表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/31

11話

 


 霧に包まれた空間。その中央、宙に浮かぶ一振りの日本刀が静けさの中に凛と存在していた。散乱する白骨死体を踏まないように、優作は慎重に歩を進めた。


 近づくにつれ、刀身から感じられる圧は身震いするほどだった。空気の層が違う。


 ここにきてようやく理解できた――なぜここにこれほどの死が転がっているのか。


 これは、いわゆる妖刀。


「さあご主人様、とっとと刀を手に取ってください」


 いつもの明るい声が、ポケットの中の小型端末から響いた。アイちゃんの無邪気さが、今は妙に怖い。


(やるしかないか……)


 僕はアイちゃんに失望されたくない。それだけは、嫌だった。


「やるよ」


「さすがですご主人様!」


 それでも心が乱れていた。優作はおもむろに手をかざし、掌にふわりと白いものを出現させた。


「それは何ですか?」


「マシュマロっていう、甘くてふわふわしたお菓子です。この魔法だと、先行き不安ですよね?」


「どうでしょう………」


 優作は自虐のつもりで言ったのだが、小鈴は笑わなかった。


 甘さが口の中に広がる。


 咀嚼するたびに心が整っていく。案外この魔法良いかもしれない。


 よし、行くぞ。


 覚悟を決め、手を伸ばす。指先が柄に触れ、そして――


 掴んだ瞬間。


 頭の先から足の先まで、雷のような衝撃が突き抜けた。目の前が真っ白になり、思わず声が出た。


「んびびびびびーっ!」


「ご主人様!」


「ひゃっほーーーい! 自由だ、自由だーーーっ!」


 優作の体が、ひとりでに走り出していた。握られた日本刀を掲げ、狂ったような勢いで。


「小鈴さん!あなた何してるんですか!」


「たのしーい! 走るってたのしーなー!」


 アイちゃんの声も聞かず、洞の中を全速力で駆け抜ける。水たまりを蹴り、水しぶきを上げながら走る。ぶるんぶるんゆれる腹の肉のなど気にも留めず、全身全霊で喜びを表現するその様子は、子供のように無垢だった。


「小鈴!てめぇ、いい加減にしろ!!」


「森のにおいがするよーー! 久しぶり! お久しぶりです嗅覚!」


 外の空気が、洞の出口から一気に流れ込んできた。視界が広がる。青空と緑の森。陽光のまばゆさに、目が眩む。


「やったーーー! 緑だ緑! きれいだなーーーっ!」


 優作の体は止まらない。草木の間を駆け、木々をすり抜け、坂を登り――ついに、最初にこの世界に降り立った場所。あの崖までやってきた。


「空気もおいしいー!」


 それでもなお止まらない。


「小鈴! その先は……!」


「わーーーーい!」


 体重113キロの巨体が、勢いよく地を蹴った。異世界の空は青く、どこまでも澄んでいて、それはそれは美しかった。


 一瞬だけ空中に停止して、落ちる落ちる落ちる。


 優作は泣いていた。




最後まで読んでいただきありがとうございました。


「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。


評価を頂ければさらに喜びます。


☆5なら踊ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