第二十七縁。
お待たせいたしました! 色々あって、やっとこさ書き上げた『第二十七縁』です!(輝)
今回もいつもの様に簡単な感じまでルビがいっぱい振ってあるので……読み難いかも知れませんが……。良かった読んでみてくださいね(苦笑)。
ではでは、本文へどうぞ~~。
彼女の言葉に、両手を腰に隠してべーっと舌を出して返したシャロンちゃんは、
『何とか一瞬の隙を作るから、その時に逃げるね……お兄様』
小さな声で彼女に聞こえない様にボクに教え、そして小さく呪文の詠唱に入る。
「ま、どっちにしろもう追いかけっこは終わりにしようか? お嬢ちゃんは強いけど、私には勝てないと思うしね」
話しながらゆっくりと近づく彼女。
そう勝ち誇っている彼女にシャロンちゃんは、一つ詠唱を終えたらしく、少々呼吸を整えてから、
「何で? もしかしたら勝てるかも知れないよぉ?」
彼女に合わせて問いかけ、再び聞こえない様に小さな声で新しく呪文の詠唱に入ったのだ。
隣で立ち上がったボクは、これが彼女に気取られないかと少々不安な気持ちを押し殺す。
森の中だと言っても、きっと距離が縮まれば呪文の詠唱だって聞こえてしまうかも知れない。
そしたら、ボク達に勝機は多分訪れはしないと思うのだ。
やがて、彼女が話しながらも大分ボク達との距離を詰めた時、シャロンちゃんの呼吸が整い、詠唱を終えて魔法が完成した様である。
「さて、長話もここで終わり。観念してもらうおうかなぁ」
フッと、彼女の空気が鋭く恐ろしいものに変わったその瞬間っ!
シャロンちゃんは渾身の力と共に、
「烈波風昇陣っっ!!」
魔法を解き放ったっ!
すると、地面に突如現れた風と共に白く輝く光の線で魔法陣が描き出され、そしてその刹那には、ビュォォォオオオッッッ!! と、魔法陣の外枠で勢いよく高く激しく風が舞い上がって周りを囲ったのだ。
それは砂埃と共に舞い上がり、ボク達と彼女の前に境界壁の様なものを作り出すかの様だった。
魔法にて生まれし突風に周りの景色を遮られた空間。
「しゃ、シャロンちゃん!?」
何かをするとは思っていたけれど、急な突風に驚いて声が漏れたボク。
「お兄様っ、彼女がこの魔法を崩し切る前にその魔錠の開錠をしますっ。きっと彼女の力量では崩し切るなんて時間の問題ですし……なので早く手を貸してくださいっ」
ボロボロの体で必死の表情のシャロンちゃんが言うままに両手を差し出すと、何やらマブリズの上に両手をやって難しい顔をする。
どうしたの?
なんて問いかけたいけど、そんな事を問いかけられる状況じゃないのは、一生懸命なシャロンちゃんの顔を見れば重々解るボク。
「……違う、三つ目の鍵は風じゃない……」
ふと、呟くと、カチカチカチと何かが動く様な感覚を手首に感じ、
「後一つっ、きっと最後は水氷の魔法っ」
カチカチカチと、今度は首元に感じたその瞬間、ゴロッと腕輪と首輪のマブリズが抜け落ちたのだ。
「ぉお……」
身に慣れたそのものから開放された事に、感嘆の声が零れた。
「お兄様、走りますのでそれを持ったままついて来て下さいね」
そうニッコリとボクへと笑ったシャロンちゃんは、地面に片手をつけるなり、
「地導魔穴球っ」
魔法を解き放ち、黄色く輝く光の球の中に何やら回転する掌サイズのものを誕生させる。
すると、その誕生と同時に、立っていた地面が大きく割れて魔法陣と同じぐらいの大穴を開けるのだ……。
グゴボッ。と、真下に大穴を開けた後、球体を横に向けて穴を開け進めるシャロンちゃん。
随分と固そうな地層なのに、その輝く球体が地層に触れた瞬間に大きく削り消滅させ、やや大きな大人の背丈くらいがスッポリと入る空間を作るのである。
こんな小さな球体の何処に、そんな力があるんだろう……。
なんて思いながら、走るシャロンちゃんの後ろをついて行くボクは、ふと、シャロンちゃん右胸が服の下から黄色く輝いているのを目にする。
この光、さっきの青いのと同じ原理だとすると、もしかしてアーシャと同じルマが輝いてるのかな? 確か効果は肉体強化って言ってた様な……。
そこまで浮かび、気がついたボク。
そっか……。シャロンちゃん、今までの戦いでこのルマを使わなきゃ動けない体なんだ……。
と。
……ごめんね、ボクのせいでそんなにも無理させちゃって。
「ごめんなさいお兄様」
急にそう呟くと、先を進むシャロンちゃんは、歩みのスピード下げたのだ。
え? 何で謝るの??
