第二十八縁。
お待たせいたしました~! 今回は本編である『第二十八縁』ですっ!!
今回も例外なく(笑)いっぱい漢字にルビを振らせていただきました(汗)。読み難いかも知れませんが……良かったらこの先を読んでみてくださいね(輝)。
では、ズズイッと先にお進みくださいませ~。
ポツポツとボクの肩や頭に降り出したにわか雨が、次第に本降りへと姿を変えて行く。
ザァァァー…………。
それは、まるで全ての音を掻き消すかの様に降り注いで、太い木を背に立っているボクの存在を飲み込んで行く様にも感じてしまう。
「どう……しようか」
誰に言うでもなく、ふとボクの口から零れ出たそんな言葉。
見上げれば、そこにはこの森の葉と枝の間から見える黒い雨空が見えて、雲が黒いうねりを見せてる。
「どうしよう……」
再び零れた言葉に、ボクは顔を伏せて何処とない小さな笑みも一緒になって零れ落ちた。
……別に面白くもなんとも無いのにね。
と、ボクがそんな風になってしまったのは、この雨がまだ降り始めてもいない頃だった……。
「大丈夫なのかな~? 本当に一人にして来ちゃったけどさ」
森の中を先導する様に前を走るシャロンちゃんに、ふと問いかけたボク。
「大丈夫ですよ~フローラお母様なら。と、言うより別の心配事があるくらい……ですから」
あははは……と、渇いた笑いを交えつつ返すシャロンちゃん。
「別の?」
「ぇえ……そうですお兄様。フローラお母様って自分が楽しいと最初の目的を忘れちゃう事があるので、身の危険とかそういった事よりも、むしろこっちの方が心配ですねぇ~……。遊びになってなければいいんですけどぉ……果てしなく心配です」
「そりゃまたー……お茶目なお母様だね、シャロンちゃんのお母様って」
と、何処か苦笑いを浮かべたボク。
シャロンちゃんのお母様のフローラ様をあの場に残して、ボク達は森の中をさらに進んでいるのだ。
フローラ様のくれた薬のお蔭でシャロンちゃんも元気を取り戻しつつあるし、あのフローラ様の様子だと多分大丈夫なのかも知れないね。
ボクはそう思いつつ、
「そう言えば……ボク達って何処へ向かって走ってるの? シャロンちゃん?」
肝心な事を訊いて見る。
「この森をあと少し走ると、ここにも『魔転移通路』があるんだよぉ~」
レント? あー、確かあの光の異次元トンネルみたいなヤツね。
そう言えば、アーシャと一緒にババルゥまで行くのにも幾つかのそのレントを使って行ったっけ。
ふと、アーシャに訳も解らないまま案内されて行った事を思い出したボク。
「ここは今、まだ『エナ』の領土なんだけどー……元々はババルゥの領土だった場所なので隠し魔転移通路がまだ存在するんだよ~。隠してあるお蔭でまだ見つかってないみたいだし、きっと今でも使えると思うからねっ。コレを使った方が、色んな所に行きながらババルゥに帰るから相手に見つかりにくいし、魔力も消耗しなくて済むからいいと思うの、お兄様」
ニッコリと、説明して最後に微笑み向いたシャロンちゃん。
あ、シャロンちゃんに笑顔が戻ってる。
そう言っても完璧に疲れが取れてる訳では無さそうだけれど、何処かその笑顔に心が安らいだのだ。
連続の戦闘だったし、色々無理させちゃってたみたいだから、本当に良かったぁ。
なんて、ボクが安心したその瞬間、突然森の中から紅く大きなものが誕生したのを見たボク……。
「え……」
その紅く大きな存在に、一言漏らして言葉を失うシャロンちゃん。
何……あれ。
まさか……あれってロボット!?
ボクはその存在を目に、ボクの世界にある言葉が浮かぶ。
それは、二階建の家くらいの大きさがある人型をした二足直立をする、紅の上からオレンジでかっこよくカラーリングされた紅き機械である。騎士兜からユニコーンの様な角が生えた頭に、兜から覗け見える黄緑の瞳。肩には見事な装飾を施された騎士の肩アーマーの様な物をし、そこからは、まるで何百・何千枚もの羽根を重ねて出来た様な紅きマントをしている。マントからはふと何やら尻尾の様な物を見せる、大きくも細身の機体が少し離れた場所で姿を現したのだ。
あははは……何だかロボットアニメや漫画に出て来そうな機体……。
でも、ロボットだとしては何だか生き物の様に呼吸をしている様な気が……。
ふと、胴体を見ると、確かに一定のリズムで呼吸をしている様に動いているのだ。それだけじゃなく、この尻尾も何処か生々しい質感を見せていて生き物のモノの様に感じられる。
もしかして、コレってロボットじゃなくて生き物なの!?
