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第三十縁。

 重いまぶたっすらと開けた先に、ふとなつかしい姿がぼやけながらも目に浮かんだ。

 何処どこ見慣みなれた風景の先で、一人の女性が洗濯物をたたいて干している様である。

 あれ……。

 お母……さん?

 すると、女性はこちらをいて、ニッコリと笑っていた様な気がしたボク。

 ……何だか、温かくて気持ちいいな。

 ふと、そんな事を思い浮かびつつも、重い頭がボクを静かに元の場所へと意識を静めるのだった。


 よ……ち……の。

 よう……ちどの。

 ふと、ボクを呼ぶ様な声が、

妖一よういち殿どの?」

 そうクリアに聞こえた。

 それは、聞き覚えのある声に何処か似ているのである。

 ら揺らと揺れる海の中をただよっていた様な安らぎから、水面みなもへと射す一辺の揺らめく光へと引き起こされたボクは、意思とは抵抗ていこうする瞼をゆっくりと開ける。

 するとそこには、

目覚めざめたかの? 妖一殿」

 腰まで伸びた赤いロングストレートのかみ、プルンっとしたくちびる綺麗きれいに整った顔立ち。あざやかな花びらを散りばめつつも白を基調きちょうとした大人の綺麗な和服姿の美少女が、ボクの目の前に居たのだ。一見いっけん、それは言葉遣ことばづかいからもボクの良く知るくうちゃんにそっくりなのではあるが……ただ『ちが個所かしょ』がいくつも見受けられるのだ。

 まず一つ目に、ボクを呼ぶその声が、とても『空ちゃんの声』とは違う事。二つ目に、その白の和服姿からはみ出さんかとばかりに胸元がのぞけてしまったりする胸に、それとは対照的にキュッしたウエストの細さが妖艶ようえんなスタイルを更に強調している事。そして最後にボクの目の前にいるこの美少女は、ボクよりも年上の推定すいてい17・18歳、大人びている容姿から下手へたをしたら20歳くらいには見えるお姉さんだという事である……。

 一体……だれ

 すごく知っている様で知らない気がするんだけど……。

 戸惑とまどうボクに、目の前の女の子は、

「う~ん……どうやったらこんなふうになるのかのぉ……」

 空ちゃんと同じ口調くちょうで、ボクをあちらこちらと観察する彼女。

「確認してみるがの、妖一殿で間違まちがいはないじゃろうかのぅ?」

 そのに落ちていない問いかけに、ボクは『うん、そうだけど……』と返してみる。

 一体何がそんなにおかしいんだろう??

 と、言うか……この人は一体誰なんだろう……。凄く空ちゃんにてはいるけど、大人っぽ過ぎるし……。

 う~ん……。

 なんて、おたがいを見ながら共に首をかしげて考えるボク達。

 うぅ~ん……一体……。

 と、言うか、ここはそもそも何処なんだろう!?

 確かボクは……森の中でシャロンちゃんと居たはずじゃぁ……。

 辺りをゆっくりと見回すと、そこは何処か普段ボクが使っているの部屋へやの様にも見える。

 何故なぜ、この『様にも』というのかと言うと、確かに部屋の構造やベットの位置などは僕の知ってる部屋なんだけれども……置いてある物がボクが知ってる状態よりも古びていたり、新しくなっていたりするのだ。

「ところで妖一殿? その服装は趣味しゅみか何かかのぉ……? 気にはなっていたんだけれどもの」

 辺りを見回していて、天井てんじょうに何かが落下して来た様な大きな穴が空いているを発見した時、ふと問いかけられたボク。

 え? 服って??

