第二十六縁。
お待たせいたしました~、やっとこさ更新いたしました『第二十六縁』です(疲)。
今回も同じ様に……振らなくてもいいだろうという漢字までルビを振ってるので、読み辛いかもしれませんが……それでもよかったら読んでみてください(涙)。
ではでは、さくさくっとどうぞ~(輝)。
「あれ? 今何かが光った様な気がしたんだけど?」
「え? 何? お兄様」
と、言葉が零れた瞬間、目の前で何かが結界の外で大きく赤黄色の光を散らして、グンッ! と、やや大きくボク達を揺らしたっ!
「瞬遠撃烈火炎矢!?」
「え??」
「普通、数十本の燃え盛る炎の矢を飛ばす『烈火炎矢』の力を一つにまとめた、超長距離用の炎の矢の魔法ですっ! 炎の矢の標的までの距離によって威力が下がる特性を無くし、更にスピードまで上げた火炎中級魔法の一つですよぉ!」
そう説明すると、シャロンちゃんは顔色を曇らせて、
「一撃ずつなら何とか続けて二回まで防ぎ切れるけど……いっぺんに三本も四本もくらうと、流石に魔力が弱ってる今の私の風の結界じゃ貫かれて落下するかも……」
恐ろしい未来を零すのだ。
それって、今はいいけど、このままじゃ危ないって事だよね……?
ゴクリと固唾を飲み込むボクは、
「シャロンちゃん……避けてっ!!」
今、とても見たくない状況を目にしたりする。
それは、一つや二つや五つという生温いものではなく、ボク達の後方に無数に見せる嫌ぁ~な輝き達。
急に上げたボクの言葉に驚きつつも視線だけで後ろを確認したシャロンちゃんは、
「……やってみます」
静かに呟いて目を瞑ったのだ。
シャロンちゃんが目を瞑ったその刹那、音も無く紅い閃光が淡い青色の風の結界の直ぐ側を過ぎ去ったっ!
そして次の瞬間には、微かに右へと体ごと結界全体を傾け沈めるシャロンちゃん。
すると、再び紅い閃光が傾け沈めて空いた上の虚空を通り過ぎ去った。
「すごい……」
一瞬輝くだけで全く音も何もなく高速の炎の矢を、何も見ないで避けてるなんて。
それはまるで研ぎ澄まされた野生の勘の様なもので避け切ってるかの様だった。
微かに動かしては、二本・三本をも同時に避ける驚愕の芸当を見せるシャロンちゃん。
そんなシャロンちゃんの姿を見ながらボクは、この調子なら全部避けきれるかも知れない。
なんて、何処か思えてくるのである。
「このままなら大丈……」
大丈夫だね。と、微笑みかけようとしたボクの言葉が途切れる。
次々と襲い来る炎の矢を簡単に避け切るシャロンちゃん。
けれども、その目を瞑ったままの表情には、何処にも余裕なんてものは無く、逆に苦しそうな表情を浮かべ、微笑みと共にかけたボクの言葉が途中で出なくなったのだ。
凄く必死なんだ。
そりゃそうだよね……二人で一緒に飛ぶのも辛そうだったのに、その中で物凄いスピードで襲い来る炎の矢を避けるんだから。しかも一本・二本所じゃない数多くの矢を相手に、こんな小さな体で二人の体を支えつつ頑張ってるのだからね……。
すると、何かを感じたのか、悟ったのか、何やら呪文の様な物を詠唱し始めるシャロンちゃん。クルリと体勢を後ろへと向き、頭上の方へと目をやって手を伸ばし、
「魔風断空斬っ!」
力ある言葉と共に魔法を解き放ったのだっ。
その力ある言葉に応えるか様に、風の結界より数十センチ離れた上空にて虚空が刹那の揺らめきを見せ、次の瞬間には一面に大きく赤黄色に光を散らす数々の炎の矢達の姿。
それはまるで、ちょっとした花火を観ているかの様に輝いて、不謹慎にも綺麗に思えたボク。
「凄いっ、シャロンちゃん凄いよっ!」
感動に思わず上に居るシャロンちゃんへと向くと、そこには息を更に苦しそうに荒げるシャロンちゃんの姿があったのだ。
