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第二十一縁。

「おはよう、妖一よういち

 まぶたに感じる明るい光にボクは目覚めると、ぼやけたまなしの向こうにはニッコリと優しい笑顔で迎えるアーシャの姿。

「おはよう」

 ジャラリと軽く鳴る金属音を耳に、ボクの首輪からとつながるくさりを目で辿たどれば、ニッコリと微笑ほほえみながらもシッカリと何処どこへも行かぬ様にとにぎめているご様子。

 きっとこの鎖が無かったら、凄くいい絵に見えたんだろうな……なんて思っていると、

「妖一、今日は少し付き合って欲しい場所があるんだけれどいい?」

 ふと問いかけられるボク。

 そんないいも、悪いも、アーシャの言葉にはきっとボクに拒否権なんて無い事は解ってるハズだろうにね。

「そう、ありがとう」

 うなずくしかないボクの頷きに、嬉しそうに笑って返すアーシャ。

 うん。とりあえずこの鎖と首輪を外して欲しいかな……なんて、ボクはアーシャのベッドに座りながら思ったのだった。


 人間、何事もれがある様に、かがみが映すボクの姿に何処か『本当は男の子だという現実』が薄れて来ているのかも知れないと思えるボク。ただ、当人のボク一人を抜いては。

「はい、これで完了だよ~お兄様」

 テキパキとボクのメイクやら着替えやらを済ませてくれたシャロンちゃんは、ボクと映る鏡の前で、笑みをこぼしながら仕事の成果を確認する。

「妖一、一日しかしてないのに、まるで昔から着ていた様にシックリとくるね、そのメイド服姿。とても綺麗きれい可愛かわいいよ」

 くるぶしまである茶色いジーンズにクリーム色のTシャツ姿のアーシャは、悪戯いたずら気味な微笑を見せながらボクへと近寄る。

 ……どーせボクは中性的ですよ。そりゃメイクも完璧なら女装もいすぎてますからねー。ましてメイド姿なら、そこら辺のメイド喫茶きっさ店のスタッフさんより似合ってますから。

 なんて心の中で少々自暴自棄じぼうじき的な事をつぶやいてしまうボク。

「あははは、めてるのにそんな顔をするもんじゃないよ、妖一」

 鏡に映るボクの顔を見て、ふと笑いながら言うアーシャ。

「前にも言ったけれど、ボクは男の子で、そんなのは褒め言葉でも何でもないんだからね? アーシャ……」

 と、タメ息混じりに言葉を零すボク。

 きっとアーシャは解ってはくれないのかも知れないし、もしかしたら解っていつつもからかうのが面白おもしろくて同じ事を言うのかも知れないなぁ……。

「綺麗なものを『綺麗』と言うぐらい、別に何も構わないでしょ?」

 そんな言われた方が何処かずかしくなる様な台詞せりふを、ニッコリと微笑みながら言うアーシャ。

 ……でも、この姿で言われてもなぁ。なんてポツリとボクは呟いた。 

 するとアーシャは鏡の前でヘアゴムの様な物を口にくわえながら、その綺麗なブロンドのロングストレートを後ろ頭で一つに集めてい上げる。

「ん? どうした妖一?」

「ううん、何でもない」

 正直ドキドキした。フワッと広がったアーシャの優しい香りが直ぐ隣で香り、かみを一つに結い上げたアーシャの姿もとても似合ってたから。ボクを綺麗と言うアーシャの方が、何倍も綺麗に見えるのは、きっと気のせいじゃなとボクは思うんだ。

「あ、そうだ、お兄様」

 ポンッと、唐突とうとつに何かを思い出した様に手を打ったシャロンちゃんは、メイク道具やらが入った白い箱の中を探り、

「はい、お兄様に私からプレゼント」

 そう言って箱から持ち出してきた赤い指輪をボクの指にはめる。

 それは小さい赤い宝石の様なものがついた銀の指輪である。あんまり大きくも無い小さな石なので、赤という派手はでな色にも関わらず、悪目立ちは全くしない。

「綺麗な指輪だね~。でもいいの? こんな綺麗な指輪なんてボクが貰っちゃっても?」

 首を軽くかしげつつボクは問いかけると、シャロンちゃんはそんなボクの言葉にクスクスと笑いながら、

「その指輪はお兄様じゃなきゃ意味が無いの」

 と、意味不明な答えを返すのである。

 へ? どうゆう意味……だろう?