「シャロンちゃんっ、コレってもしかして生きてるんじゃ……?」
ボクはこの目にした不思議な存在に、思い浮かんだ疑問を問いかけると、
「何でこんな所に『奏魔人』がいるの!?」
ボクの言葉はまるで聞こえてはいない様子で、それを見ながら驚き零すシャロンちゃんの姿。
ノヴァニス??
……あれ? 確か何処かで聞いた事がある様な……。
すると、ボクの中で、ふと、
『それはアレを……この世界に存在する最大の武器『奏魔人』を手に入れる為に大金を稼いでるのよ』
そんなあの彼女の言葉が思い浮かんだのだ。
え……武器って……ロボットだったの!?
「お兄様……まだアレはこっちには気がついていないみたい。だから今の内にこの場を離れましょ! もしも気づかれたら私じゃ絶対に逃げ切れないから……」
驚きながらも、冷静に判断を下すシャロンちゃん。
ボクは、驚愕をしながらも、シャロンちゃんの提案に頷いて返し、そして出来るだけ気配を殺してシャロンちゃんの後をついて行く。
流石はアーシャの妹だけあって、気配の殺し方は上手く感じるボク。目の前に居るという事が見えなければ、きっとボクはついて行けないんじゃないかなと思えるのだ。
気配を殺しながらも急ぐ様に逃げるボクは、どうかこちらを見ません様に……と祈りながら進む。
あれ? 何だかあの紅い機体、何処か疲れてる様な気が……。
大きく動く胸に、直立不動に見えていても、良く見えればやや前かがみになって見える姿勢。
そう、まるで人間が運動した後に疲れてる様な、そんな感じなのだ。
「お兄様っ、こっちっ!」
と、静かな声でボクを呼ぶシャロンちゃん。
すると、シャロンちゃんが呼んだ木と木の間のそこには、ひっそりと、まるで陽炎の様に霞み見える場所が存在しているのである。
へー……これが隠してあるレントなんだ。
なんてボクが思ったその瞬間……
「こんな所にも居たなっ! ランシャオ族っ!!」
機体からシャロンちゃんを発見した女性の声が聞こたのだ。
マズイ!!
そう直感したボクはその場から勢い良く前へと跳び、そのままの勢いでシャロンちゃんをレントの中へと押し飛ばしたのだっ。
その直後、ボクの手より少し先の地面が大きなアリ地獄の様な形だけを残して、一瞬にて消滅したのである……。
間に合って良かった……。
ボクは地面に腹ばいになりながら一つ大きく息を吐いた時には、今まであったその紅き存在は姿を消し去っていたのだった。
チャッチャッチャッチャッ。
俯いたボクは、何処から聞こえて来る足音に気が付いた。
それは、濡れた道をこちらへと駆け走る足音である。
「うわぁ、びっしょびしょに濡れたぁ~。あんたもこんな所で不運だね~」
大きなこの木の下へと入るのと同時に、そんな言葉をかけられるボク。
ふと、声をかけられた方へと向くと、そこには二人の美少女の姿がニッコリと微笑んでいたのだ。
一人は、170くらいの身長をした赤いショートカットにライトグリーンの綺麗な瞳と端麗な顔立ちをしており、細身にしてはやや膨らみのある胸とスタイルのいい体を、ヘソ出しの赤いTシャツに黒のジーンズジャケットとやや生地が厚そうな黒のミニスカートという服装で包み、腰には80cm以上ありそうな長剣を鞘に入れて携えている高校生くらい美少女。
