番外縁。
ほんっっっとぉ~にっ! お待たせいたしましたぁ~!! 今回もやたらルビが多いのですが……多くの人が漢字に対して抵抗感を覚えないように思い、毎回多く振らせて戴いてますっ(汗)。
えー……今回はタイトル通りに『番外』のお話です。ですが……主人公『妖一』君からは語れない部分を書いてますので、ある意味『番外とは言い辛い』お話になっています。
そんな『番外縁』ですが、良かったらこのまま先を読み進んでみてくださいね~☆
ではでは『ボクと彼女と彼女の縁結び記 番外録』の始まり始まり~(パチパチパチ~)。
「うぅんっ。さぁ~てとっ」
それは、背中まで伸びた水色の綺麗なロングの髪を一つに結い、背は低めながら見事なプロポーションを黒のハイソックスにジーンズ風のショートパンツと紺のブラウス、そして紺色のマントに身を纏った17、18の高校生くらいの少女が、背伸びを一つする。
よかったぁ~。中々シャロンちゃんに逢えないから様子が見れなかったけどぉ、いい子に育ってくれててフローラちゃんホント安心したよぉ~。
なんてポツリと胸の中で零した彼女、フローラさん。
一見、そんなまだいくらか幼そうに見える彼女でも、実際は11歳の娘を持つ母なのである。
と、なると……実年齢は幾つなんだぁ!? なんて気になる所だけれど、きっと本人に訊いて見ても、語尾にハートマークが付いた口調と共に微笑んで返されるだけで、真実は語られないのかも知れない。
シャロンちゃんとヨウイチちゃん、この後無事に逃げれるかちょっと心配なんだけどぉ~……まぁ~多少の困難を一緒に経験してゆくのも色々と効果的でいいかも? うん、きっとそうだよねっ。
ガンバッ! シャロンちゃんっ! フローラちゃんの為にも頑張って可愛い孫の顔見せてねぇ~。
と、崩れたニンマリ笑顔のまま森の中で立つそんなフローラさんの姿は、きっと森の中では出くわしてはいけない危険人物なのかも知れないと、これをふと覗けてしまった誰しもが思うかもしれない……。
さぁ~て……半分本気の冗談もこの辺にして、そろそろ迎え撃たなきゃねっ。
あ……久々の戦闘になるから感覚が鈍ってるし、ちゃんと力加減出来るか心配だなぁ~……。殺さない様にってシャロンちゃんと約束したしぃ……。ちょっと二・三人間違っちゃったら、軽く埋めて誤魔化しちゃおっかなー。きっとバレないと思うし。
真剣な表情を浮かべて首を傾げながら、とんでもない事を考えてるフローラさん……。
さてさて……この後どうなる事やら。
そんなフローラさんに、やがて一人の女性が地中にある穴の中からフワリと浮かび上がったのだった。
それは、黒のTシャツにフード付きの赤いパーカーと、茶色のハーフパンツジーンズを着て、赤い色をした瞳にブロンドの髪を背中にかかるほどの長さの三つ編みにした、細身の綺麗な女性である。
「ただの通行人。って訳じゃ無そうね、アナタ」
ストッ。と、ゆっくりとした動きで地面に着地した彼女は、目の前に居る彼女、フローラさんに鋭い口調で問いかける。
「う~ん……通行人って言えばそうだし~、そうじゃないって言えば、そうかも?」
相変わらずな、ひょろんっとしたまま彼女の問いに返したフローラさん。
そのまるでおちょくる様な言葉と態度が彼女を逆撫でたのだろう。フローラさんを見る彼女の視線が更に鋭くなり、明らかに怒った様子が見て取れるのである。
「……そう。ここはエナの領土だってアナタは知っててここに立っているんだよね? ここで起きた事は全て自己で責任を持つって事。だから例え殺されたって文句は言えないって事を」
「あらら、そうだったのぉ~。フローラちゃん、そんな事を全く知らないまま知り合いと逢う為だけにここに来たからー……ごめんなさいね~」
その言葉に、ピンッと来た彼女は、状況を把握し、
「あの子達は何処(dこ)に? 素直に話すのならそれほど痛い目に遭わなくても済むけど……そんなつもりはここに立っていた時点でないみたいね」
