Hello World
「ここはどこだ?」
目を覚ますと知らないベッドの上にいた。
「あ、先生!目を覚ましましたよ!」
部屋の中で難しそうな機械をいじっていた女性が、急いで部屋の外に出て行った。
周りを見渡してみると部屋の中にはベッドが一つと、何かしらの機械が置いてある。その機械に繋がっているチューブのようなものを辿ると、自分の体に繋がっていた。
なぜこんなことになっている?ここに来た経緯もここに来る前の事も何も思い出せない。
そもそも俺は…
「君!大丈夫かい!?」
部屋のドアが乱暴に開けられ、白衣を着た男の人が険しい表情でこちらに問いかける。
「どこか痛い場所や、違和感がある場所はないかい!?」
「特にどこも悪いとこは無いですけど…」
「よかった。一時はどうなることかと思ったよ。ここに運ばれてきた時にはすでに心臓は止まりかけていたんだ。目を覚ましたことが奇跡だよ」
心臓が止まりかけていた?一体俺の身に何があったんだろうか。
「何がともあれ無事でよかった。目を覚ましたばかりだから少しの間安静にしていなさい。落ち着いたら詳しく体の検査をしよう。ところで君。この辺りで見かけない顔だけどどこから来たんだい?名前は?」
「何処からって言われても、気が付いたらここにいた訳で、俺の名前は…」
名前?思い出せない。自分の名前もここへ来る前、どこに居たのかも。
「まさか、記憶喪失…?」
白衣を着た男性が呟く。
「その可能性が高いですね、先生」
記憶喪失。小説や漫画ではよくある話だが、まさか自分がその立場に置かれるとは。
確かに現状、記憶喪失以外表現に困るだろう。
「目を覚ましたんだ。よかった」
何処からか声が聞こえてきたと同時に、今までいなかったはずの女の子が突然目の前に現れた。
「ユウリ。心臓に悪いからそれは使わないでくれ。普通に入って来れないのかい?」
「ごめんごめん。みんな険しい表情してたからさ。それでその子の状況は?」
「詳しいことは細かい検査をしてみないとわからないが、記憶喪失であることは確実だろう」
目覚めたばかりの俺をそっちのけで三人で会話をしている。誰かこの状況を詳しく説明してくれないのだろうか。
「記憶喪失ってことはこの子、名前も思い出せないんだよね?てことは、名前をつけてあげないとね。そうだなぁ…。ソウタ…。君の名前はソウタ。いい名前でしょ?」
数分前に会ったばかりの謎の女の子に名前をつけられるのはいい気はしないが、現状自分の名前などなんだっていい。
とりあえず日も落ちてきたので、検査は明日の朝一に行うことになり、一旦その場は解散となった。
その日の夜、ベッドの上で現在の自分の状況を整理してみる。
まず知らないベッドの上で目覚め、記憶喪失になっていた。そしてここはクシリ島という小さな島らしい。どうやってここまできたのか、どうしてこんな所にいるのか。その経緯は覚えていない。
それにあの謎の女の子。入り口はあのドアしかないのに急に目の前に現れたのは何故?俺だけじゃなく同じ部屋にいた二人も驚いていた。
まぁ、明日になればわかることか。
重たい瞼を閉じて眠りについた。
これが俺がこの世界で過ごす"二回目の夜"だった。