そしてもう一人は、背が低くく幼い顔に白銀のサラサラなロングストレートをお尻の辺りまで伸ばし、同じ様なライトグリーンの綺麗な瞳と端麗な顔立ちをし、青みを帯びた何処かの民族衣装風の薄布のワンピースを着た美少女である。
「フレイアとアシュレーも、ちょっと不幸」
赤い髪の美少女の後ろに隠れる様に、フワッと浮いている彼女は、まるで天使の様な綺麗な声でそう漏らす。
「まーねっ。ウチも色々あってこの有様だし、もしかしたらアシュレーが思うちょっと所じゃないくらい不幸かもねっ」
ビショビショに服を濡らした彼女は、ニッと、不幸と言いつつも元気そうに笑みを見せて隣の彼女に返す。
「でも、アシュレーは濡れる事も無いからいいじゃないっ。ウチなんて、ほらっ、見てみてよこの有様……。これで風邪でも引いたら冗談抜きにホント最悪だって」
「フレイアなら、大丈夫。フレイア、元気だけなら誰にも負けないから」
クスクスと可愛らしく笑いながら、フレイアと呼んだ彼女に、
「だけって何さ、だけって」
と、笑いながらツッコまれるのである。
……なんだろう、この人達って。髪色は違うけど、顔は似てるから姉妹って感じだけれど……。
そんな突然現れた二人を呆然と見ていたボクは、
「あ、ごめんっ。ウチはフレイア=シュレイドで、隣に浮かんでる子が妹のアシュレー。ちょっと色々あってこんな所で休憩がてら雨宿りって訳。
で、あんたは? 何だか元気無さそうだったけど、どうしたの?」
フレイアと名乗った彼女にウィンク一つして問いかけられたのだ。
「話したくなかったら、別にそれでいいと、思うよ。フレイア、ただのお節介焼きさん、だから」
半分隠れながら、柔らかく微笑んで言う彼女、アシュレーと言われた彼女。
「あー、はいはい。どうせウチはお節介焼きお姉ちゃんですよー」
「うん、お節介焼きお姉ちゃん。でも、そこがいい所だと、アシュレーは思うよ」
「褒めてるんだか、貶してるんだか……姉ながら今でもホント解らん性格してるなぁ」
頭をポリポリと照れくさ隠しに掻くフレイアさん。
なんだか二人を見ていると、ちょっとした漫才を見ている様な気にもさせてくれる気がするボクは、
「あはははっ」
自然と自分の口から笑いが零れたのだ。
「何だ、いい顔出来るじゃん、あんた。その方が美人さんでいいよ。その雨に濡れて薄っすらとブラウスから覗ける肌もセクシーだし」
と、言われた時、ボクは今更になって気が付いた。ボクは今は女の子の体になって、メイド服を着ている事に。
ゆっくりと意識して視線を胸へと落とすと、そこには小さくもブラウスから覗けるふっくらした肌色が見て取れるのだ……。
その瞬間、何とも言いようが無い恥ずかしさがブワッと込み上げ、耳を熱くさせる……。
「気にしない気にしないっ、どうせ女同士だし、同じ物が膨れてるか膨れてないかぐらいの違いだしね~」
あはははっ。と、笑いながら、その生地が少し少ない赤いTシャツをペロリと捲り見せるフレイアさん。
すると、ペロリと捲られたそこには、綺麗な肌色の形のよさそうな胸が、何も付けぬままドーンッと姿を現すのである。
……え。何で下に何にも着てないのっ!?