淡々と語りながら一つ横に飛び退いたのだ。
この子、頭もいい子なのねぇ~。力も十分あるみたいだし。
「まーね~。それじゃ話が早いし、ちゃっちゃっと始めましょ~か?」
ニッコリと笑顔で返すフローラさん。
その瞬間、はらりと微かに身を動かしたかと思えば、今までなんとも無かった地面に焼け焦げた痕がくっきりと刻まれているのである。
「…………」
「う~ん、そことそことそこと、あっちとあっちに、そして後ろに二人。上空全部10人で間違ってないよね?」
一瞬の出来事に沈黙する彼女をさて置き、虚空を順々に指差して、そう確認を伺うフローラさん。
「視界結界魔法で隠れてるつもりだと思うけどぉ、これって大気中に微量の魔力を感じちゃうから解る人には意味が無いって知ってたぁ? あ、でも森が発する力の流れの中で魔力を紛れさせてるっていうのは、凄いと思うよぉ~」
と、ニッコリと問いかけて感嘆するのである。
魔法で姿が見えない相手を、大気中に漂う微量の魔力だけで見つけ出したフローラさん。しかも、森からも力が流れている中で、それだけを見つけたというのである……。
「やや上手の様ね。でも、それでも何とかしてみようじゃない」
それだけを言うと、彼女はサッと瞬時に森の中に身を潜めたのだった。
あ、さっきまでの気配が感じ無ぁ~い。まだ幼そうなのによほど慣れてるのね~こうゆう戦闘。
それって……何だか凄く不幸ね……。そうゆう技術がないとこの世の中では生きていけないって事だから。
ふと、表情に陰りを見せたフローラさんは、さらにポツリと一つ胸の中で零した。
これもランシャオ族ゆえにかぁ……。
という言葉を。
! 右前方からっ!
ビュォォオオオッ!!
突然感じたものに反応したフローラさんは、瞬時にはらりと燃え盛る炎の矢を避けきったのだ。
危なかったぁ~……ちょっと考え事して……!?
まずいっ! 今度は全方向からだぁ~……。
と、不意を突かれた一撃を避けきったのもつかの間、次の瞬間には、全方向から襲い来る強い魔力を体が感じ取ったフローラさん。
これでどう? いくら魔力を感じる事に優れていたとしても、不意の攻撃から転じた全方向からの烈火炎矢の集中砲火は? 例え気がついたとしても魔法が間に合わないんじゃない?
木の影に隠れながら、胸の中で零す彼女。
そして彼女の思惑通りにか? フローラさんの立っていた場所から連続する大きな爆発音を森に響かせたのだ。
放たれた魔法によりモクモクと上る爆煙に、薄ら笑みを浮かべる彼女の姿。
やがて煙が晴れた時、彼女が見たものは……。
そんなっ……風の結界だって!?
そう。爆煙が晴れた時、彼女が見たのは淡い青色の球体に身を包み纏ったフローラさんの姿。
あれだけの烈火炎矢を風の結界一つで……。
その事実に驚愕を見せる彼女。
ふぅ~……呪文の詠唱が中途半端のまま発動させちゃったけど、何とか成ってよかったぁ……。
と、フローラさんが苦笑いを浮かべるのと同時に、全方向からの炎の矢を防ぎ切った風の結界は、まるでガラスで出来た球体がパンッと粉々に砕け割れる様に綺麗に割れ、その場から消滅したのだ。
そっか……解った……アナタの特化属性もあの子の様に『風』ね。特化属性には本来の力よりも数段の力が上るからねぇ……。
木の陰から気が付かれない様に覗き見ながらそう分析する彼女。
動きも勘も良く、防御系・即発性にも長けた風を特化してるか……。正直やり難いわねアナタとやるのは。
……でも、それでも私はこんな所で負けてなんか居られないっ。アナタなんかに躓いてられないっ。
と、彼女は強く心の中で思う。
さぁ~てさて……気配は全く感じ取れないし~、魔法を放った後の魔力を消す技術も高いみたい……それに全方向から魔法を放ったお蔭で辺りから魔力の流れが漂ってるから、探しにくくなってるっと。おまけに意外に統率力もあるからややこしさ倍々よねぇ~……。
この際、大技で辺り一面を薙ぎ払っちゃった方が楽かも~?