 なんてボクが不思議がっていると、シャロンちゃんは何やら口元で呪文の様な言葉を小さな声で詠唱えいしょうし始めたのだ。

 やがて詠唱しきり、一つ力のある声で、

転換具現フォーチュ・リイズっ!」

 そう言い放ったのだ。

 その瞬間、目の前がいきなり暗幕あんまくを落とされた様に真っ暗になり、ボクの目に光が戻った時には愕然がくぜんとする後景が待っていた……。

「……胸が」

 しばしの沈黙ちんもくを破り、ポツリとボクの口から零れたのはそんな一言。

「うん、じょう出来できでしょ? アーシャお姉ちゃん」

「そうね。いきなり胸が大きくなってもおどろくし、少し控えめぐらいでちょうどいいかも知れないわ」

 鏡に映るボク自身の姿に頭が真っ白になるボクを置いてけぼりにして、楽しそうに二人は会話するのである。

 ボクは身に起きた事を信じられずに、恐る恐る出来立てのモノを自分でさわってみる。

 ……何コレ。柔らかいし、まるで本物みたいに触れた感覚と触れられた感覚があるんですけど……。ちょっと待ってよ、それじゃ何? ボクは中性的じゃなくて本物の『女の子』になっちゃったわけ!?

 戸惑とまどいつつもボクは、今まで付き合ってきたそこはあるハズのものへと嫌な汗で汗ばんだ手を運ばせる。

 あはははははは……あるハズの物が無くて『始めましてこんにちは』な変な感覚が……。

「大丈夫だよ、お兄様。それ全部はニセモノで、本物はちゃんとあるから」

「へ? ニセモノなの?? ちゃんと本物はあるの!?」

「うんうん。疑似ぎじ体験に近いもので、この魔法にかかってる時は実際の本物のモノは眠らされてて、作られたニセモノの方の感覚を感じるの」

 死にそうな程にあわてながら、それはまるっきり女性の声で問いかけたボク言葉に、シャロンちゃんは頷きながら、

「この魔法、普段なら12時間くらいの時が来れば元に戻るから心配しないで。でも今は、指輪の力を借りて4倍まで効果をもたせてるから元に戻るのは二日後かな~。あ、ちなみに指輪は元に戻るまで外れる事はないからね、お兄様」

 かけた魔法と指輪について説明する。

 二日もこの感覚を体感しなきゃいけないのか……。

 なんてげんなりするボクにアーシャは優しい声で言うのである。

「これで妖一に万が一の事が起きても『男』と見つかる事はないし、安心ね」

 と、ボクにとって悲しくも何処か嬉しい事を。

 もう、何だか勝手にしてって感じだよ……ボク。

「それじゃ行って来るね、シャロン。指輪作ってくれてありがとうね、それともしも何かあったら直ぐに呼んでねっ」

「あ、はい、どういたしまして。それじゃ楽しんできてねアーシャお姉ちゃんに、お兄様」

 アーシャの言葉に微笑みと手を振って部屋から見送るシャロンちゃんの姿。

「てか、何処に連れて行く気なのさ!? ね、アーシャ……」

「いいからいいから」

 答えにならない答えを返されつつ、ボクは何処かへと連れて行かれながら、シャロンちゃんへ手を振り返したのだった。


「ここは?」

「ここは街の西区で、通称『ババルゥの大キッチン』と呼ばれてる区間。様々な地域からの食べ物や道具や武器が集まる大商業区街よ。ここなら特殊な経路を使って海の無いババルゥでも魚や貝なども手に入るし、珍しいアクセサリーや服も手に入れる事も出来るわ。まー、それだけあって他の場所より少し価格は高いけれどね」

 どこまで店舗てんぽがあるのか解らないくらい店が連なり、店を持っていない人も路上の少しのスペースに布をいてお店を開いていたりする。そしてそれだけでは無く、車が四台横に並んでも平気なくらいの大きな道に、何処からいて来たのか解らないくらいの大勢の人で埋めくさんとしている、そんな後景がボクの目の前に広がっているのだ。