「まだ……ですよお兄様。まだ……来ますっ」
「う、うん」
その張り詰めるような空気に気圧され頷き返す。
と、上を向いた拍子に思わずワンピースのスカートの中が覗けてしまったボク。
それは、綺麗な薄茶色の肌をした細くも柔らかそうな脚に、淡い青色のショーツ。そして、右足の太腿の内側に光輝く青色の小さな紋章。
……あれ? これってもしかしてルマって物なのかな? でも……何だかアーシャとのは何だか違う様な気がするけど……。
確かアーシャのは、黄色い三重線で囲われた三日月の紋章で、その三重線の間には何やら文字の様なものが描かれていた様な。
なんて、シャロンちゃんのそこにある小さな青い輝きの紋章を見て、アーシャの左胸の乳房外側にあったルマを思い出すボク。
て、シャロンちゃんのスカートの中を覗きながらアーシャの胸まで思い出したり何してんだろう……ボクって。
急に途轍も無いくらいの恥ずかしさに囚われて、それを紛らわせるか様にボクは、
「大丈夫? シャロンちゃん。凄く苦しそうだけれど……」
そう問いかけた。
すると、そんなボクにシャロンちゃんは、声に疲労の色を滲ませつつも、
「大丈夫だよぉ。お兄様は私がなんとか守って見せるから」
ニッコリと微笑み返したのだ。
が、その直後である。またやも結界全体が大きく揺れたのは。
今度のは前の時とは違い、衝撃と共にやや高度が下がるくらいである。
きっと力の消耗で、衝撃に対して高度の維持が難しくなってるんだ、シャロンちゃん。
「ごめんねっ、お兄様。ちょっと感覚違いで一撃避けそこなっちゃった……。大丈夫?」
「うん、大した事無いよ。こっちは気にしないでいいからね、シャロンちゃん」
ボクと言葉に、うん。と、頷いて懸命に次の魔法の為に呪文の詠唱に入る。
何て事無い言葉しか返せないなんて、ちょっと悲しいな……。
そう自分自身の力の無さを痛感するボク。
ふと、頭上に輝きを見た気がしたボクは、上を見上げるてみると、そこには飛行スピードをやや上げながら早口に呪文を詠唱するシャロンちゃんの姿。そしてシャロンちゃんの遥か上空では、先ほど魔法で防いだ時よりも広い範囲で輝きが一面に見えたのだ。
それは、回避不可能な程の範囲による炎の矢の激雨攻撃を意味していたのである。
「……ふぅ」
小さく息を吐き、詠唱し終えたシャロンちゃんは、
「風束滅波域っ!!」
炎の矢の雨が襲いかかるその瞬間、力ある言葉と共に魔法を解き放ったのだっ。
すると、視界が一瞬揺らめいたかと思った次の瞬間、その降り注ぐ炎の矢達が何やら中央に引きずり込まれているのである。引きずり込まれて行く炎の矢達は、次々へと赤黄色の輝きと共に目の前で消滅を見せていく。
それはまるで、突如作られた小さな空間の穴に炎の雨が吸い寄せられて行き、消滅させられている様だ。
やがて、直前まで風の結界へと直撃する軌道を取っていた炎の矢達は全て消滅させられ、なんとか無傷に終えたボク達。
「!? ……しまった」
何かを感じたのか、疲労の色が色濃く見られるシャロンちゃんは、零れ落ちた言葉と共にハッと驚愕の表情を見せて、大きく下降するっ。
グイッと大きく下降したかと思った次の瞬間には、今まで居た場所に七つの紅い閃光が走り去り、その刹那っ!
ズズズンッ!!
バブゥッッッ!!
炎の矢を三連続でくらった衝撃と急に生まれた暴風共に、ボクの体は急激に下降して行くのだっ。
風の結界が砕けた!?
驚きつつも、目の前には物凄いスピードで下降するボクの体を追う様に手を伸ばすシャロンちゃんの姿。
ボクもシャロンちゃんが差し出す手を握れる様に、無我夢中で腕を伸ばせるだけ伸ばすっ。
シャロンちゃんの手まで後数センチっ。あと少しっ!
