんだろう、ちょっと怖いな」
「レベルアップのお陰で、新たな魔法を使えるようになりました!」
「えええええ?!」
優作は歓喜の声を上げた。その笑顔は、どこか少年のようだった。
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