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第七縁。

 やがて一通りおでんを食べ終わり、彼女はふと、

「それじゃ夕飯も食べ終わった事だし、約束だしアタシの事を話すね」

 自分の事を話し出した。

 一緒におでんを食べてなごんだ所で、そうだったと思い出したボク。

 確か……何故か彼女はボクの事を昔から知っていたような口ぶりだった気がする。

 でも、ボクには全然覚えも無いんだよね……。何処かで逢ってるらしいんだけど……。

 そう思いつつ、僕は彼女が今から話そうとする事に耳を傾けたのだった。

「えっと、まずは自己紹介から。

 アタシの名前は今野こんのあかね。確か15歳になる……のか? 多分。うん……多分」

 え? 自分の歳なのに良く解らないって??

 ボクは彼女の言葉にそんな疑問が脳裏のうりを通り過ぎる。

「で、今日は、アタシの耳にちょっとした噂が飛び込んで来て、その噂を聞いたらジッと出来なくてようちゃんの家に飛び込んできちゃいました。妖ちゃんの家は昔から知ってたから、来るのにはあっという間に来れたけれどね。

 でも妖ちゃんの家に来るまでにいやーなにおいがしててね、いざ家の前に着たらここからその匂いしてて、噂の事もあって思わずピリピリがピークに達しちゃって、ついつい扉を壊しちゃいました……ごめんなさい」

 と、謝りながら苦笑い一つ浮かべる彼女、今野さん。

 通りであんな壊れ方してたんだ……。

 なんて、何処か納得なっとくするボク。

「噂って何なんだい?」

 父さんは問いかけながら四人分のコップに抹茶入り玄米茶を注ぐ。

「うん『あの高杉家の子孫に今月にも嫁入りする者が居るらしい』って噂が一族にね」

 ふと、雹堂ひょうどうさんを見るボク。

 ボクが雹堂さんを見ると、見る見る内に顔が真っ赤になって行く。

 それはまるで『私の事です』と言わんばかりに、正直な反応で。

「……そうそう、アンタの事ね。えっと……」

 と、ゆっくりとした動きで視線を送る今野さん。

「初めまして、雹堂ゆきめと言います。今更『初めまして』なんて言うのも変かも知れませんがよろしくお願いしますね。

 ……でも、あんまりよろしくと言えない気もしますが」

「ああ、そう。アタシはさっき言った様に今野あかねって言うの、ヨロシクね……アタシの一時的な『ライバル』さん」

 ……じわり。

 突然、嫌な空気がただよい始めた気がするボク。

 ボクは空気を換えるために、話題を変える。

「そう言えば……今野さんはボクの事を昔から知ってるみたいだけど……どうして知ってたの?」

「そっかー……妖ちゃん忘れちゃってるんだぁ……。うん、まだアタシも妖ちゃん小さかったし忘れちゃってても仕方ないよねー……」

 と、悲しそうな顔で言う今野さん。

 あはは……。ちょっと危な気なのを踏んじゃったかも……。

 思わぬ地雷に、少々苦笑いをするボク。

 けれど、次の瞬間にはパッと明るくなって、

「でもね、アタシはずっと覚えてるよ。今でも忘れてないし、時々あの時の妖ちゃんを思い出すんだアタシ。あの時からアタシは妖ちゃんに一目惚れなんだっ」

 子どもの様な屈託くったくの無い笑顔を見せる今野さんの姿。

 ふと覗けば、隣の席に居る雹堂さんは、何処か面白く無さそうな顔をしている様にも思えたボク。

「あー……何で知ってるのって言う質問だっけね、あははは。それを話すのならアタシの正体と出会いから話さなきゃね」

 コホンッ。と、一つ咳払いをして今野さんは語り始めた。

「アタシって見た目は極普通の女の子なんだけど、実はよく言われる『妖怪』なんだ。他には『もののけ』って言われてたりするんだけれどね」

 あ、やっぱりそうなんだ。

 彼女の言葉に何処か納得するボク。

 いや、妖怪とかどうかは確信は無かったけれど、普通の人じゃないんじゃないかなってぐらいは思ってたんだよね。

 だっててのひらから火炎弾を放つし、玄関の扉は焼き吹き飛ばされたし……。超能力者か何かかなってはね。

「アタシはぞくに言われてる『妖狐ようこ』に当たるかな? でもタダの『妖狐』じゃなくて『多変たへん属尾ぞくびの妖狐の一族』でね、普通の妖狐は成長するたびに一本づつ尻尾しっぽが増えてくのに対して、アタシ達は成長するたびに尾が増えるほど様々な属性の妖術が使える様になる一族なんだ。一族の中で一番尻尾が多くてもアタシのママの九尾くらいかな~? 確か。アタシはまだ三本しか尻尾が無い三尾の妖狐だけど、いつかはママをも超えて見せるんだっ」

 そう言う彼女の顔は凄く輝いていて、とても嬉しそうである。

 きっとそのママの事が好きだし、自慢のママなのかも知れない。

 なんて、彼女の笑顔から何処かそう思うボク。

「妖ちゃんと出逢ったのはアタシがまだ3才の子どもの時。3才って言っても、アタシ達の一族は体の成長が普通の狐よりも遅くて、普通の狐の2ヶ月くらいなんだ。なんでも生まれながら元々妖力が強いから、それを体が制御しつつ成長するから遅くなるとか言ってた気がするけどー……ま、そんな事はどうでもいいっか」