そう一つ右の掌を頬につけて考えるフローラさん。
ビュッ! ピキペキピキッ!! ブゴォッッッ!!
突如真後ろから狙われた氷の矢の魔法と、今まで立っていた足元から鋭く尖って突き上げる岩の魔法の二つを、高さのあるバク宙で軽々と優雅に避けるフローラさんは、直ぐ様一つ呪文を詠唱するっ。
「浮遊空域結界っ!」
ドドドドドンッッッ!!!!
空中で魔法を解き放った瞬間のフローラさんを、四方と上空からの烈火炎矢が包み込んだっ!!
ちっ。
爆煙を纏うフローラさんを見て、一つ舌打ちする彼女。
後方と地中からの魔力を感じて飛んだはいいけどぉ……直ぐにもう一つの魔法に気がついて反撃用に唱えてた呪文をキャンセルして、魔法を防御へと回して正解っ。危うく黒焦げに成る所だったぁ……。
ふぅ~っと風の結界に中で胸を撫で下ろすフローラさんは、直ぐに気配を探る。
あちゃぁ、皆、魔力と気配を消すのが上手いから、見当たらないねぇ~。
ふと心の中で零すフローラさんは、ゆっくりと地上に降り立ち風の結界を解いて、
「ねぇ~、何でそんなにあの子達を追ってるのぉ? あの子達が何か君達にしでかしちゃったりとかかなぁ~??」
と、唐突に辺りに居るだろうシャロン達を追って来た彼女達に問いかけ始めたのだ。
シャロンちゃん。なぁんてありふれてるけどぉ、名前で王女様ってバレたら大変だもんねぇ~。シャロンちゃんのあの口ぶりからすれば、きっとアーシャちゃんとかに断り無く出て来てるだろうし~、後で怒られちゃうもんねぇ~。
フローラさんの問いかけに、しばしの沈黙を置いて、
「私達の目的の為にあの子が必要なのよっ! この世界を変える為の力が少しでも多くねっ!!」
何処からともなく、返答が森の間を抜けて来たのである。
そう、あの子の精紋の無い底知れない未知の力が私達には必要不可欠……。世界から弾かれた私達がこの世界を創り直すにはねっ!
だから、ここで負ける訳には行かないっ!!
思わず握った手に力が入る彼女。
……あ、一瞬右の奥に方で気配が生まれた様なぁ……。
グワッと漂った気配の方へと視線を向けるフローラさん。
!!
その瞬間、早口にて呪文を詠唱し、
「浮遊空域結界っ!」
再び風の結界を作り出したっ!
ドドドドドドドドドッッッ!!
先程よりも威力を増し、数も増えた烈火炎矢がフローラさんを襲うっ。
何とか持ち応えは出来るかな?
風の結界を張りつつ、凄まじい烈火炎矢を防ぎながらそう思うが……。
ズドォッ!!