もし、謝らなくちゃいけないとしたら、断然ボクの方なのに。
「シャロンちゃんが謝る事なんて無いと思うよ? むしろボクの方こそシャロンちゃんに感謝しなきゃいけない事はあっても、謝られる事なんて無いよ~」
「ううん……。やっぱり私のタイプが凄く悔しいって思う。もし私がアーシャお姉ちゃんみたいに『戦タイプ』だったら、もっとちゃんとお兄様の事を守ってあげられるのになって……。体力も力も魔力も全然足らない自分が、戦場に立ってみて嫌って程思い知らされる。
もしかしたら、このまま逃げられないかも知れないし……最悪の結果にだって。だからアーシャお姉ちゃんみたいに強くなくってごめんね……お兄様」
何処か涙声にも聞こえたシャロンちゃんの声が、魔法球の輝きだけで照らされるこのトンネルに小さく響いたのだ。
挫けそうなそんなシャロンちゃんの小さな背中にボクは、
「そんな事無いよ、シャロンちゃん。シャロンちゃんは力とかそうゆう物じゃない強さがあるとボクは思うよ? だって、誰かを傷つけたくないって信念を貫いてるじゃない。それに、実際にあそこからボクを助けてくれたのはアーシャでもなくて『シャロンちゃん』なんだよ? それだって凄く勇気が要る事だと思うし、全然弱いなんて思えない。だからシャロンちゃんはシャロンちゃんのやり方で、アーシャはアーシャのやり方でいいじゃないっ。
それにね、あの炎の矢の雨からだって、目の前まで追って来たあの彼女からだって、今もこうやって立派にボクを守ってくれてるのは、シャロンちゃんだよ。大丈夫、シャロンちゃんは自分で思ってるより弱くは無いから、きっと大丈夫だよ。
ありがとう、シャロンちゃん」
優しく語りかけた。
「ふふっ。やっぱりお兄様って不思議な人」
一つ振り返ったシャロンちゃんの顔には、優しい表情と共に笑顔が浮かんでいたのだった。
「ここはいったい……?」
地下の穴の中から地上に出て辺りを見ると、そこに広がるは木々が立ち並ぶ森の中。大分走ったけれど、空から見えた感覚から言えば、きっとあのさっきの森の中から抜けてはいないだろうなと思うボク。
「大分掘り進んだけど、風の魔法と比べたらスピードは遅いし、さっきの所からはそんなに離れてないかも。お兄様」
と、フワリと風の結界に身を包みながらゆっくりと上がるシャロンちゃん。
もう少しやる事があるからお兄様は先に上がってね。と、言われてボクは外したマブリズを手渡した後に、先に同じ風の結界で地上に上がったのだ。
「歩くスピードとあの飛行スピードじゃ違い過ぎるし、それは仕方ないよ、シャロンちゃん」
フワリとゆっくり上昇してくるシャロンちゃんにニッコリと微笑むと、
「あ……」
ふと零れた言葉と共に一瞬よろめき、結界が消滅して再び地下へと落下を見せたのだ。
「危ないっ!」
ボクはそれに気がつき、咄嗟に手を差し出したボク。
「ありがとぉ、お兄……」
地上に引き上げられ、そんな安堵と共に出た言葉が、ふと目の前の人物を目に硬直して途切れるシャロンちゃんの姿。
ゆっくりとシャロンちゃんを片手で引き上げたのは、一人の美少女である。
それは、背中まで伸びた水色の綺麗なロングの髪を一つに結い、背は低めながら見事なプロポーションを黒のハイソックスにジーンズ風のショートパンツと紺のブラウス、そして紺色のマントに身を纏った17、18の高校生くらいの少女が、ニッコリと笑顔を向けながら自分より少し背が小さいくらいのシャロンちゃんを軽々と片手で持ち上げているのだ。
「え……」
その状況に驚愕するボク。
いや、それよりも、いつの間にかに音も気配も感じさせぬまま現れた彼女に驚くべきなのだろうけどね……。
「あ、あのー……」
と、ボクが問いかけようと声をかけたその瞬間、
「シャロンちゃぁ~んっっっ」
「はぅ……」
目の前の彼女は、ふんわり甘い声を森に響かせて、引き上げたシャロンちゃんを、ぎゅぅぅぅっっっと、思いっきり遠慮無しに抱きしめたのである。
その熱い抱擁に、何処か魂の様なものがシャロンちゃんの口からはみ出ていた様に見えたのは、きっと気のせいじゃないと思うのはボクだけだろうか?