「フレイアのは、膨れすぎ。アシュレーに、少し分けても、きっとバチ当たらないと、思う」
ペチペチと自分の胸を叩いたアシュレーちゃんは、ギュッとフレイアさんの胸を摘み、
「いやいや、摘んでも取れないし分けられないから、アシュレー……」
冷静に手振り付きでツッコまれる。
「いつかアシュレーもウチみたいに大きくなるから大丈夫大丈夫。心配は要らないって」
そう言いながらアシュレーちゃんの手を退かしてTシャツを戻す彼女。
「アシュレーの分の、栄養までフレイアが持って行っちゃってたら?」
「こうゆうのは精紋みたいに親から子どもに継承されるから大丈夫だからねー……」
「ダメだったら、フレイアの、搾乳して元に戻すからね」
「『元』とか良く解らないって。それにウチは牛や山羊じゃないから」
アシュレーちゃんの何処まで本気か解らない微笑みと言葉に、苦笑い一つするフレイアさんは、
「で、どうしたのあんた?」
ニッコリと笑って再び問いかけたのだ。
本当に漫才を見ている様だったボクは、ふと二度目の彼女の問いかけに、
「色々あって、ボクを助けてくれた娘とハグれちゃったんです。知らない場所で、それも大きなこんな森の中で。そしたらハグれちゃった子も心配だし、雨も勢い良くなって降って来ちゃったし、どんどん不安に駆られちゃって、何だか悲しくなってきて……」
苦笑いを交えつつ端折って答えたのである。
見るからにシャロンちゃん達とは肌の色も違う彼女達に、名前とか全部を話していいのか解らないので簡単に伝えたボク。
「ふーん、そっか~。だからその服が泥とかで汚れてるのねっ。
と、言うか、そんな何やら特別な事が無い限りこんな森に人が居る訳も無いかー」
ボクの説明に、ふむふむ。と、頷いて、
「そうだね~、そのあんたを助けに来てくれた娘も無事だといいねっ。ううん、きっと無事だから、あんな暗い顔してちゃダメだって。迎えに来てくれた時にその娘が心配するしね」
ニッと笑って優しい言葉をかけてくれたのだ。
この人達……ちょっとしか話してないけど、凄く優しい人達なんだなぁ。何だか一緒に居るこの空気事体が、そんなのを醸し出してる気がする。
「その娘がフレイアじゃ無くて、本当に良かったね。フレイア、方向音痴だから、アシュレー居ないと何処で迷うか解らないから」
「だからそれは、世界がウチを惑わすんだって。ウチは真っ直ぐ目的地に向かってるつもりなんだからさー」
「それを、この世界では、方向音痴と、言うんじゃない?」
と、クスクス可愛らしく零すアシュレーちゃんの姿。
そしてつられる様にクスクスと笑いが零れてしまうボク。
本当に二人を見ていると飽きない気がするのである。
雨音が響く中、ボクとアシュレーちゃんの笑い声が小さく咲いた次の瞬間、微笑みを浮かべていたアシュレーちゃんの顔からスッと笑みが消え去り、
「フレイア、体力と魔力、どれくらい持ちそう?」
そう今までとは違う真剣な声で問いかけた。
「……そうね、大きく見積もっても、正直に大体いつもの三分の一くらいって所かな」
「一人だから十分、だと思うけど、一気に仕上げた方がいいと思う、アシュレーには」
「アシュレーこそ平気? ウチよりも負担が大きいのに?」
そのフレイアさんの問いかけに、クスッと一つ零して、
「……この身体になってから、そんなのは慣れたよ、フレイア。それに、アシュレーとフレイアの目的を果たすまで、アシュレーは頑張れるから、心配は要らない」
言葉に魂の様な物を込めて、告げるアシュレーちゃん……。
「そうだね、ウチはアシュレーの事信じてるっ。それじゃ迎え撃とうかアシュレー」
ニッと笑みを零して、
「それじゃ用事が出来たから行くね。また何処かで会えたら気軽に声をかけてよっ。ハグれちゃった娘と元気に再会出来る事信じてるから、頑張ってねっ!」
ボクに手を振って、やや離れた場所へと走る彼女達。
そして、ふと止まったかと思ったその刹那……。
『……光と影の理において制約せし我らが汝
我らと汝がもちて 今ここに悪を討ちつくさん……』
呪文を詠唱するかの様な二人の声が重なり聞こえたのだ。
その二人の詠唱にまるで共鳴するかの様に、辺りの空気がズズズズッと振動し始めるのである……。
「我が身に宿りし焔焼の鉄槌
この贄と共にその扉の楔を解き放つ」
アシュレーちゃんの詠唱と共に、その小さな体が紅く輝きを放ち、
「我らと汝をもちて一つの魂とす
今 我らが願いと神炎の名の共に……」
フレイアさんの詠唱と共に、同じ様に身体が紅い輝きに包まれ……
『等しく全てを焼き尽くさんっ!
我らの声に清浄の劫火となり目覚め降臨せよっ! スウォームシェイガー!!』
二人の力ある言葉と共に、眩しいくらいの紅い輝きを見せた二人の姿はその場から消え去ったのだ。
そして、二人の姿に代ってそれは、ボクの前に大きく勇ましい姿が現れたのだった……。
ボクと彼女と彼女縁結び記
第二十八縁『ボクと雨とシュレイド姉妹』