更に一段と大きい衝撃の一撃が結界を襲ったのだっ。
くぅぅぅ……これ、結構効いてるかも……。精紋を発動させちゃうけれどぉ、もう一段上の『翔風域結界』に変えて方が……。
爆煙に包まれる結界内で、一つ苦笑いを浮かべるフローラさん。
「厚い風の結界を作る『翔風域結界』をも貫くこの『烈貫炎撃矢』を防いでるなんて……」
強力な魔法さえも堪えるフローラさんの風の結界を目の当たりにして、彼女は思わず驚愕の言葉を漏らしたのだ。
ならもう一撃っ! ってしたい所だけど、さっきまで追っていた時の魔力の消耗と、術者のレベルを考えると無理ね……。
仕方ない……もしかしたら魔法の完成前に気が付かれて反撃されるかも知れないけれど、私がこの術で何とかするしかないっ……。
彼女は一つ苦渋の決断を下し、呪文を詠唱し始める。
すると、フローラさんの上空にて空間がやや歪みを見せ、それと同時に大きな魔力が蓄えられて行くのである。
「……え?」
爆煙に包まれ辺りが見えず、強力な一撃を堪えてながら中々新しい魔法の呪文を詠唱出来ないでいるフローラさんは、頭上に集められていく魔力に反応した。
が、
「どうしよぉ……早く何とかしないと大変な事にっ。でもこの状態じゃ完璧に呪文の詠唱が出来ないで不完全なままで発動する事になっちゃうし~……」
その存在に反応するも、それに対して上手く対処出来ない様子。
迷ってる暇は無ぁ~いっ、不完全でもいいから何とかしなくちゃっ!
と、直ぐ様に頭を回転させて、そのままの状態で呪文の詠唱をし始めた。
やがて彼女の呪文の詠唱が終わり……。
「重魔降雷轟撃っ!」
力ある言葉と共に魔法を解き放ったのだっ!
ズガズガシャァァァッッッンッッッ!!!
物凄い轟音を森に響かせ、迷いの無い太い一筋の青白く輝いた道を、上空で歪めた空間から降臨させたのだ……。
その凄まじい威力に、大地を大きく亀裂させドス黒く焦がし、降り注いだ一面の草を消滅させている。
そして、風の結界を張りつつ呪文を詠唱していたフローラさんの姿は……。
「間に合ってよかったぁ……」
と、冷や汗を腕で拭いつつ、安堵の声を漏らすフローラさん。
その足場を見ると、黒く焦がし亀裂で窪んだ大地の直ぐ隣に立っていたのである。
「……避雷撃ねぇ」
彼女がゆっくりとした悔しそうな口調で、ポツリと零したのだ。
良かったぁ、一瞬『突貫岩撃』か『雷招撃』で迷ったけど、こっちの『雷招撃』で遠くに誘発させて~……。
まじまじと、その誘発させた場所の痕を見て、軽い身震いがするフローラさん。
で、やっぱりこんな大きな魔法をしたって言うのにぃ……隠れるのが上手いのねぇ~……。魔力もいっぱい漂ってるし~。
う~ん……それじゃコレで何とかしてみようっかなぁ?
フローラさんは一つ呪文を詠唱して解き放ち、三度風の結界を張って空中に浮かび上がるのである。
浮かび上がり、何をするかと思えば、その空間に止まりつつ新しい魔法の呪文の詠唱に取り掛かったのだ。
何か来るっ! ……クソっ、力が全力で出せない夜以外で強い魔法を放った影響で体が頭についていけないっ。
ガラ空きのフローラさんに反撃に移りたい彼女だが、先程の魔法で少々力を使ってしまった反動で、上手く体が動けない様子。
よいしょっと。あとこれと……。
ふと呪文を詠唱し切ったフローラさんは、その魔法を待機させつつもまた新しい魔法の呪文を詠唱し始めたのだ。
十分に力が発揮出来る夜でも無いと言うのに、風の結界を張りつつコントロールし、完成させた魔法を待機させ、さらに新しい魔法を準備するフローラさんは、やはり只者では無いのかも知れない……。
やがて呪文が詠唱し終わり魔法の準備が出来たフローラさんは、右の掌を下の森へと向けて、
「魔風圧激波っ!」
待機させていた魔法を解き放ったのだっ。
バフゥゥゥッ!!
