第二十四縁。
えー……毎度毎度ですけれど、ふりがなが多くてすみません(汗)。別に振らなくてもいいだろうって所まで振ってますが、決して皆様をバカにしてる訳ではなくて、より多くの人が漢字にあまり抵抗感を感じ無いようにと思って、いっぱい振っています。
なので、少々読んでいくには疲れるかも知れませんが……良かったら読んで貰えるといいなぁ~……なんて思う☆ジャム猫☆です(滝汗)。
パタン……。
彼女は「それじゃ考えてみて」と言葉を残して、静かに部屋の扉を閉めた。
ボクが彼女に通された部屋は、とてもアッサリとしていて、天井の四隅に設置された光る石以外は何も変哲の無い部屋である。ポツンと置かれたベッドに壁掛けの鏡と窓が一つずつというそんな部屋。
それでも彼女の言う通りならば、この部屋は『他の部屋よりもさらに特別な力で魔法も精紋の無効化をさせちる部屋』らしい。
う~ん……。ボクの姿が元に戻っていない所を見ると、この指輪の効力が強いって事かな。
シャロンちゃんから左手の薬指にはめられた、小さな赤い宝石がついた銀の指輪をふと覗く。
にしても……。
「考えてみて……ねー」
ボクはベッドに腰掛けながら天を仰ぎ、ポツリと零した。
『あの小さい子の精紋は、まだ力は発揮してないけれど、かなりのレアな精紋でね、これからを考えると重宝するわ。だからあの子はオークには出さないで私達が引き取るつもり。
そこでアナタにもう一度問いかけてるの』
私達の仲間にならない?
……ですか。
ボクは、ふぅ。と小さいタメ息を吐いて、バフッとベッドにそのまま後ろへ身体を埋める。
アーシャ達とはやり方が違うだけで、目指してる事は同じかぁ……。
やってる事は許せない事なのに、どこか彼女への敵意が、あの言葉を知らなかった最初よりは薄れてる気がするな。
抑圧された世界から自由になりたいって気持ちが見えちゃったからかな? それとも『利用してるだけ』って見せても孤児を出来るだけ救おうとしてるんだって知ったからかな……。
もし、ここからあの子を救い出せても、待ってるのは抑圧されたまた同じ世界……。
ボクがしようと思ってる事は、もしかしたら本当の救いにはなら無いのかも。
……だったら。
ぐちゃぐちゃと色んな事が思い浮かぶボク。
そう言えばアーシャ達どうしてるだろう? 連れ攫われた中にはアーシャの姿は見え無かったから、そっちは大丈夫だけど。
きっと、急に居なくなっちゃったから心配してるだろうなぁ……。
ふと窓から覗けた空が、暗闇へと色を染め、街の魔石の明かりが強く光るのを見て、思う。
誰も憎まなくても泣かなくて済む本当の夜は、この世界に何時訪れるんだろう。
と、涙を浮かべたアーシャとシャロンちゃんの顔が頭の中で薄っすらと霞めながら。
ビィーッ! ビィーッ! ビィーッ!
鳴り響く、けたたましい程の警戒音。
ふと耳にした、そんな耳を貫く音にボクはいつしか眠っていた事を知らせられる。
な、なんなんだろうコレ……?
