第二十二縁。
お待たせしました~~~(汗)。すみません、ちょいと一週間ばかり遅れてしまいました……。
あの、それでもいいって方、良かったら読んでみてください(輝)!
ゴロゴロゴロゴロ……。
と、いう振動と共に、
ジャラ……。
何処か聞きなれた、金属が擦れたり揺れたりする音を耳にしたボク。
揺れの中で、時々大きく揺れる感覚に不快感を覚え、暗闇から光ある世界へと目を覚ますと、
「やっとのお目覚めの様ね」
黒のTシャツにフード付きの赤いパーカーと、茶色のハーフパンツジーンズを着て、赤い色をした瞳にブロンドの髪を背中にかかるほどの長さの三つ編みにした、細身の綺麗な女性がドスを利かせた声でボクの目覚めを迎えたのだ。どうやらその小麦色の肌の色から、アーシャ達と同じランシャオ族だという事は何となく解るボク。
「……へ、ここは一体? 確かボクは『ババルゥの大キッチン』にいて……そ、そう、いきなり地面が無くなったかの様になって……」
と、軽い頭痛が響く頭で今までの事を思い出すけれど、落ちる様な感覚に襲われてから先が全く記憶に無いのだ。
ここは何処だろ……? それにこの揺れは??
思い出しながら頭を軽く押さえた右手首をふと見れば、そこには黒くて丸い懐かしいものがチラリと確認できるボク。
……まさかねー。
なんて思いつつも、ヒヤリとした首元を確認すれば、そこにはしっかりと触りなれた冷たいモノが見事に居座っているのである。
あー……うん。
お帰りなさい、このひんやり感……。
何処か虚しい言葉が、ボクの胸の中でポツリと零れたのだった。
「早速だけど、この状況を理解してもらえるかな? お嬢ちゃん」
懐かしさと虚しさに浸るボクに、赤い瞳を鋭く変えて問いかける彼女。
ボクはそんな言葉に周りを見ると、ボクの周りには他に五人の同じ様に鎖付きの腕輪と首輪をされた女性や少女までもがこの場に収容されている様子。
そして時々外から聴こえてくる馬の息遣いや蹄が地面を蹴る音から、ここは馬車か何かの中といった所らしい事は想像は出来る。
どうやらこれらの様子から、ボク達を乗せたこの一行は、何処かへと連行されているらしい。
うーん……。目が覚めたら腕輪と首輪に、見知らぬ馬車か何かの中で数人と一緒に移動中、と。
これってもしかしなくても、やっぱりアレなのかなぁ。
ポリポリと右こめかみを掻きつつ、
「けっこうヤバ目ですよね~……これって」
苦笑いを向けながら、問いかけた彼女に問い返す。
すると彼女は、鼻で笑いを一つして、親切にもコクリと頷いてくれるのである。
「『悪魔の誘い(デイビーコール)』と、言えば解ってもらえるかな?」
デイビーコール? 何ソレ??
言われ、首を傾げるボク。
きっとボク以外ならこの呼び名で全てを理解するのかも知れないけれど……いかんせんボクは元々この世界の人間じゃないので、全く理解に苦しんじゃうんですけどー……。
「あははは、驚いた。この『悪魔の誘い(デイビーコール)』と聞いても顔色一つ変えない女が居たとはね。この仕事を何年もしてて初めての体験ね、これは。普通ならこれを聞けば青ざめるか泣き顔を浮かべるかして顔色を変えるのに」
ボクの表情を見て笑い声を上げる彼女。
やー、言われても意味が解らないから理解に苦しむだけだし、恐怖とかそうゆうのは二の次なだけだからね。
でも、何となくこの状況から『誘拐』の類かなって事は解るし……怖いは怖いけど、何処かリアル感が感じ無いんだよね、本当の所。
多分、今日一日で不思議な事が続きすぎてボク自身が少し麻痺してるのかも知れないなぁ。ほら、まるでゲームかアニメや漫画の世界に居る様なそんな感じで。触れるものとか全部リアルに感じるんだけれど、頭の何処かでは『ゲームかアニメや漫画のリアル感』て、膜かなんかで覆っちゃってるのかも。
そんな事を考えていると、彼女は笑みから冷静な表情に戻して、
「まあいいわ。アナタがこれから起こる事も理解してるのか全く理解して無いのかは解らないけれど、ここに居るアナタ達のこれからの運命は変わらないから。とりあえず目的地までの中継地点で一度身体検査するけれど、妙な気は起こさない方が身の為だって事は言っておくわ。一応その魔錠はさせてるから魔法も精紋も扱えない様にはしてるけれどね」
淡々とした口調でクギを刺した。
やがて沈黙が再びこの場に戻らされると、ふと見た少女と視線が合う。
それは、何処かで……と考えたその瞬間、ババルゥの大キッチンにてボク達にぶつかったあのクローバー売りの少女だと気がついたボク。
すると向こうもボクに気がついたらしく、声には出さぬ様に微笑みを向ける。
そっかー……彼女もボクと同じ様に捕まっちゃったんだ。
こんな幼い子までいったいどうするつもりなんだろう? 身代金を要求するにしてもこの子の姿から見て解る様に、親なんて居そうにもないし、居たとしてもお金なんて取れそうも無いハズだし……。
ボクは微笑みを向けてくれた彼女に、微笑みながら小さく手を振って返した。
と、すると身代金以外の目的の為にここへと集められて、何処かへと運ばれてる訳か。それじゃ一体何の為なんだろう?