魔法を解き放つと同時に、フローラさんを中心としてやや激しい風が辺り一面の森に波紋状に広がったのである。
風の力に木の先がやや折れそうになるものがあれば、全く風を受け流している木もあり、その威力はどうやらそれ程強いものでは無いらしい。
? 一体これで何をしようと??
攻撃らしい攻撃を受けた訳では無い彼女は、そのフローラさんの行動に困惑の表情を浮かべる。
が、しかし次の瞬間、突如唱えてもいないのに包み込んだ風の結界に、一つ悪い予感が脳裏を走ったのだ。
突如出現した風の結界は、彼女だけではなく、辺りに隠れていた10人へもそれぞれ包み込んでいたのである。
クソっ、急げっ!
悪い予感が走った彼女は早口に呪文を詠唱し始めるっ。
……流石ぁ~、やっぱり頭がいいのねあの子。この感じからすると何が起ころとしてるか理解が出来てるみたいだしねっ。
二つ目の魔法を解き放ったフローラさんは、更に魔力を注いで行く。
すると、風の結界で包み込まれた彼女の仲間達が、次々と蹲り、そして苦しそうに倒れては気を失って行く……。
よっと。
と、しばらくしてから地上に降りたフローラさんは、
「起きていいよぉ~。倒れたフリだって解ってるから」
にっこりと微笑んで、倒れている彼女へと声をかけた。
「……アナタ、本当に強いね」
ゆっくりと立ち上がった彼女は、その恐怖に震えながらもフローラさんに睨みを利かせるのである。
「魔力も気配も出来るだけ消してた私達をどうやって見つけたかは解らないけど、アナタってそれ以前に凄いわ」
恐ろしさに渇いた笑いを浮かべつつ、彼女は言う。
「ん? あ~、ホント君達って凄いのっ、フローラちゃんって、魔力とかそうゆうの凄く敏感な方なんだけど、何も感じ無いし、やたら攻撃した魔力は漂うしで探すの大変だったよぉ~。
だ・か・らっ、辺り一面をフローラちゃんの魔力で覆って真っ白にして、その中でふと浮かんだ違和感がする場所を見つけ出したって訳よぉ~。
で、見つけ出した人達を風の結界で包んで、結界内の酸素を死なない程度徐々に抜いて行ったのよねぇ~」
そうフローラさんは、凄い事をしつつも物凄く恐ろしい事を、それはまるで子どもの様な笑顔で説明したのである……。
「でも凄いねぇ~、それに気が付いて風の結界の内側から自分の風の結界を作って無効化させるなんて、やっぱり凄いねぇ~……」
敵である彼女を前に、感嘆するフローラさん。
私、勝てないかも知れない。でも……。
「私はもう逃げも隠れもしないから、互いに力を込めた一撃の真っ向勝負を受けてっ」
うんうんと頷くフローラさんに、真っ直ぐな瞳で決闘を申し込んだ彼女。
ここでどうにも成らなければ、もう先なんて進めそうに無いかも知れない。
……けれどっ! 私は自分自身とも戦うっ!!
気迫のあるその真っ直ぐな瞳に、フローラさんは「うん、やろうっ」と頷いたのだった。
ここは、先程の森からやや離れた辺り一面の木々がひらけた場所。向かい合って決闘するには持って来いな場所である。
「私はコレでキメるっ!」
と、互いに十分な距離を取った場所から彼女は、パーカーの背中裏から、掌よりやや大きいサイズの真ん中に穴の空いた円盤状の刃物を取り出したのだ。
「あれって確かぁ~、チャクラムだっけ?」
ふと目にした武器に首を傾げるフローラさん。
チャクラムなんかじゃフローラちゃんの風の魔法には勝てないけれどなぁ……。
そう思っていると、突然彼女の左肩が緑色に輝きだしたのだ。
それは、二重の円の中に何やら文字が描かれており、円の中央にトランプのダイヤの形が刻まれている精紋が緑色に輝いているのだ。
クッ……精紋を発動させると体力を消耗し続けるから……今の状態だと厳しいかも知れない……。
でもっ! 全力でぶつかるのみよっ!!