 問われてみて、目覚めてから初めて自分の姿を見たボクは、思わず、

「良かったー……ちゃんとある」

 今まで存在してはいた気がするけど、存在を確認出来なかったものを確認してしまう。

 そう、シャロンちゃんの魔法で女になっていた……というか、女の姿にさせられていて、感覚がほとんど無かったのだ。

「ん? 無い方がいいのならちょちょいと変換装置へんかんそうちでも作ってあげようかの? 中性的だからそんなにイジらなくても直ぐにー……」

「いえ、結構けっこうです、是非ぜひとも遠慮えんりょをさせていただきます……」

 恐ろしい事を何気ない顔で言い放つ彼女の言葉をさえぎる様に、ボクは彼女の提案を却下させていただく。

 この性格とこの口調……やっぱりこの人は『空ちゃん』で間違い無さそう……。

 と、なると、ボクはどうやら元の世界に戻れたっていう事なのかなぁ……。それにしては何だか違和感いわかんを覚えるんだけど。

 そうボクが悩んでいたそんな時だった。

 コンコンッ。

 部屋のドアをノックする音が聞こえたのは。

「お。帰って来たみたいじゃのぅ」

「え? 帰って来たって??」

 大きい空ちゃんの言葉に、頭の中にいっぱい疑問符ぎもんふが浮かんだまま問いかけるボク。

 すると、

「ごめんなさい、お留守番るすばんありがとうございます空ちゃん」

 あれ……この声って何処かで確か。

 なんて、今度は聴き覚えがある声と共に部屋へと入って来た人物に、ボクはおどろかされたのだ。

 黒く綺麗でしっとりとした背中まで伸びた長い髪に、優しい笑みと端麗たんれいな顔立ちをした、大人の美しさにみがきをかけた17・18歳くらいの淑女しゅくじょが、部屋に入って来たのだ。

「……え?」

 お互い顔を見るやいなや、驚きのあまり身体からだがそのまま硬直こうちょくしたかの様に動けないのである。

 そこには、僕の知ってるよりも大人びていて、ますます綺麗になった姿のゆきめさんの姿があった。

「よう……いちさん??」

 やっと出た、たどたどとした問いかけに、

「ゆきめ……さんだよね?」

 ボクもまた問いかけ返した。

 お互い、今見ている光景に信じられないという顔をするのだった。


「はい、もういいよ妖一殿。ありがとう」

 ポンッ。

 という、軽い音を響かせて、ノズルの先に付いた小さなトイレのスッポン状の器具をボクのひたいから取り外す大きい空ちゃん。

 とりあえず、何が何だかわからないボクは、解る範囲で説明をしようとした時に空ちゃんに制され、あっという間に良く解らない機械を作り上げて、ボクの額に当てていた。

 と、いう状況から開放されたボク。

「なるほどのぉ……。あの『J・キャット理論』がこんな形で立証されるなんてのぅ」

 ふむふむ。と、ジュータンに座るボク達を置き去りに一人納得する空ちゃん。

「えっとー……ごめん、空さん。何が何だか良く解らないんだけどー……」

 一人頷き納得する大きい空ちゃんに、苦笑にがわらいを浮かべながら問いかけた。

「『空ちゃん』って呼んで、妖一殿」

 と、ニッコリ。

 あー……はい。

 心の中でうなずいたボクは、一つ咳払せきばらいをして、

「……空ちゃん、一体何がどうなってるの?」

 再び問いかけ直した。

 すると空ちゃんは、天才超科学者の顔になり説明し始める。

「そうじゃの、何から話そうかのぉ。今、ちょっと妖一殿の記憶を見させてもらった事か考えて言える事だけは話してみるかの? まず、いろんな疑問や意見があると思うし、そこから話そう。

 そもそも何故こんな事が起きたのかと言うと、まー……記憶を覗く限り完璧かんぺきな答えは出せんがの、きっと『特殊異空間保存装置』の故障こしょうが原因かも知れんのぉ」

 って、何だっけ……。

 言われて、パッと出ないボクの頭の中。ボクの頭の中を見たにしては、見られた本人が解らないっていのは、どうゆう理屈りくつなんだろう……。

「ふむ。ほれ、最初ワシが来た時にこわれた家を一瞬で直したじゃろ? まぁ『直した』と言うのは大きな語弊ごへいがあるけれども、解りやすく簡単かんたんに言えば、新しい部屋とかを作った装置の事じゃよ。

 で、その装置がさっき言った『特殊異空間保存装置』って訳で、今回の事を引き起こした原因とも考えられそうじゃのぅ。何がどうやってそんな事を起こせたのか解析かいせき出来できそうにないから、言えんけどものぉ」