しかし、シャロンちゃんはあと少しで手が届く所で手を引っ込めたのだ。
えっ?
ボクが疑問を浮かべたその時には、一つの紅い閃光が過ぎ去った後だった。
紅い閃光の後、シャロンちゃんが手を伸ばし、やっと握る事が出来たボクの体は、
「翔風域結界っ!」
微かに聞こえたシャロンちゃんの声と共に、下降して行く体が、グィッッッ! と、上昇を始めたのだ。
「助かったぁ……」
風の結界に包まれながら、安堵の声を思わず漏らしてしまうボク。
しかし、その言葉にシャロンちゃんは真剣な口調で、
「まだ安心は出来ませんよぉ……お兄様」
と、ギュッと力強くボクの手を握った。
そっか、さっきの炎の矢が来ないなんて保証はまだ無いし、気が抜けないよね。
ボクはそう思いつつ下を見ると、先ほどとは全く比べ物にならないくらいのハイスピードで飛行していたのだ。
風の結界のお蔭なのだろうか? 風圧などは全くと言っていい程感じれないけれど、目に映る景色が素早く縦スクロールして過ぎ去って行く……。
「……いくら何でも速すぎない? シャロンちゃん」
「最低でも『浮遊空域結界』の三倍のスピードが出るから……お兄様」
ポツリと問いかけた言葉に返すシャロンちゃん。
「でも、この魔法なら風の結界も強化されてて、あの魔法にも結構耐え切れるし安心だよぉ」
そう語る側から、結界の外では細長い炎の塊が幾つも結界へと勢いよくぶつかり、そして赤黄色の光を散らしている。
どうやらこちらのスピードが上がった分、先ほどからの炎の矢の形状が確認しやすくなっている様である。
と、言いつつも炎の矢のスピードは速いらしく、ふと形が見えては結界へとぶつかるか、あっという間に過ぎ去って行く。
「うん、確かにぶつかってもピクリとも振動が無いし、結界の強度は上がってるみたい」
そう頷くと、シャロンちゃんは一つゴメンと謝り、
「想像以上に体に無理をさせてるみたい……。もうちょっとスピードを上げて離れたら地上に降りて休むね、お兄様。本当はこのままババルゥに戻りたいんだけれど……体力も魔力ももたないみたいだから」
出来るだけの微笑を浮かべながらそう告げるのだ。
ボクは優しい笑みで、
「ありがとう、シャロンちゃん」
と、心の底からの感謝の気持ちを込めて返した。
するとボクの言葉に、ニコッと返して、更にスピードを上げたシャロンちゃんだった。
ストッ。
と、ボク達が降り立ったのは、高台に広がったとある森。
地上に着地するなり、よろめき尻餅をついてしまったシャロンちゃんは、
「あははは……私の精紋まで発動させちゃったから結構体に負担かけちゃったかなぁ」
苦笑いを浮かべつつ背中の太い木を背もたれにして座って言う。
私のルマ? あ……もしかして青い光の紋章の事かも?
「それって、青く輝く紋章のやつ?」
ふとしたボクの問いかけに、急に真っ赤に頬を染めて言葉無く一つ頷き見せ、
「うわぁ……恥ずかしぃ。でも、お兄様なら……いっかなぁ」
赤らめた頬で顔を上げて、ニッコリと微笑み返したシャロンちゃん。
あははは……こうゆう時って何て返していいんだろう……。こんな事慣れて無いし、言葉に凄く困る(こま)や。
その微笑みに苦笑いで返したボクは、ぅん? と、とある事に引っかかる。
「あれ……私のルマって……? えっと、父親のルマが継承されるんじゃ無かったっけ? 母親のも継承されるけど、ほとんどが消えちゃったりでされないとか。確かアーシャと義姉妹だから、シャロンちゃんにあるのはアーシャと同じ黄色い紋章のやつじゃぁ……?」
そう。言われてふと気になったのはそこである。
アーシャから教えて貰ったこの世界のルマの仕組みから言えば、シャロンちゃんもアーシャと同じ紋章なハズなのに、さっき見えたのは青い輝きをしていた全く違った紋章なのだ。
「基本的にはそうだよぉ。でも、中には『特殊精紋』があって、母親のものもシッカリと残るケースもあってね、私のコレはその『特殊精紋』なんだっ。勿論、アーシャお姉ちゃんと同じ精紋もアーシャお姉ちゃんとは逆の右胸に刻まれてるだよぉ」
疑問そうに見たボクに、服の上から順々に指を指して説明するシャロンちゃん。
なるほどぉ……ルマって深いんだなぁ。
「それじゃ、シャロンちゃんのルマってどんな能力があ……」
しゃがみながら何気なく問いかけたその時、ボクは急に言葉が終わらぬ内にシャロンちゃんに突き飛ばされたのだ。
思わず尻餅をついてしまったその瞬間、
ヒュッ、ピキペキピキンッ!