『今日は新鮮しんせんなファース産の魚が獲れたよ! どうだいそこのお姉さん?』

 と、何処からかお魚屋さんの様な声が飛んだと思えば、

『安いよ安いよ~、見てこの綺麗な形をしたお野菜は? 野菜嫌いな子どもにおススメの美味おいしい野菜だよ~』

 なんて八百屋さんらしき場所からの客呼びの声が行き交っている。

 それはとても一生懸命で、街の人々一人一人がかがやいている様に見えたボク。

にぎわってるでしょ?」

 ここに居る街の人々と同じ様な服装をしたアーシャは、ニッコリと微笑みながらボクに問いかけ、

「うん。凄い人数でこっちが圧倒されそう」

 いいなぁこうゆうのと感動しつつも、人数に苦笑い一つ浮かべて頷き返したボク。

 するとそんなボクに、ドンッと一人の10歳くらいの小さい女の子がぶつかった。

「ご……ごめんなさい」

 と、ぶつかり、ボクのメイド服を汚してしまった事におびえながら謝る少女の姿。ぶつかったのと同時に手に持っていた何かがパラパラと零れ落ち、そして自分の足でみつけてしまった様子である。

 ふと彼女の服装を見れば、それは何度も何度も洗っては着たのだろう、その子が着ているワンピースは元の色が解らないくらい薄れ、ボクらの世界でならもう普通は捨ててしまう様な、そんなみすぼらしいワンピース姿に、どろや砂で真っ黒になったままの素足である。

「あ……クローバーが」

 悲しそうに零して、自分の足を退ける少女。そこには踏みつぶされて無残むざんな姿になってしまった四葉よつばのクローバーが10本近く落ちていたのだ。

 そんなクローバーの姿に悲しくて涙を零しつつも、ボクへと謝る少女。

「洋服を汚してごめんなさい……一生懸命働いて……弁償べんしょうしますから……」

 涙を服でぬぐいつつも、次から次へと涙が零れてきて仕方しかたない様子である。

 え……。そんなに謝らなくてもいいのに。前を見てなかったのはボクも同じなのに……。

 ボクはそう思いつつ彼女の視線の高さに合わせ、ニッコリと微笑んで頭を優しくで、

「綺麗なクローバーね。良かったらそのクローバーを全部アタシに売ってはくれないかな?」

 そんなに泣かなくてもいいよ? と、そう言おうとしたボクよりも先にアーシャは優しく問いかけたのだ。

 そのアーシャの言葉に戸惑う少女の姿。

「手持ちは少なくていくらも出せないけれど……コレで品代とび代は足りるかな?」

 と、真ん中に穴の空いた銀の小さな硬貨の様な物を一枚手渡すアーシャ。それは何処かボクの世界にある50円硬貨と同じ様なものである。

「気にしない。前を見てなかった妖……アタシのメイドに非はあるんだから」

「でも……私、それに服を汚しちゃったし……」

 銀の硬貨を握りながら、震えるくちびるで零す少女。

 そんな彼女にボクは再び頭を優しく撫でながら、

「メイドの服は汚れてもいい様に着てるから気にしないで。それに汚れないと『この子』が仕事をしてるのに仕事をしていない様に見えて可哀想かわいそうだったから、ボク……じゃなくて私の方こそ逆に助かっちゃったよ。ありがとうね」

 ニッコリと微笑んでお礼を言うボク。

 すると、涙を拭いた少女は笑みを取り戻して『ごめんなさい。そして、どうもありがとう』と一礼と共に言ってボク達の前から去って行ったのだ。

「あんな小さい子が商売をしてるんだね」

 ふと、賑わう商店を見ながら零したボク。

 アクセサリーや小物、フルーツに肉や魚、そして剣や盾など沢山たくさんの色んなものが並んでいて、商品を売っている人の年齢も様々である。

「まぁ……ね。ここは様々な物が集まる天下のババルゥだから、ああゆう孤児こじとかは生きるために色々売れそうなものを見つけてはここに持ってきて売ってるからね」

「え……孤児なんだ。いや、でも服装がそんな感じはしたけど……」

 あの子のみすぼらしいワンピースと真っ黒な素足の姿を思い出すボク。

「……妖一の住んでる場所ではめずらしいかな? 孤児なんて」

 重いタメ息まじりに問いかけるアーシャ。

 ううん、珍しくは無いけれどね。様々な理由で施設などで生活しているボクと同じくらいか、またはそれよりもずっと下の子どもはいっぱい居るからね。戦後何年も経つと言うのに。

「ここじゃ少なくは無いよ、ああゆう子なんて……。今はいくさをしてるからね、戦で町や村を襲われたり戦場に出向いて戦死で親を亡くしたり、親から見捨てられたり。もっと酷いのは大金を出してでも作った子どもなのに、生まれたのが女って事だけで捨てられるケースよ……。その場合は町や村の外に捨てられるから、運がよければ生きれるけれど、大概たいがいはモンスターとかの餌食えじきにあって死んじゃうわ」