 そう言われ、ふと思い出してみるボク。

 あー……。もしかしてアレかなぁ……原因って。

 思い当たる事を思い出したボク。

「次に、妖一殿が居た世界についてじゃ。妖一殿が居た世界は『J・キャット理論』で言われる『平行異次元空間世界』と考えていいかも知れんのぉ」

「キャット理論?? 平行??」

 プシュー。

「あははは、いい壊れ具合ぐあい面白おもしろいのぉ。

 ま、この『J・キャット理論』というのは、J・キャットと言う人物が提唱ていしょうした理論の事でのぉ。こんな面白い話で『もしもの瞬間だけ空間は分岐ぶんきし、次元世界は存在し、今生きているこの世界は、多くの異次元と平行して共存して成り立っている』というのじゃよ。一度はとある学会に持ち上がったが、それを立証りっしょうするものが無く、あまりにもとんでも過ぎる話から誰も相手にしなくなった理論なんじゃがのう。まさかこんな形で立証されるとはのぉ」

 えっとー……。

 何でしょう? 意味が解るような全く解らないような……。

「こうゆう事じゃよ」

 すると、そう言って空ちゃんは、近くに転がっていた小さな消しゴムを拾い、そしてボクへと唐突とうとつに放り投げたのだ。

「わっ。えっ?」

 放り投げられた消しゴムをキャッチしたボクは、意味が解らず空ちゃんに首をかしげてみた。

「今、妖一殿はワシが放り投げた消しゴムを受け取ったじゃろ?」

「う、うん」

「でも、受け取るか受け取らないかコンマの世界でまよったハズじゃ。そのコンマの思考の結果出来た一つの世界がこの『今』という時が流れるこの世界。そしてコンマの思考の結果受け取らなかったりした多次元世界がその『平行異次元空間世界』という事じゃよ」

 へー……。

 うん、半分解った様な解らない様な。でもさっきよりは理解りかいは出来た気がするな。

「妖一殿がさっきまで居た世界は、簡単に言えば、その様々な『もしも』が集まって出来た一つの時空次元って事だと思うのぅ。

 ……そして、ここまで言えば解ると思うがの、今、妖一殿が居るこの『今』も、元居た世界とくらべたら『異次元空間世界』じゃよ。まー……何の影響か解らないけども、平行とはまた違った未来の世界だろうけどのぅ」

 あ、それは何となく解ってた気がする。

 だって、ゆきめさんの姿や空ちゃんの姿も、全然ぜんぜんボクの知ってる姿より成長した姿だったしね。

 そっかー……未来じゃ、二人共こんな綺麗になるんだぁ。

「通りで妖一さんが、昔の頃の妖一さんの姿なんですね」

 そうニッコリと微笑ほほえんで納得なっとくするゆきめさんの姿。

「あははは……でもきっとこんな『メイドコスプレ』なんてはしてなかったとは思うけど……ね」

 苦笑いを一つ浮かべるボクに、大きな空ちゃんは意味深いみしんに、

「んにゃ、一度昔に実験でー……」

 と、全部は言い切らぬままあえて口をつぐむ。

 あー……そうなんだ。

 全部は聞かぬけれども、なんとなく読めたボク。

 きっとこの世界での過去で、空ちゃんの何かしらの実験で女にされちゃったんだろうなぁ……そんでもって何処からか調達ちょうたつしたメイド服を着せて遊ばれたんだなぁ……あはは。