そう言えば、さっき何処かに着く前に途中の場所で『身体検査』するって言ってたっけ? 体を診るって事だから……もしかしたら、自身売買とかそういうかなりヤバ目のなんじゃないかな……。
すると、背中から嫌な汗がツー……と一筋流れ落ちたのを感じたボク。この命の危機的状況と浮かぶ思案に、寝ぼけてた頭からリアルさが滲み出て来たのだろう。
そうだ、何とかしなくちゃ!
そう思えたのもつかの間、次の瞬間には、
でも、どうやって? 元々『魔法』や『ルマ』なんて使えていないボクに、どうやってそれらが普通に使えている相手から逃げれるというのだろう……。
なんて言葉が浮かび上がってきたのだ。
……解んない。でも、きっといつかは好機はあるとは思うからその時に何とかすれば、ひょっとしたらこの状況を打開出来るかも知れないっ。
やがて、馬車馬のブフゥッという息が聞こえたのと同時に馬車も動きを止め、
「さ、着いた。一人ずつ馬車から降りて私達の言う通りに動きな」
彼女の一声がボク達を縛ったのだった。
「次っ」
森の中に、ひっそりと隠れる様に作られたやや大きめテントへと一人ずつ案内されるボク達。
テントの前には、二人ほど短剣を腰に携えた見張り役の女性が立っている。あの短剣には『少しでも可笑しなマネを見せたらたたっ斬るよ?』という警告と威圧を兼ねているのだろう。
そんなテントがボクから見える限りで三箇所あり、同じ様に短剣を携えた者が立っている。ここではボク達だけでは無く、他の所かも同じ様に連れ去られたんだと思える人々が集められて居て、それなりに大所帯になっている様子である。
「次っ」
然程も変わらぬペースで、一人一人が入ってはテントを出てゆくのを黙って見るボク。
やがて、テントの中に居る者の『次っ』という指示に、ボクもテントの中へと押し込まれた。
押し込まれ、数歩程歩いて目にするのは、抜き身の短剣を片手に持った一人女性と、テントの奥であぐらをかきながらこちらを見据えて座っている、あの一緒の馬車の中に居た女性の姿。
「そのすぐ足元にある魔法陣の中に入りな、お嬢ちゃん」
ボクはそう指示され、言われるままにそれらしい二重線の円の中に五芒星と何やら文字が描かれた円形の石の上へと足を運ぶ。それは直径1mはありそうな円形に、厚さが薄くも丈夫そうな石である。
「今からその魔錠を横に居る私の部下が外すけど、その魔法陣の結界から出たり余計なマネはしない事ね。別に何かあるならしても構わないけどー……こっちが妙な動きを感じたら、直ぐ様その短剣がアナタの首をサックリと落とすから、そのつもりで行動してね」
ニッコリと微笑まれつつも怖い事を言う彼女に、苦笑いを浮かべるボク。
そのつもりで行動って言われても、この状況じゃねー……。
なんて思っていると、彼女が鳴らす『パチンッ』という指の音と共に、ボクの周りの空気が一瞬にして変わり、そして今までつけていた腕輪と首輪がいともアッサリと外されたのだ。
「それじゃ、邪魔になりそうなものは外れたし、その服脱いで裸体を見せて貰おうか?」
その姿を見て、淡々と次の指示を出す彼女。
こんな身体なので、ボクとしてはすっごく嫌です。
なんてキッパリと言えないこの状況に、しぶしぶと自分の身体なのに自分の身体じゃないものを露にして行く。着慣れないブラに必死で背中に手を伸ばして外し、パンツの端に親指を入れて……。
「……ン。何を戸惑ってる……?」
その声に少々苛立ちの色を滲ませて彼女は問いかける。
そりゃ……戸惑うでしょう? だってボクはこんな声と身体をしてるけど中身は男の子なんだよ?