 と、重い口調で語るアーシャ。

 その表情は、とても品物を見てるとは思えない悲しい表情である。

「大金?? お金で子どもが買えるの!?」

「そんなの子どもは買える訳ないじゃない。買えるのは『子種こだね』の方で、それも闇の市や月一回ほど行われる正規のオークションで一晩一回1万ソル以上とか高額で落として男性ととぐの。精紋ルマしや男性のルックスから階級や家柄いえがらで上限も大きくなるらしいし、品質って言っちゃうと変だけど、そうゆうのをあんまり気にしないなら闇の市でもっと安く出来るそうだけれどね」

 はいっ!?

 ふと問いに返された答えに思わず硬直するボク。

 子種って……。そして夜とぐ? 高額で?? えっとー……それってもしかして。

「秘め事を大金を出して競り落とし、そしてするって事……?」

 背中に変な汗が出る感じを何処か感じながら、苦笑い一つして問いかけるボクに、彼女、アーシャは何処か疲れた様な表情を浮かべて頷いたのだ。

 ……あはは、馬か牛か犬か何かですか。

 心の中でむなしくも悲しいツッコミを入れつつ、

「平均月収ってどれくらいあるの?」

 気になった事を問いかけてみるボク。

 アーシャは少し考えて、

「そうね、階級や仕事の内容にもよるけれど、だいたい普通の階級では7万5千~8万ソルくらいかな?」

 おおよその金額をはじき出してくれる。

 そうなると……階級とか解らないけれどボク達の世界で平均30万円と考えると、ここじゃ4分の1くらいになるんだ。それじゃ1万ソル以上というと4万円以上? くらいかな。

 ……そっか。この世界では男性である事が特別だから、生まれた子どもが男の子だと、物凄い玉の輿こしが狙えて、なおつ資金源にもなり産んだ母親にも様々な特権がもらえたりするんだ……。

 だから生まれたのが女の子だと、育てるだけのお金があればいいけれど、それさえも無ければ育てられずに捨てるしかないし、大金払ってまで作れた子どもでも希望が持てなくて孤児になっちゃうんだ……。

 ボクはそんな辛い現実を聞いて、何とも言えない悲しさに襲われる。

「さっきの子も、きっとそんな子どもの一人よ。この先、戦が続く限りもっともっと増えてくわ」

「辛いね」

 アーシャの言葉に、胸の痛みを感じながら零す。

「辛いよ。でも、アタシ達『ランシャオ族』は知ってる様に『生きているだけで罪深い一族』とされてるから……ね」

「へ?」

「でも、アタシはそれでもあの子達の様なのを増やしたくないし、今居るあの子達を守りたいと思う。だからアタシは戦うの、どんなにアタシの身体からだが血にまみれてでも。

 だってさ、いつか素直に笑いあえる日を迎えたいじゃない、あの子達や今居る小さな子達に同じ様な思いをさせたくないじゃない。こんな思いはアタシ達の世代でもう十分だからね」

 と、太陽の様な素敵すてきな微笑みを浮かべて語りきるアーシャの姿がそこにはあった。

 本当にアーシャは、強く優しい心の持ち主だとボクは思う。

 ボクは今になってアーシャがここに連れて来た意味が解った気がした。

「皆、一生懸命生きてるんだね。ここの賑わいと、皆が見せる一生懸命さと輝きを見て思うんだボク」

 すると、ボクの言葉に微笑んで、

「そう、皆は必死に生きてる。そして毎日を色んな事があるけれど輝かさせてる。

 ね、妖一、ここに居る人々の姿は妖一が知ってる人と何ら変わらないでしょ? アタシ達『ランシャオ族』だって同じなんだよ」

 優しい声そう言うアーシャ。

 ボクは素直にその言葉に頷いたその時、

「あ、ごめんなさい」

 行きう人で混雑する中、ふと誰かの肩か何かにぶつかったのは。

 ボクは直ぐ様に謝るが、誰にぶつかったか解らないのである。

 うーん……こんな混雑してる中で誰と特定するのは流石さすがに難しいかもね。

 なんて思っていたその刹那せつな、今まで立っていた場所から急に地面が消えた様な感覚に襲われ、足元を確認する間も無く地面へと吸い込まれたのだった…………。



 ボクと彼女と彼女の縁結び記

 第二十一縁『ボクと指輪とババルゥの大キッチン。何も変わらぬものがそこにはあると……ボクには思えたんだ』


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