目と鼻の先を蒼く一閃した何かが隣の木に当たり、見る見るうちに凍り付いて行ったのだ。
危なかった。シャロンちゃんがボクを突き飛ばしてくれなかったら、きっと今頃は冷凍人間に成ってたかも知れない……。
ボクは恐る恐る何かが向かって来た方へと目をやると、木と木の間の向こうに薄っすらと浮かぶ人影が一つ。
「まさかっ!?」
「……そのまさかみたい、お兄様」
驚愕するボクに、ゆっくりと力いっぱいに疲労でボロボロの体で立ち上がるシャロンちゃんの姿。
「迂闊だったなぁ……。この魔錠を直ぐにでも外すべきだったね。きっとコレには逃げた時の追跡用に魔石か何かが埋め込まれたんですよぉ……」
と、自分の犯したミスに落胆しながら、
「ね、そうだよね?」
影が浮かぶ方へと問いかけた。
すると、クスクスと小さな笑いを浮かべながら出てきたのは、やっぱりあのリーダー格の彼女……。
「お嬢ちゃん凄いわね、私の姿を見ては直ぐに見破るなんて。それに幼いにしては中々強いのねぇ、夜でも無いのにあんなにも中級魔法が使えるなんて。
あの様子からしたらお嬢ちゃんの特化属性は『風』かしらねぇ? 普通、特化属性しか私達には昼間じゃ中級魔法なんて使えないし」
やや嘲うかの様に語る彼女。
「それはどうでしょうねーっ」
そんな彼女の言葉に、両手を腰に隠してべーっと舌を出して返したシャロンちゃんは、
『何とか一瞬の隙を作るから、その時に逃げるね……お兄様』
小さな声で彼女に聞こえない様にボクに教え、そして小さく呪文の詠唱に入る。
「ま、どっちにしろもう追いかけっこは終わりにしようか? お嬢ちゃんは強いけど、私には勝てないと思うしね」
話しながらゆっくりと近づく彼女。
そう勝ち誇っている彼女にシャロンちゃんは、一つ詠唱を終えたらしく、少々呼吸を整えてから、
「何で? もしかしたら勝てるかも知れないよぉ?」
彼女に合わせて問いかけ、再び聞こえない様に小さな声で新しく呪文の詠唱に入ったのだ。
隣で立ち上がったボクは、これが彼女に気取られないかと少々不安な気持ちを押し殺す。
森の中だと言っても、きっと距離が縮まれば呪文の詠唱だって聞こえてしまうかも知れない。
そしたら、ボク達に勝機は多分訪れはしないと思うのだ。
やがて、彼女が話しながらも大分ボク達との距離を詰めた時、シャロンちゃんの呼吸が整い、詠唱を終えて魔法が完成した様である。
「さて、長話しもここで終わり。観念してもらうおうかなぁ」
フッと、彼女の空気が鋭く恐ろしいものに変わったその瞬間っ!
シャロンちゃんは渾身の力と共に魔法を解き放ったのだった。
ボクと彼女と彼女の縁結び記
第二十六縁『ボクと逃亡と炎の雨』
と、言う訳で、お疲れ様でした~(感謝)。今回も遅くなってすみません……(泣)。この調子だとまた次回も間が空いてしまいそうな気もしますが……良かったらまた読みに来て見てくださいね(微笑)。