男の子感覚だから上半身のものを脱ぐのは然程は抵抗は薄いけれど……自分でこうなってるのを見るのは恥ずかしいんだからね……? それなのに、この下も脱ぐなんて出来る訳が無いじゃないっ。
「う、上だけで……勘弁してくれませんか?」
「無理に決まってるでしょ? 今まで脱いで何処にも精紋が見当たらないんだから、そこのどこかにあったらどうする? 私達にしたらその精紋の種類でも多少はアナタの価値が変わるんだからねぇ。女の場合は継承確立は悪過ぎるけれど、買い手にしてみたら、ある意味、精紋事体がコレクションの一つだから、継承問題なんてどうでもいいのよ」
……なるほど。どうやら話からしたら人身売買は的中してるとみえる。ここはその為の大よそな値踏みをする場所って事らしい。
ボクはそう納得しながら、
「残念だけど……ボクには生まれつきルマは無いよ? 知り合いに身体を見て貰ったけれど見当たらなかったし」
そう彼女に告げる。
知り合いにと言いつつも、実はアーシャの事だったりするんだけれどね。
すると、しばしの沈黙がテント内に漂い、
「あはははっ! なるほどね。どうりで馬車の中で私達の組織を聞いても顔色一つ変え無かった訳ね。
……これはもしかしたら凄い稼ぎになるかも知れない。いや、それよりも……」
突如彼女は笑い声をテントに響かせたと思ったら、直ぐ様何やら考え出し、一つボクへと提案する。
「アナタ、私達の仲間にならない?」
と。
……へ?
彼女の言葉に、親指をパンツの端に差し込んだままという何処か情けなくも恥ずかしい格好のまま、その場に呆けてしまうボク。
あー……そっか。やっぱりこの彼女も何らかの誤解をしてる訳かー……このルマの無いって事自体に。
そう納得しかけるボクに、彼女は言葉を続けるのである。
「アナタの階級シンボルが何処にも無いから服装からしか判断は出来ないけれど、多分12階級中の真ん中より少し低いくらいの使用人か何かでしょ? 最下級は元々シンボルは持てないけれど、そのなかなか良さそうな服装から最下級なんて事は無さそうだしね。もしそうだったら月に4万ソルぐらしか貰えないだろうから……私達の仲間になれば月にその倍の8万ソルは出すけれど、どうだろう?」
8万ソルと言うと……約四倍ぐらいだから日本円にして32万円くらいかな?