「でも、とても可愛かわいらしくて素敵すてきでしたよ、妖一さん。だって、何年も前なのに、今でも昨日の様に鮮明せんめいに覚えてますから。

 だから、服装は少し違いますが、もう一度この姿を見られて嬉しく思います。その事件の後『もう二度と着ないっ!』と怒ってしまって着てはもらえませんでしたから」

 クスクスと、まるでそのままの姿が絵画か何かにでもある様な、素敵な小さな笑みをこぼすゆきめさん。

「何なら、その服を持って来てあげようかのぅ、妖一殿」

 フッと、あぶな~い超科学者のひとみになった大きい空ちゃんにボクは、

「いえ、結構です。この服だけで十分じゅうぶん過ぎてますので、辞退じたいさせていただきますです……はい」

 即行そっこうで遠慮をさせてもらう。

「所でのぉ……」

「着ません」

 キッパリ。

 ボクはまたすすめられる気がして、空ちゃんの言葉が終るより先にさえぎって断りの言葉を言う。

「……妖一殿」

「はい、スミマセン……」

 いつもの超科学者の瞳に戻ったの見て、かさずボクは謝った。この瞳の時には大半がマジメな話だからである。

「で、どうするかの? このままここに居るわけにもいかんだろうし」

 そう。大きい空ちゃんの言葉通りに、何時いつまでもこの世界に居る訳にもいかないのだ。

 ボクはかえらなくちゃ行けない。

「うん、ボクは還るよ。ここに居ちゃ、この世界のボクにも、色んな人にも迷惑めいわくがかかるし戻らなきゃね」

 でも、一体何処に?

 いや、そんなの考えるまでも無い。

「何処の世界に戻るのかのぉ? 妖一殿」

 問いかけられて、ボクはハッキリとした声で、

「この世界に来る前に居た、あのアーシャやシャロンちゃんが居る世界にね」

 そう告げたのだ。

「向こうの世界にやり残して来た事だってあるし、やらないといけない事だってある。それに、空ちゃんもあの世界にまだ居ると思うし一緒に元の世界に戻らなきゃね」

「そう言うと思ったから、こちらの世界に来た衝撃しょうげきか何かで少し壊れていたみたいだから、これを直しておいたよ、妖一殿」

 そうボクに手渡されたのは、向こうの世界で空ちゃんに作ってもらった、銀色の天使の少女が翼を大きく広げたさまかたどったペンダントである。

「え、いつの間に……」

「たった今。しかも強度を50%上乗うわのせして」

 ニッコリと、キッパリと告げる大きい空ちゃん。

 流石さすがは未来の空ちゃん。相変わらずの超科学者だぁ……。

「流石は昔のワシじゃのぅ。昔と言えど、精巧せいこうに作ってあって出来の良さにれしてしまいそうじゃのぉ」

 と、自画自賛じがじさんする所も何処と無く空ちゃんらしい。

「にしても……どうやってその世界に送り戻すかのぉ……。もう一度装置を壊せばいいかも知れんが、それじゃこの世界でも同じ様な事が起こりかねないしのぉ……。

 それに、例え同じ様に『次元トンネル』の様なものを作り出せても、同じ時空にどうやて戻すかのぉ……」

 天才超科学者の空ちゃんを持ってしても、どうやら戻るのは至難のわざらしく、うねり声を上げる。

 確かに、大きい空ちゃんの話からすれば、何とかという装置が壊れた末の、偶然ぐうぜんの産物があの世界への転移な訳だから、それをもう一度完璧に同じ様になる様にするのは難しいかも知れない……。

「やっぱり無理むり……かな、空ちゃん?」

「そうそう簡単にワシが『無理』だなんて言うとでも? 妖一殿」

 するどく恐ろしい瞳に変った空ちゃんの視線に、フッと息がまるボク。

 すると、次の瞬間には表情が元に戻り、

「まぁ、大丈夫だいじょうぶ。この『天才プリティー美少女 空ちゃん』におまかせあれっ」

 懐かしい手振てぶりと、ちょっと『プリティー不思議少女』からグレードアップした台詞せりふと共にし、そしてピースサインを見せる空ちゃん。しかも……昔には無かったものがあるせいか、大きく揺れていたりもする……。

「う、うん」

一時間くらいここで待っておれ。ワシはちょいと研究室にこもってくるからのぅ」

 と、ニコッと微笑ほほえんで、物置スペースとしてある場所のふすまを開けてから、例の小さな小窓が付いたオレンジ色の扉の中へと姿を消して行った大きい空ちゃん。そう、ここが研究室などの空間へと繋がっている扉なのである。

 しかし……ニコッと微笑んではいたけれど、瞳にはメラメラと燃える様な物を感じたのは、きっとボクだけだったのかなぁ……?