 そう言って照れ笑いを浮かべる今野さん。

 確か狐って生後4ヶ月で大人になるって聞いた事がある気がするな、ボク。

 2ヶ月の大きさになるのに3年って、どれだけの『力』が体に影響を及ぼしてるんだろう……。

 ふと、どこか可哀想にも思えたボク。そんなの彼女からしたらボクの勝手な考えなんだろうけど。

 すると、あれはね~と、少し遠い目をしながら語り続ける彼女。

「まだアタシが妖力を持て余してて自由に使えない頃、子どもはまだ行ってはいけないと言われてたんだけれど……ふとした好奇心から山から下りて遊びに行っちゃったんだ。そしたら人間の仕掛けた罠に見事に足がハマっちゃって、身動きが取れないは、物凄く痛いは、恐ろしいはで狂いそうな時……。アタシは一人の人間の子どもに出逢い、そして助けて貰ったんだ。それが妖ちゃん、君なんだよ~」

 満面の笑みでボクを見つめる彼女、今野さん。

 そう言われ、思い返してみれば、ボクが小学校3.4年生くらいに家族で山に遊びに行った時、罠にハマっていた子狐と偶然出逢ったのを思い出した。

 まー……でも見つけたのはボクだけど、その罠を解いたのはそこに居る父さんだったりするんだよね……。小学3.4年生くらいじゃ罠を解く力も無いし、父さんに頼るしかなかったからね。

「あの時はゴメンねっ、妖ちゃん! アタシ痛くてパニック状態だったから、結構暴れちゃって怪我とかさせちゃったでしょう……。怪我して動けないアタシを抱えて安全な場所まで運んでくれてたのに……」

「え? あぁーいいよそんな事。もう昔の事だし、それに罠にかかったばっかりだから人間におびえたって仕方ないしね」

 あの時を思い出し、心配そうな顔を向けた今野さんに軽く微笑ほほえんで返すボク。

 あの後、実は母さんに『野生の動物に無闇に触ってはいけないでしょ!』って、こっぴどく怒られたんだけどね……。実はそっちの方が痛かったり……。

「でも、抱えられた時に言われた言葉は今でも覚えてるよ妖ちゃん」

 と、うっとりした表情で言う。

「覚えてる? 妖ちゃん。あの時『ゴメンね、人間の身勝手で傷つけちゃって。君が受けた痛みや怒りもうらみも解るけど……それでも人間を怨んじゃダメだよ? 人間の中にも悪い人ばかりじゃないから……。それに誰かを怨むと同時に自分の大切な心を失くしちゃうから、だから怨んじゃダメ。そんな事で君の大切な心を汚しちゃ悲しいからね……。でもその代わり、ボクでよかったら噛んでも引っ掻いてもいいからさ、それで許してあげてね』って言ったの」

 問いかけられて、ぁあ、言ったような気がするかもしれないなと思い、頷いた。

 でも、誰かを怨んだら~のくだりは、母さんからよく言われた言葉だったりもするんだよね。

 じゃなかったら……そんな難しい事を当時のボクが理解出来てるかなんて、あやしいし……。

「アタシ、言われて少し経った後で、思ったんだ。

 『この子、子どもなのに心理を突いてて凄い……それに自分が傷ついてもアタシの事や他の人間の事を心配してるなんて、どこまで優しい子なんだろう……』って。

 そしたら、何だかどんどん妖ちゃんに興味が湧いて来て……好きになって……ここまで来ちゃった」

 テヘッ。と、可愛らしい笑みを浮かべる今野さん。

「と、言う訳で妖ちゃん、アタシと一緒になろうっ! アタシ妖ちゃんの事すっごく好きだし、一生大切にするしっ! 子どもは三人くらいでいいよねっ」

「え!? ちょっと今野さんっ!?」

 言い終った途端とたん、急に横にダイビングをして、ボクの首を捕まえ抱きつくっ!

 思わぬ事に慌てる僕をよそに、

「隣のあの子より胸は無いけど……きっとあの子よりはとこじょうだから……ねっ」

 語尾にハートマークをつけて語る……。

 その今野さんの姿に慌てて、

「よ、妖一よういちさんから離れなさいっ!」

 ぎゅぅ~~~っと、ボクの空いている片方の手を一生懸命引っ張る雹堂さん。

 と、父さん!?

 思わず視線で父さんに助けを求めるボク。

 けれど、ずずぅっと食後のお茶を啜り、何やらほのぼのとしたものを眺めるかの様な視線でこちらに返す父さんの姿。

 いやいや……実際そんなほのぼのとした後景では無いんですけど……ねー父さん……。

 ほら、雹堂さんだって……。

『妖一さんには私が居ますし、それに、と……床だって……コレから上手になりますからお構いなくっ!』

 なんて真っ赤になりながら叫んでるし。方や今野さんだって……。

『アンタみたいな生娘が妖ちゃんをリードできる訳ないじゃな~い。それにアタシと妖ちゃんは昔から赤い糸で結ばれてるんだから邪魔しないでくれるかな!』

 って、対抗してるし……。

 ボクは両手を引っ張られる痛みに耐えながら、ふと思う。

 もしかしてこれからずっと、こんな毎日になるんじゃないかな……。

 なんて。



 ボクと彼女と彼女の縁結び記

 第七縁『何処かの始まりは、きっと今からの始まりなんだなって、ボクにはそう思えたんだ』


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