第二十縁。
すみません(汗)。今回もルビ振りが多いですけど……。中学生でも読める様にと思って振っているだけで、皆様をバカにしてる訳じゃ無いですからね……(滝汗)。
「月……綺麗だな」
ふと目にした月明かりに誘われる様にボクは、この巨大な大樹の中に作られたテラスの様な場所に出て月を眺めていた。
この世界にもあんなにも綺麗な月があるんだな。白くて、まん丸に丸くて、大きく美しい月。そして柔らかで優しい月明かりのカーテンが。
この月は、もしかしたらあっちの世界に居るゆきめさんも、あかねさんも、そして父さんも見てるのかな? そうだったら、何だかいいな……。
月明かりに照らされて、何処かそんな事を優しい気持ちで思うボク。
そんな中、どこからとも無く一つ声が聞こえて来た。
「月、好きなんだ?」
なんて言う、そんな可愛く綺麗な声が。
「あ、いや、好きとか嫌いで言えば好かもしれないかな。ただ、綺麗だなって思って見てただけ」
「綺麗、なの? お兄様」
ちょこんと、隣の部屋のテラスの様な場所に出てきたシャロンちゃんは、ボクにそう言う。
少々薄手の生地に、上品にレースを所々にあしらった綺麗な寝巻きの様なワンピース姿のシャロンちゃん。長い黒髪を今は後ろで一つに結っている様だ。
「シャロンちゃんは月は嫌いなの?」
ボクの問いかけに、ひょいっと軽々に手すりへと後ろ向きで跳び座り、
「うーん……そうだなぁ、好きとか嫌いとかは考えた事は無いけど、夜は……あんまり好きじゃないかも」
月明かりが黒髪を照らし、どこか艶っぽく見える中、苦笑いを浮かべて返す。
「へ?」
その意味深な言葉に、つい言葉が口から零れ落ち、聞き返したボク。
小さい子が暗闇を嫌うのは昔からよくあるけれど、シャロンちゃんの『夜はあんまり好きじゃないかも』という言葉には、また違う別のものに感じたのだ。
「知ってる? お兄様……」
問われ、ボクは今から話そうとするシャロンちゃんに耳を傾けた。
「……夜はね、命がゆっくりと沈んで行ったり、激しく荒られる時間なんだ。何も知らない人々はゆっくりと眠り、また繰り返し昇る朝日で目覚めるのを待つ瞬間でもあるけど、それ以外は正反対で、虚ろな闇に差し込む月明かりに魅入られた獣が、他人の肉で晩餐をする、鮮血の宴を開く幕の時間……なの」
と、物憂げに答えるシャロンちゃんの姿。
その姿は、何処か小さい子とは思えぬ妖艶さと、身が引き締まる様な恐ろしさを感じるボク。
「私達にとっても後者だからね、夜って。命の獲り合い削りあいをするドス黒くて醜い時間が流れるの。きっとこんな私にもそんな血が流れてるんだけど……私って戦向きの身体じゃないから、いつもこの時間はここで外を眺めてるんだ」
物憂げに語るシャロンちゃんはそう言って、ふとボクをみつめる。
すると、ボクを見つめたその瞳には、うっすら涙の様に何かが月明かりに照らされて光ったのだ。
「泣いてるの? シャロンちゃん」
泣いている様に見えたシャロンちゃんに、優しく微笑んで問いかけたボク。
酷く怖い事を言いつつも、泣いている気がしたんだ……。
「ううん、何で私が泣くの? 泣いてなんかいないよ、お兄様。どうして泣いてなんか……」
そう否定する声は、何処か涙声で儚げである。
「ちょっと待っててシャロンちゃん」
「え? 何?」
ボクはシャロンちゃんの言葉を制すと、よっと手すりに登り、
「えいっ!」
掛け声と共に隣へとジャンプして渡ったのだ。
隣との間は1mは無さそうだし、ジャンプで行けるかな?