言われて、ふと計算してみたりするけれど、別に『仲間』なんかになる気はさらさら無いボクは、
「悪いけれど、あんな幼い子どもまで連れ去る様な連中の仲間なんて願い下げだね。それにお金に魂を売り渡すほどボクは器用に人生を歩んできた訳じゃないからお断りするよ」
目の前の彼女を睨みつけながら、吐き捨てる様に言うボク。
「あははは、流石だね。女にしては威勢がいいだけはある。けれど、コレだけは覚えておきなさい、お嬢ちゃん。威勢がいいだけじゃ、何も変える事は出来ないし、例えアナタ一人がとんでもない力があるんだとしても、それを上手く使えなかったりしたら、たった一人で出来る事なんて思っている以上大きくは無いって事。この世界、ずる賢くてでも、賢くなければ生き残れないって事を。きっとアナタが言う『幼い子』にだって、生まれてからずっと嫌って程に身体や頭に刻み込まれてると思うわ。
……まあ……そんな事はどうでもいいわ。明日の『聖樹の日』の夕方までに気が変わったら私に言ってくれればいいわ。因みに私達の仲間になった暁には、絶対に後悔はさせない事を約束してあげる」
と、言う事は、ボクのタイムリミットは『明日の夕方まで』という事らしい。それまでにどうにかして何とか逃げ出さなければ……。
そう考えながら、彼女の『服を着ていい』という言葉に脱いだメイド服を着、再び腕輪と首輪を隣に立っていた女性に装着されて外へと出たボク。
「大丈夫だった? お姉ちゃん」
すると、そんな子どもの声に問いかけられ、その声がした方向へと振り向けば、そこにはあの一緒の馬車に乗っていたワンピースの女の子が、とても心配そうな顔を覗かせていたのだ。
「うん、平気だから。えっとー……って言うかまだ名前を聞いてなかったね。君の名前は何ていうの?」
あははは……と、苦笑いを浮かべて尋ねてみると、彼女は一瞬視線を地面へと落として、
「名前、私には無いんだ。私、捨て子だったから」
ニッコリと微笑みを浮かべたのだ。
そんな彼女の言葉に、ズキンッと一瞬の痛みが胸を通り過ぎて行く。
ボクに、当たり前の様に親から貰った『妖一』という名前があるのに、この子にはそんな当たり前の様にある名前さえも無いんだ……。
改めて、この世界の悲しい現実を思い知らされる気がしたボク。
「……名前が無くてもこれからは平気かも知れない」
へ……? 名前が無いと不便だと思うんだけれど……??
でも『これからは』ってどうゆう意味なんだろう?
「不便だと思うんだけれど……それってどうゆう事なの?」
ボクの問いかけに、意表を突かれた様な不思議な顔を浮かべた彼女は、次の瞬間にはフフンッと可愛い笑みを零して、
「だって『悪魔の誘い(デイビーコール)』に呼ばれた時から私達は人間でもなくて、変わりがいっぱいあるモノと同じだから。もしかしたら直ぐに要らなくなるかも知れないモノに名前は必要ないと思うし」
当たり前の様に、非常識な事を日常事の様に説明する。
何……ソレ。
と、心の中から言葉が零れ落ちた。
「そんなのおかしいよっ、何でそんなに平然としてられるの? 要るとか要らないとか……」
ボクの驚きに、彼女は少々困惑した表情を浮かべ、
「おかしいの? 私にはそうゆうのよく解らないけれど……それが私が見て来た日常だったし、もしそれが本当に『おかしい事』だったとしても、最下級の階級の私達にはどうする事も出来ないから、仕方ないかも。
……それに、私は生まれた時から親からは『要らないモノ』だったからね」
最後に苦笑いを見せて語ったのだ。
抗えない運命だから? それが当然だから仕方ない??
そんなのおかしいし悲しいよ……。
それが当たり前としてるのを目にしてる事実が、ボクには苦しく切なくなるのである……。
すると、ボクがそんな事を思っている中、
「さっ! ぼやぼやしてないで目的地へ向かうよっ!」
と、あのリーダー挌の彼女の檄を飛ばす声が聞こえてきたのだ。
「さ、何かされる前に馬車に乗ろうか」
「うんっ」
差し出した手に、まだ小さい手で握り締める彼女。
小さいこの手には、幾度の不幸に悲しく握り締め、いくつの苦しい涙を拭ったのだろう? そしてこれ以上どれだけ土や泥などでこの小さな手が荒れれば、救われるのだろう……。
ボクは、この子の手を、心の底から言葉に出来ぬ優しい思いと共に握り返した。
ボクと少女は、再び同じ馬車へと乗り込み、やがてパチンッと鞭を打たれた馬の声を耳にして、馬車は行方も知らぬ場所へと向かい出発したのだった。
ボクと彼女と彼女の縁結び記
第二十二縁『ボクと少女とドナドナ。そこにある抗い様にも無い非常識な現実に、ボクは……苦しく切なかったんだ』
お疲れ様でした~。
本当に遅れてしまってすみません(汗・汗)。この時期から花粉症で身体が悲鳴を上げるんですよぉ……なので少し辛いので遅れてしまったりするんですが……こんな☆ジャム猫☆のお話でよかったら、また読んでやってくださいな(苦笑)。