そう思いながら眠っていたベッドから身体を起こし、窓から外を眺めるけれど、そこにはただ魔石の街灯が輝くだけで、何も変わった様子は無いようである。
と、なると、何かあるとしたらこの建物の中だけって事かな。
ボクは様子を見に扉まで行き、ドアノブを回すと、
「ロックがかかてる?」
まるでロックか何かがかかってる様に、回したノブは半回転で回転を止めて扉を開ける事は出来ない。
ボクは扉の外の音だけでもと思い、扉に耳を押し当てて状況を把握しようとする。
すると聞こえてくるのは、声を荒上げる女性達の声。
『この館に侵入者よっ! 早く探し出さなきゃっ!』
『魔石で街は何処も明るくしてるって言うのに、どうやってこの館まで来たって言うの!?』
『解らないわよそんなのっ。でもこの館に侵入するなんて無謀な事をする他人が居るなんてね』
『このキャンセラーリングが無い限り魔法もルマも使えないから見つけ次第簡単に捕まえられるわ』
『一体何の目的で……誘拐した者の奪還とでも!? まさかね』
『魔石狙いかも知れないし、そんなの解らないけれど、急いで探すわよっ!』
『一階の見張りがやられてるわっ! 皆、魔法もルマも使えないからと言って気を抜かないでっ!!』
う~ん……。
話からすると、この警報は外部からの侵入者を許した為に鳴り響いてるらしい。
しかもかなり腕が立つ人物らしく、魔法もルマも使えないらしい館だというのに、使える相手と対峙して尚勝利してしまうぐらい。
ボクはその瞬間、ふとある人物の顔が浮かぶ。
ブロンドのロングストレートを軽く揺らめかせては、魔法という不思議な力を駆使する相手を短刀片手になんとも無いように軽々と薙ぎ倒す美女の姿。
まさかねー……。
なんて思った次の瞬間、
「また何か新しい遊びかのう? 妖一殿?」
聞き覚えがある声と共に、突然小さな正方形状に抜けた天井からひょっこりと顔を出して問いかける、あどけなさがまだ残る可愛らしい少女の姿がそこにはあった。
綺麗な紅いロングストレートの髪を少々ホコリなどで汚しながら、にっこりと不敵な笑顔。天井から顔を出しているせいで、その長い綺麗な髪はそのまま逆さに垂れ下がっている。
それはまるで、幽霊か妖怪がこちらを脅さんばかりに覗く様である……。
「……空ちゃん!?」
ボクの色んな意味での驚愕の声に、猫の様にクルリと回転して見事に着地をした空ちゃんは、
「プリティー不思議少女 空ちゃん、ただ今参上よっ、じゃ」
いつ日かの胸の前を腕を滑らす手振のキメポーズを披露する。
そんな空ちゃんの姿は、どこから見つけ出して手に入れたのか、胸にはエメラルドグリーンに光る小さな球体の宝石が真ん中に付いた大きな淡い水色リボン、肩には天使の翼の様に装飾された肩アーマーに、同じ様な翼の装飾をされた水色と白のミニスカートと白いハイカットのブーツ、ブーツのカカトにも翼の装飾が施されているという、どこぞかのアニメにありそうなセーラー服ちっくな魔法少女衣装を身に纏っているのである。
にっこりとするその顔には、百点満点! と、自ら言わんばかりの表情を浮かべている。
あー……なんだろうねこの衣装って……あははは……。
天井から突然現れる空ちゃんは、別の意味で確かに不思議少女かもなんて思うボク。
何処かしら、会えた嬉しさと、から笑いを浮かべそうな疲労感を感じるボク。素直に会えた事に喜べないのは何故だろう。
「そんなにそうゆう腕輪とか好きなら、その天使の飾りを元に戻してもいいけどのう? それに中性的とは思っておったけど、そっちの女性の身体の方が良かったとは思わなかったの」
何処か感心する様な口調で言うと、直ぐ様クスクスと意地悪そうに笑う空ちゃん。
「いや、別に好きとか嫌いとか、そうゆうのじゃないからっ! コレっ!」
ビシッ! と、手を芸人さんバリに出してツッコむボク。
ツッコむ所はシッカリとしておかないとね……。あとで天才超科学者の空ちゃんに何をされるか解ったもんじゃないし。
きっとボクがあそこ否定しないで頷いていたら、二つ返事で面白がりながら身体を変えられちゃうだろうから……。
「元気そうで何よりじゃ、妖一殿」
ゆっくりとボクの側に寄りながら、今度は可愛らしい笑顔で零す空ちゃん。
「元気そうで何よりって、空ちゃんはこんな所で何をしてるの!? てか、何でボクの居場所が解った訳?? いや、それより今の今まで一体何をしてたのさー……」