一つ呻いてピクピクとしながらも、抱きしめられるその腕にポンポンと手で叩くシャロンちゃん。
ロープ、ロープ……。と、まるで言わんばかりに……。
「あら? こんなにボロボロでどうしたのぉ~シャロンちゃん?」
その抱きしめた腕で今にもトドメを刺しそうな彼女は、そんな姿のシャロンちゃんにどうやら気が付いたらしく、ちょんっ。と、地上に返す。
「あ……相変わらずお元気そうで何よりです……フローラお母様」
血の気が引いた青い顔をしながらも、無事生還を果たしたシャロンちゃんは、ニコッと彼女へと苦笑い混じりに微笑んだ。
「シャロンちゃんはー……今は元気なそうだけど、大丈夫ぅ?」
苦笑いを浮かべつつ、なんとか平気です。と、返す。
「そう、良かった。で、こんな所で何をしてるのぉ? シャロンちゃんとー……」
ふと向けられたボクへの視線に、
「あ……妖一です」
彼女に名乗ったのだ。
と、言うか、この人って一体何者なんだろう……? さっきシャロンちゃんは『フローラお母様』って言ってたけど……。
ン? お母様??
「シャロンちゃん、この方はもしかして……」
つんつん。と、肘で軽くシャロンちゃん小突きつつ小さな声で問いかけると、
「……ぅん、お兄様の思ってる通り、この人は私のお母様……第二王妃のフローラ=クライン様。いつも『世界探求の旅』とか言って、一年に一回書き溜めた研究書とか置きにしか殆んど家に帰って来ないから、こうやって姿を見るのは1年ぶりかも」
少々疲れた口調で丁寧に説明してくれるのである。
確かに言われて見れば、髪型と髪の色以外は目元とか鼻とか可愛らしい所がシャロンちゃんに似てるけど……って、いやぁ待てまてマテ……どう見たって17、18歳しか見えないこの人がシャロンちゃんのお母さんだって!?