 ポツリと思うボクに、ピトッと寄り添う隣に座っていた大きなゆきめさんの姿。

 えっとー……。

 懐かしい様な、それでいて更に心をくすぐる柔らかい香りと、脳をコンマの世界で激震げきしんさせる腕の感触に、ボクは頭の中で言葉が浮いた。

 何か言わないと変に思われちゃう……なんて思ってるうちに、

「妖一さん」

 と、ふわっと浮く様な綺麗な声で呼びかけられちゃったボク。

「は、はいっ?」

 一つ、高くね上がった鼓動こどうと共に返した声が、そのまま表に表れ出てしまう……。

 そんな声に、一つクスッと上品じょうひんに笑って大きいゆきめさんは、

「妖一さん、大好きです。いいえ、今も、このころの妖一さんも愛してます。そしてこれからだってずっと変らず」

 ゆったりと心地よく流れる様に、気持ちをいっぱいに込めた声で告白したのだ。

 あ……。ボクの知ってるゆきめさんだ。

 ゆきめさんが放つ独特どくとくの空気に、ドキドキしながらもそう感じたボク。飾らないし、真っ直ぐな気持ちが伝わってくるのである。

 でも、ボクは……。

「あ。いいえ、別に妖一さんからの答えはりません。私の気持ちのままに伝えたかっただけですから」

 フフフッと、戸惑うボクの顔を見て優しい微笑を見せる大きいゆきめさん。

 何処か、ボクが知ってるいるゆきめさんより、大人っぽさが増してる様な気がするボク。

 それは「何処が?」なんて聞かれても上手く答えられないんだけど……。えて言うなら、ゆきめさんが持っているゆったりとした独特の空気に、大人の磨きがかかった様である。

 ボクは一呼吸のを置いて、

「ごめんね、ゆきめさん。この世界のボクは『答え』をもしかしたら見つけてるのかなぁ……?」

 ふと、問いかけてみた。

 どれくらいボクが居た頃から時がって居るのか、どの様に出会いなどが変ってるのか解らないけれど……もしかしたら、ここの世界のボクはこのボクが迷っている『答え』をみちびき出しているかも知れないからだ。

 すると、一呼吸を置いてニコッと微笑んだ大きいゆきめさん。

「はい、きっとその『答え』はコレだと考えられます。けれど、妖一さんは、それを本当に聞きたいんですか?」

 そうボクは問いかけ返されたのだ。

 本当に……?

 …………。

 ……………………いや、そうじゃないんだと思う。

 そう、きっとボクが知りたいのは答えの『結果』が知りたいんじゃない。その『答えまでの考え』が知りたいんだと思う。この世界でそう決めた答えまでの考えを、ボクは参考にしたいのかも知れない……。

 あ、そっか。そんなの参考にしたって仕方ないんだ。

 ボクは、そこまで考えて、ふと思った。

 ここは『今のボク』からあった色んな可能性を選択して行った、いっぱいある『もしもの世界の中の一つの世界』でしかない事を。

 さっきの大きい空ちゃんの説明から……きっとその様な事何だと、……曖昧あいまいだけど多分たぶんそう思う……。

 そうなると、これは『未来のボクの選択』なのに、今はもうすでに『もしもの過去の選択』なんだよね。だからまだ『今のボク』にはこれからいっぱい選択肢があって、まだまだ変わり様があるのだから、それほど参考にはならないって事を。

「ううん、やっぱりごめん。いいや、言わなくても。だって『今のボク』が考えて出さなきゃいけない事だしね」

 ニッコリと笑ってボクは、大きいゆきめさんに返したのだ。

 すると、大きいゆきめさんは嬉しそうに笑って、

「その方がやっぱり妖一さんらしくて、大好きで愛してます」

 グッと優しくボクの左腕を抱きしめた。

 と、言われてもボクには『ボクらしい』なんて解らないんだけどね。

「きっと、妖一さんの世界の私も『今の私』が思う様に、大好きだと思います」

 そう、昔の事を懐かしむ様な、今も変わらぬ気持ちを乗せた様な言葉で告げたのだった。



 ボクと彼女と彼女の縁結び記

 弟三十縁『ボクと戸惑いともしもの未来』

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