「まぁまぁ、妖一殿、まずは落ち着いてからじゃよ」
のん気な口調でボクを宥めて、ひょいっとボクの隣に飛び座る。
「に、しても少々騒がしいのう。うん、ちょっと静かにするぞ妖一殿」
「へ?」
ふと不満を漏らしたかと思えば、次の瞬間には、パチンッと一つ指を鳴らすのと共に、このけたたましく鳴り響く警戒音を静めさせる空ちゃん。
まるで一瞬にて、周りの景色はそのままに防音設備が万端な部屋に移り変わったかの様に、ほとんど音が聞こえないのである。
「うん、これでよし」
頷き言った空ちゃんの言葉が、一際綺麗に聞こえる。
「これも、魔法か何か……なの?」
そんなボクの問いかけに、一瞬目を点にしてボクを見て、
「そんな訳なかろう、妖一殿。そもそもその『魔法』事体扱えぬワシがどうやって扱うというのじゃよぉ」
パッと大きく笑みに変えた空ちゃん。
まー、確かにそりゃそうでした。
言われて思うけれど、ふと何処か『空ちゃんなら』なんて思えてしまうボクも、居る事には居たりして。
「ちょっと空間を新しく作り出して、外部の音を遮断しただけじゃ」
はっはっはっは。と、ボクの理解を超えた事をさらりとやってのける空ちゃん。またお得意の『超科学』なのだろうけれど、やっぱり流石は空ちゃんと言った所だ……。
「まー、あくまでも『簡易』だから直ぐにこの空間も元に戻ってしまうからの、その前に説明しなくてはならぬから、ちょいちょいとつまんで話すぞ? 妖一殿」
いいかの? なんて問われて、簡易でも凄すぎるから空ちゃんと思いつつ、二つ返事で返したボク。
「えっと、まずは『こんな所で何をしてるか?』と言うとな、ちょいとこの館に用事が出来て、ここに来たのじゃよ」
「用事?」
おうむ返しに問い返したボク。
「うむ。ちょっとした研究に使う為、ここにあるという不思議な石を求めてのう」
不思議な石? そう言えば確かここって。
そう言われ思い浮かんだのは、この街にしかないという『魔石』という代物だ。
いや、でもどうやって空ちゃんはここの事を知ったのだろう?
そんな疑問に囚われつつも、話を進める空ちゃんの言葉に耳を傾ける。
「しかし探してみたものの、さっぱり何処にあるかも、どんな形をしてるかも解らなくてのぅ……。ただ単に『不思議な力を秘めた光る石』としか情報が無くて難儀しておった所、偶然に妖一殿と逢った訳じゃよ。
しかし、妖一殿も何やらあった様じゃの? はぐれてから逢ってみたら女性の身体に成ってる様じゃし、メイドのコスプレはしとるし」
「こ、コスプレ……」
ガックシと、空ちゃんの言葉に首をうな垂れさせたボク。
ははは……やっぱりそうだよね、ボク達の知ってる世界からすれば、普通の中学生のボクがこんな格好をするって、そりゃコスプレしてるしか思えないよねぇ……。
改めて指摘されると、やっぱりショックだぁ。しかも胸まであるから、言い訳で出来ないしさ……。
「まぁ、妖一殿の新しい趣味はさて置き」
「新しい趣味でも何でもありませんから」
と、力なく一応までも否定するボク。
何だか悲しくて否定する言葉にも力が入らないし。ははは。
「何があったのかの? 妖一殿」
今度は真面目な眼差しを向けて、問いかけてくれた空ちゃん。
ボクは今までの経緯を、全く自分はそうゆう趣味が無い『白』なんだよ? という事を力強く含めて説明する。
すると、一つ、ふむ。と、頷いて、
「妖一殿もこの世界に来てから色々あった様じゃの。ワシもワシで色々あって、その途中じゃしのう。うーん……それじゃ、ひとまず、こっちのここでの用事が終り次第ここから妖一殿を助けるって事でどうじゃろう?」
そう提案する。
その提案にボクは少々考えて、空ちゃんに、
「でもね、ボクがここから逃げ出したとしても、問題が片付く訳じゃないんだよね……空ちゃん」
そんな言葉を零す。
ボクがここから逃げ出せても、残ってる問題が解決する訳じゃないし、それにあの子はどうなるのだろうか……。
「このままじゃいけない気がするんだよね、何がどうって上手く言えないけれどさ、そんな気がするんだ」
ボクがそう言うと、空ちゃんは少々困ったような表情を浮かべ、
「でも、オークとか言うもので売られる心配も、そのいきなり出来た婚約も放棄出来るじゃろ? アーシャじゃったか、その女性は探すかも知れんけれどのう」
正論を告げる。
確かに、空ちゃんと一緒に行けば、今のボクにある問題は全部投げ出せる。