あまりの現実離れした真実に驚きを隠せないボクは、目をシバシバとしばたたかせてしまう。
「フローラお母様こそここで何を? って、訊くのも意味は無いのかも……。
私達はちょっと色々あって、追っ手から逃げてる途中なの」
と、お母様……フローラ様に軽く説明するシャロンちゃん。
するとその瞬間、ふと笑っていたフローラお母様の表情からスーッと笑顔が消えたのだ。それは表情だけではなく、その場の空気さえも一瞬で鋭いものへと一変させる。
スッと、鋭い視線をシャロンちゃんに向け、
「ボロボロになりつつも逃げ出してる途中なの? シャロンちゃんは」
冷たくも淡々とした口調で問いかけたフローラ様。
その姿に、心臓を突き抜かれたかの様に動けないシャロンちゃんは、静かにゆっくりとした動きで一つ頷いたのだ。
「フローラちゃん、前にシャロンちゃんに言わなかったっけ? 『最初から勝機が見出せない物には手を出してはいけない』って。
シャロンちゃんはアーシャちゃんの様に実際に激しい戦闘をしながら戦略を見出す『戦タイプ』とは違って、最初から何百通りの秘策を瞬時に描いて、その中から見つけ出した最良の作戦で戦に挑む『策士タイプ』なんだよって。だからアーシャちゃんの様に激しい戦闘が出来る様な身体じゃないんだから、身体が耐え切れなくなってボロボロになるんだからねって、フローラちゃんが言ってあげてたでしょ……?」
と、ふんわり甘い声とは打って変わって、重く低い声で眉一つ動かさずに告げるフローラ様は、まるで蛙を物静かに睨みつける蛇の様にシャロンちゃんを見下ろして問いかける。
そんなフローラ様に口籠りながらもシャロンちゃんは、
「した……私がしたかったから、体が動いちゃったからそうしたのっ! 考える前に体が動いちゃったんだから仕方ないじゃない!? ……考えも無しに出てきちゃったから、こんな有り様にもなっちゃってるけどぉ……」
そう真っ直ぐな瞳で必死に言い返したのだ。
必死に言い返すシャロンちゃんに、しばしそのまま冷たい表情で沈黙すると、次の瞬間には唐突に、
「うぇ~ん、シャロンちゃ~んが反抗期ぃ~。フローラちゃん悲しいぃ~」
グスンと、可愛く泣き真似をするフローラお母様の姿。
その姿に、さっきまで漂っていた張り詰めた様な空気は何処にやらと言わんばかりに、パッと華やいだのだ。
『へ……』
と、フローラお母様の突如の豹変に、間抜けた声を二人して零したボク達。
「なぁんて、シャロンちゃんもそろそろそんな乙女な時期なのよね。フローラちゃんもちゃんと我が娘の成長を認めてあげなきゃっ。シャロンちゃんがそこまで思うなんて、きっと隣の子は、凄くいい人なんでしょうね」
ニッコリと、最初に出逢った素敵な笑顔をボクへと向けるフローラ様。
……え? それって、ボクが女の子の姿をしてるっていうのに、しっかりボクが『男の子』だって見えてるって事? あの魔法を使えなくさせるとかいう魔石を打ち負かしたというに??
「あ、あのー……もしかして本当の姿が見えてたり……します?」
苦笑いを浮かべながら問いかけると、
「そうね~、このくらいの仕掛けなら簡単に見抜けるけどぉ~?」
実にあっさりと言いのけたのだ。
「あはは……流石はフローラお母様。娘ながらフローラお母様の眼力にはお手上げですよぉ……」
同じく苦笑いを浮かべたシャロンちゃんは、
「残念ながらお兄様はアーシャお姉ちゃんのお婿様になる方ですよ、フローラお母様」
そう言い返したのだ。
しかし、その言葉にフローラお母様は、ちっちっちっ。と、左手を腰につけて右手の人差し指を立てて横に振り、
「この世界には種族はいっぱい居るけれど、性別は細かいのを抜けば『男と女』しかいないのよぉ~シャロンちゃん。男と女は至極単純でね、一緒に居ればその内どちらかが惹かれちゃって伽っちゃうもんなのっ」
グイッとシャロンちゃんに顔を近づけて熱く語るのである。
いや……あのー……フローラ……様?