彼女はそう思いながら、呪文を詠唱し、
「重魔降雷轟撃っ!!」
力ある言葉と共に魔法を解き放ったのだっ。
すると、やや上空を歪め解き放たれた一筋の凄まじい雷は、彼女の手に持たれたチャクラムへと力を宿したのであるっ!
へぇ~……。一部の特別な人にしか特化として使えない『雷』の属性魔法を使える時点で凄いって思ったけどぉ~……精紋の能力も凄いね。多分あれは、唱えた魔法を手に持った物に付加と定着させる能力かも。それが証拠に、流れ消えてしまう『雷』が消えずに武器に宿ったままだしねぇ~。
彼女の様子から、分析をするフローラさん。
この『雷』が宿ったチャクラム……その速さは神速を越え、威力は何倍にもなった雷と同等程度っ。今、私が出来る最大攻撃にかけるっ!!
グッと、チャクラムを握る手に力がこもる彼女。
それじゃぁ……こっちも。
何やら思いつき、右手を地面につけて呪文を詠唱し、
「突貫岩撃」
何故か語尾にハートマークが付きそうなくらいに柔らかい口調で魔法を解き放つフローラさん。
ググゴボッ。
その影響かどうかは解らないが、やや軽い音を響かせて、大地から同じく掌よりやや大きめの黒い石で出来たチャクラムを作り出した。
そのチャクラムを作り出すと、突然フローラさんのジーンズ風のショートパンツに隠された左足の太腿付け根辺りが青い光で輝き始めたのだ。
うぅ……久々の精紋の発動だから、この疲労感にものすっごく違和感を感じるぅ~……。
なんて思いながらも再び呪文を詠唱し始め、チャクラムを持ったまま右の手を彼女へと向けて、
「風束滅波域っ!」
魔法を解き放ったのだっ。
それは、彼女へと向けた手の前で空間が揺らめき、それと同時にまるで辺りの空間が歪められた一点に収束される様に大気が集まり、作り出したチャクラム事飲み込んだのだ……。やがて歪みが止まったと思えた時には、掌の前に掌大の緑色の球体が現れたのである。一見普通よりも小さな風の結界にも思える球体。
……あの球体、あんなに小さいのに凄くヤバい。そう全身で警告を鳴らしてる様に感じる。それにあの光、きっと精紋だと思うけど……発動した瞬間から身がピリピリしてくる……。
発動されたフローラさんの精紋と生み出されたその球体を前に、嫌な汗が背筋を伝い流れ落ちた彼女。
そして、ふー……っと、ゆっくりと大きく息を吐いて、
「準備はいいっ!?」
「うん、いいよぉ~」
「それじゃ、互いに『1・2・3』のタイミングで勝負っ!!」
勝負の仕方を確認する。
「1っ!」
彼女が始めのカウントを叫び、
「にぃっ!」
フローラさんがセカンドカウントを上げ……。
そして、
『3っ!!』
互いにラストカウントを気合と共に吼えたのだっ!
その刹那、互いの手から撃ち出されたチャクラが、音も無く凄まじいスピードで喰らいにゆくっ!!
彼女の手から撃ち出されたその瞬間、強大な雷の威力で大地が大きく半円状に削り取りながら真っ直ぐに向かうチャクラム。
フローラさんの手から撃ち出されたその瞬間、走る空間を連続して小さく歪めながらも真っ直ぐに向かうチャクラム。
互いにその凄まじい威力と共に衝突し、そしてっ!!!!