「でもね、空ちゃん。ボクさ、女の子が苦しくて悲しくて辛くて涙を流す姿を見ちゃったんだ。誰も傷つかなければいいって願う女の子に、傷をつけたくなくてもそうしなきゃいけなくて、自分の身体や手が汚れていくのも知りつつ、他の人の涙を見たくないから、自分の涙を拭って頑張る女の子の涙をさ……」
月明かりに照らされたアーシャとシャロンちゃんの姿を、ふと思い出したボク。
泣かせたくないよ。あんなに優しいんだから。
それに、あのクローバーの少女だって。
ふぅ……。なんて一つタメ息を吐いた空ちゃんは、真剣な面持ちで、
「ふーん。で、妖一殿は英雄でも何かになったつもりかのぅ? 自分がどうにかすれば、その子達は救えるとでも?」
と、問いかけた。
「や……そこまでは」
そんな真っ直ぐな言葉に、ボクは上手く言い返せずに口ごもってしまう……。
「じゃ何かのぉ? ここに居たら何か浮かぶとでも? 何かを変えていけるとでもかの?」
「それは解らないけれど、でも」
何とか口を開けて言葉を続けようとするけれど、
「何にも変える事は出来んよ妖一殿。妖一殿の一人が出来る力なんて小さいもので、世界を変えるとかなんて無理じゃ。元の世界に戻れる手段さえもまだ解らない妖一殿に、一体何が出来るというのかのぅ」
ボクの言葉を遮る様に空ちゃんに続け言われて、ボクは沈む。
確かに空ちゃんの言う通りに、ボクは帰る手段の何も解ってはいないし、ボク一人が出来る事なんて……。
「でも、何とかしたいって思っちゃダメかな? してあげたいって思っちゃ変かな?? 目の前に居る子だけでも救えたらなんて……力も無いのに思っちゃダメかなぁ……空ちゃん」
自分で言っていて、その無力さに悔しくて涙が零れてくる。
自分自身が無力なのが悲しいな。せめて、ボクに何かしらの魔法やルマがあれば、少しは力にはなれたかも知れないのに。
悔しさと悲しさに拳をギュッと強く握るボク。
すると、そんなボクに空ちゃんは突然にっこりと微笑み、
「でも、そんな優しい妖一殿もワシは好きじゃの。考えなしだけれど、そうゆう誰かを思い遣る気持ちって人間にとって大切じゃからのう。
ま、ワシもまだまだ甘いから、そうゆう気持ちは凄く解るぞ、妖一殿」
さっきとは一変したのだ。
「へ……? だってさっき……」
「ン? さっきのはただの一般論じゃ。一般論は一般論で、精神論は精神論で別物じゃよ妖一殿。まー、その精神論を伴えるだけの力があった方が更にいいけれどのぅ。力の足らないその分、ワシが力を貸してあげるから頑張れる所まで頑張ってみてはどうじゃろうのぉ、妖一殿?」
そんな空ちゃんの優しい言葉に、何処か力が湧いてくる気がしたボク。
うんっ。何処まで出来るか解らないけれど、やってみようっ。
ギュッっと、さっきとは違った気持ちで力強く拳を一つ握り締めた。
「とりあえず、もう空間維持の時間がなくなって来た様じゃから、お互い出来る事を頑張ると言う事で、今日の所は解散とするかの。それじゃ妖一殿」
ひょいっとベッドから降りた空ちゃんは、開いた天井の板を手に持って穴を見上げる。
「ね、空ちゃん。ボクには……どれだけ目の前で泣く人達に手を差し伸べて上げられるのかな? どれだけの涙を拭ってあげられるのかな……?」
頭の中で、再び二人の涙が過ぎるボクは、戻ろうとしていた空ちゃんに何気なく問いかけてみた。
すると、ふふっと一つ笑って空ちゃんは、
「そうだのぉ……。妖一殿なら、もしかしたら『差し伸べたい・拭ってあげたいと思ったその数だけ』の手を差し伸べて、その涙を拭ってあげられるかも知れんのぅ」
そうニッコリと微笑んで言葉を残して跳び上がったのだ。
そして空ちゃんの気配が無くなるのと共に、けたたましいあの警戒音が部屋に戻って来た。
どうやら言葉通りに直ぐに部屋は戻ったらしい。
やがて鳴り響いた警戒音は、元の無音へと静まり返る。
ボクはベッドに再び横になりながら、心が熱く燃えるようなものを感じるのである。
もしかしたら空ちゃんの言葉のお蔭かも知れない。
もしかしたらそれがまやかしでも、何処か希望が湧いてきた気がするからかも知れない。
『思いは、例え小さくても力に変わるんだ』
そんな熱さを胸に秘めながら、ゆっくりと瞼を閉じたのだった。
ボクと彼女と彼女の縁結び記
第二十四縁『ボクと涙と不思議少女。もし本当に思う数だけ拭えるのなら……ボクは目の前で零れる涙は、全部拭ってあげられたらなと思ったんだ』