何か声をかけようとするボクをよそ目に、フローラお母様は続け様に、
「シャロンちゃんはまだ11だけど、もう半年くらい待てば12でしょ!? 12歳といえば婚姻の儀は出来なくとも婚約の儀は出来るのよぉ~? だ・か・ら、この際、気に入ってるならここは上手くやって既成事実とか何でも作って奪っちゃおうっ! ね、シャロンちゃん」
何だかとんでもない提案を、右手に作った拳をニギニギしながら熱く語って進めるのである……。
「……はいはい。その『半年』って口で言うのは簡単だけど、実際にしてみれば長い期間だし、だからフローラお母様の冗談はここまでにしましょうね。それに、そんなアーシャお姉ちゃんから奪う様な事は出来ないし、しない私の性格を知ってるでしょ? フローラお母様??」
「ぇ~、何だか1年見ない間にノリが悪くなったよぉ~シャロンちゃん。フローラちゃん、半分本気だったのになぁ。それにフローラちゃん公認なんだからしちゃってもいいのにっ。バルドちゃんには後で会えた時にでもフローラちゃんが上手く言ってあげちゃうしぃ~」
「前から私はこうゆう性格ですフローラお母様……。そんな事より、今こっちは大変な事になってるし、先を急ぐねっ」
ふぅ~……。と、タメ息交じりの息を吐いて立ち上がシャロンちゃん。
「あら、そうみたい。シャロンちゃん達が通って来た地下の方から、シャロンちゃんより強そうな魔力を持ったのが遠くの方……400メートル後ろの方から段々と近づいてくるし、その上空にも10人近づいてるのねぇ~」
ふと、フローラ様が何気なく零した言葉に驚愕するボク。
え!? 何でそんな事が解るんだろう……。それにこっちにだって人数とかまで把握してないのに……。
「流石はフローラお母様……。それぞれが持つ魔力の力とその数をそんなに離れた場所でも感じれるなんて、相変わらず桁外れな潜在能力だよねぇ……」
「実はもっと前から気がついてたけど、シャロンちゃんといっぱいお話したかったから言わなかったのよねぇ~」
キャハッと、一つ嬉しそうな表情を浮かべながら、やはりとんでもない事を零すフローラお母様。
いったい……この方って何者なんだろう……。でもきっと、そんな事を考えるだけ無駄なんだろうな。
何処となしか、全くつかめないフローラ様を見てそう思うボク。
すると、一つ手をポンッと打ったフローラ様は、
「そうだ、たまには親らしい事もしてあげなくっちゃね。シャロンちゃん、ここはフローラちゃんが引き受けるから逃げてよぉ」
ニッコリと微笑みを浮かべて10人以上もの相手をたった一人で戦うと、そう淡々と言うのである。
「え、そんな無茶な!?」
思わず言葉が零れたボクに、
「だいじょ~ぶ~。未来の義母様に任せなさいって。それにヨウイチちゃん? だっけ? ウチのシャロンちゃんの事ヨロシクねっ。親ばかじゃないけど、ウチのシャロンちゃん凄くいい子ちゃんだからね、好きな人の為に無茶を通り越して頑張っちゃう様な子だし、ちゃんと見ててあげてね。まぁ~当人は否定するかも知れないけれどっ」
と、ウィンク一つして言うフローラお母様。
いや……未来のって……。
「フローラお母様っ!」
「やんっ、怒っちゃ、メ~。……と、これ持って行きなさいシャロンちゃん」
声を上げたシャロンちゃんに、ひょいっと何やらを手渡すフローラ様。
「エリクアクア付近に三年に一度しか咲かない花から採取した蜜星玉。ボロボロの身体だから完全には体力は回復はしないかも知れないけれど、少しはそのバルドちゃんの精紋に頼らなくて済むくらいは動ける様になるとは思うから」
「フローラお母様……こんな稀少なもの……」
手に渡された黄色い飴の様な物にふと視線を落として、言葉が零れたシャロンちゃん。
「ふふっ。いっつも離れてるけど、フローラちゃんシャロンちゃんの事忘れた事無いし、ちゃんと心配もしてるんだよぉ、口にはした事無いだけでね」
と、シャロンちゃんの頭を優しく撫でて、次の瞬間には突然抱きしめ、
「ガンバッ、恋する乙女っ。フローラちゃんがしてあげれる事はしてあげるけど、最終的に選択するのはシャロンちゃん自身なんだよぉ~。
だからガンバッ、何を選ぶのもどうするかもシャロンちゃん次第。迷ったってもいいし壁にぶつかってもいい。ただ……一つだけ、その道を選んだからには自分を疑っちゃダメよぉ? 立ってた場所が見る見る内に崩れ落ちちゃうから。ね、フローラちゃんの自慢の可愛い可愛いシャロンちゃん」
そう、ギュッと抱きしめた顔が、優しい母親の様な表情を見せるフローラお母様の姿が、そこにはあったのだった。
ボクと彼女と彼女の縁結び記
第二十七縁『ボクとシャロンちゃんと意外な救世主』