バタンッと、人が後ろへ倒れたのと同時に、雷が落とされて轟音を轟かせるのと大爆発を起こした様な爆音が重なったのだ……。
倒れた相手へと歩み寄ってくる足音を、耳にする。
と、言う事は負けたとしても生きてはいる様である。
ふと、その手を負けた相手へと差し出す勝利者。
「……なぜ?」
そう問われて、差し出した手がピクリと止まる。
「なぜ?? う~ん……フローラちゃんには言ってる意味が解らないんだけどなぁ~……」
差し伸べながら、不思議そうに首を傾げたフローラさんの姿。
「なぜ……殺さなかった。私のチャクラムを打ち消すほどの威力なら……この程度で済むハズが……無いじゃないっ」
凄まじい攻撃で着ていた服はボロボロになり、破れた服から大きく胸などが露出した彼女は、悔し涙で顔をクシャクシャに歪めながら問いかけたのだ。
「え? 殺されたかったのぉ?」
涙でクシャクシャの彼女に、いつもと変わらない何気ない口調で問いかける。
「私は全力で……私の運命をもかけて臨んだの……。なのにっ、負けて死ぬのならまだしもっ、敵に情けをかけられて生かされるなんて……」
全身の痛みと疲労感で体が思う様に動かせられないながらも、悔しさから唇をキュッと噛む彼女の姿。
「う~ん……殺して欲しいのならこの場で息の根を止めてあげてもいいけどぉ……別に殺さなくてもいいんじゃない? と、言うか今のでフローラちゃんも楽しめたし、そこに生き死にが何とな~く付いてくるかもってくらいでいいじゃなぁ~い。何もそれだけが全てじゃないって思うしねぇ~。それに『生きるって事』はそうやって簡単に『死ぬ事よりも大変な事』だとフローラちゃんは思うし~、それが『生き残った事が屈辱』なんて思ってるなら考え方を変えてみたらどうかなぁ?」
そんな彼女の血を吐く様に言う言葉に、ニッコリと微笑みを浮かべて悠長に答えるフローラさんは、続け様に、
「う~ん、それじゃこう言う事でいいじゃん。そう『運命が、君はまだ生きて居なさいって言っていた』って事でぇ~」
語尾にハートマークが付く、甘く柔らかい声で完結させるフローラさん。
その言葉に、
「『運命が生きて居なさい』ね……。なら、私はこのまま自分がやるべき事・やろうとしてる事を続けてもいいのかも知れないのね……」
篤い涙を零しながら言う彼女の姿。
世界をかぁ……。同じランシャオ族だから気持ちは少しは解るかなぁ、フローラちゃんも。
でもね。
「あの子達にまた手を出すって言うならフローラちゃんが何度でも立ちはだかって邪魔させて貰っちゃうからねぇ~」
と、右の人差し指一つ立てて、ウィンクをしながら警告するフローラさん。
そして、
「心に留めておくわ」
涙を零しながらも微笑みを返した彼女。
そんな二人の姿が、ここにはあったのだった。
ボクと彼女と彼女の縁結び記
番外縁『王妃様と彼女と負けられぬ気持ち』
と、言う訳で、ここまで読んでくださってありがとございましたっ! お疲れ様でした!!
今回、何気にいつもより長くなってるという罠(なのか??)で、すみませんでした~……。ある意味で番外って事だったので、前編後編と続きにしないで書き切ってしまったので長くなってしまいました(反省)。
さて、そんな今回のお話ですが、どうだったでしょうか? 妖一君もシャロンちゃんも出て来ない、あの二人のお話。何となく、ここ(番外縁)を全部切ってしまうのは勿体無いなぁって思えて、時間はかかったものの気合で書いてみました(テヘッ)。まぁ……楽しんで読んで貰えたら、凄く嬉しいなっ☆ と、いった感じです(輝)。
またいつかこんな感じに『番外縁』をやるかも知れませんが、良かったらその時もお付き合いして頂けたらなって思います。では長々と話すのも何なので、後書きもこの辺に。それではまた次回に皆様と逢える事を楽しみにして、この辺で~(ペコリと一礼と共に)。