そんな簡単な目測で実行に移したのである。
「ビックリしたぁ……」
ボクの着地を見届けて、目をまん丸にしてポツリと零すシャロンちゃん。
「ごめんごめん。でも、こうすれば一人で泣いたって寂しくも無いでしょ? まー……ボクなんかじゃあんまり役にもたたないかも知れないけれど」
「それだけの為に……? ここ10m以上も高さがあって落ちたら大変な事になってたんだよ……??」
何処か呆然と言われ、ふとたった今跳び越えたその間から下へ覗き込むボク。
10m以上……。暗がりでそんなに解らなかったけど、確かに落ちてたらタダじゃすまなそうかも。
軽く青ざめる思いをしつつ、
「大丈夫、大丈夫……。ほら、無事にここまで来れたしね」
笑って返した。
「あんまり無理しないでね? アーシャお姉ちゃんじゃないんだからね?」
と、心配そうにまじまじと見るシャロンちゃんの姿。
ボクはそんなシャロンちゃんにVサインを向けて、平気だよとアピールする。
すると、さっきまで涙を浮かべていたのが嘘の様に、弾ける様に笑い声を上げたのだ。
「良かった、やっと笑ってくれたね」
ボクはそう戻って来たシャロンちゃんの笑顔を喜び覗くと、
「あ、ちょっと待ってて」
ボクはふと見つけた頬に浮かぶ雫あとを、ポケットから取り出したハンカチで優しく拭ってあげた。
「頬に夜露がかかってつたい落ちちゃったみたいだね」
ちょっぴり濡れたハンカチを見せてそうニッコリと微笑んで、
「どこか物憂げなシャロンちゃんも大人っぽくて綺麗だなって思えたけど、やっぱり初めて会ったみたいな元気なシャロンちゃんの方が似合ってて、ボクはその方が好きだな」
軽く、その月明かりが照らす綺麗な黒髪の頭を撫でたボク。
そしたらシャロンちゃんは、何処かむず痒そうな表情を浮かべて、
「……シャお姉ちゃんが……ちょっとだ……ましい気がするな……」
聞こえるか聞こえないかの小さな声でごにょごにょと零したのだ。
上手く声を拾えなかったボクは、もう一回言ってと聞いて見ると、
「ヤーダ。何でもないから気にしないでお兄様」
可愛く小さい舌を出して応えたシャロンちゃん。
あははは、嫌われちゃった。でも、元気が出てきたみたいで本当に良かった。
そう心の中で安心する。
「ね、お兄様って不思議な人だよね」
月を見ながら、ふと唐突に言うシャロンちゃん。
一日で二人の女性に同じ事を言われるボク。しかもこの義姉妹からだったり。
「ここ一日よく言われます……」
「あ、やっぱり」
苦笑いを浮かべたボクに笑顔で言う。
やっぱりなんだ、そっかー……。あんまり自覚が無いんですけどね、ボクとしては。
ン? それってけっこう重症って事だったりして……。
「お兄様、今は女性の格好してるけど、本当は男性なんだよね」
「まー……うん。シャロンちゃんのお蔭で人一倍・二倍に磨きがかかって今は女性に見えちゃうけどね」
実際、女性と勘違いされたままそっちの人に危ない目にもあったしね。
なんては、口が裂けても言えなかったりする。
「この世界中に、お兄様みたいな男性が居るなんて思ってもいなかったなぁ私。ほら、男性って、生まれた時から私達女性より位が高位になったり、権力があったりして強い立場でしょ?」
「ここだとボクよりアーシャの方が十分強い気がするけどね。今日なんて子どもみたいに意地悪されたりしたし」
シャロンちゃんの言葉に、ポツリと愚痴ちゃうボク。
そう言えば、ここの世界に来てから一日しか経って無いのに、色々不幸にあったなぁ……。空ちゃんに鎖付き腕輪されたりで、森ではハグれちゃったし。いきなりアーシャのお婿さんにされて、あれよあれよと女の子の格好させちゃうは、あっちの方には襲われかけるし。お城に帰るなりお世話係の皆さんに生暖か~い視線の集中砲火は浴びるはで、色々あり過ぎる濃い一日だな……。
ふと、今までを振り返ると、涙がちょちょ切れそうになるボク。
「何だか、色々あったみたいお兄様」
そんなボクを見て、流石のシャロンちゃんも苦笑いを一つ浮かべる。
「でも、アーシャお姉ちゃんがそんな風に見せるのって初めてかもしれないかなぁ」
「え? そうなの??」
「うん、アーシャお姉ちゃんっていつも優しくて、強くて頼りがいがある、自慢のお姉ちゃんだから、義妹の私からしたら、すっごく新鮮な反応のお姉ちゃんて感じだよ~」
嬉しそうにそう語るシャロンちゃん。
確かに今日のアーシャは、シャロンちゃんの前だと凄く『お姉ちゃん』だった気がするな。優しくて強くて守ってくれていたし。
「だから、お兄様の前では子どもみたいにって言われてビックリ。でも、もしかしたらそれもアーシャお姉ちゃんの本当の姿なのかも知れないねっ、お兄様の前だけ見せるそんなアーシャお姉ちゃんのさっ」
可愛らしいウィンクを一つして、そう告げると、
「私も……今日の月は綺麗だなって思えるな」
ゆっくりと月を眺めて呟いたシャロンちゃん。
月明かりに照らされたその顔は、最初ここで見た時よりも可愛らしく輝いていて、凄く綺麗だと思ったボク。
「今度、皆で十五夜でもやろうか?」
「ジュウゴヤ?」
「あー……えっとボクの居た所(世界)だけに伝わる風習で、涼しくなった頃の夜が長い時期に見せる満月の夜に開く宴かな? お月見饅頭という白くて丸いお菓子と、ススキっていうサラサラした綺麗な植物を飾って満月を見て楽しむんだ。少しだけお酒を飲んだりしてね楽しいんだよ」
「へ~~」
ボクの話しに楽しそうに聞き入るシャロンちゃんの姿。
「満月がいつか解らないけど、今度満月になったらね」
と、ニッコリと微笑んで提案したボク。
「本当に不思議だねお兄様って! 好きじゃない夜をこんなにも満月が楽しみな夜に変えちゃうんだものっ! わ~~~早く次の満月にならないかなぁ~~」
「あははは。そうだね、早く満月の夜がくるといいね」
そう言って笑みを零すと、ふととあるビジョンが浮かんだボク。
赤いお猪口に入れたお酒を片手に白い和服姿の空ちゃんが飲み、その横でお饅頭を持った青竹色の浴衣を着た、髪を上げて結ったゆきめさんがお饅頭を勧めている姿と、そのすぐ横でお酒が入ったコップをピンク色の浴衣を着たあかねさんがボクへ勧め、二人で喧嘩をしている姿に、そんな二人の姿にたじろいでいるボクが居て、そんな中でも静かに満月を見上げて風流を楽しんでいる父さんの姿が浮かんのだ。
その瞬間、クスクスと何処か微笑が零れて来てしまうのである。
「どうしたの? お兄様?」
「あ、ううん、何でもないこっちの事だから気にしないでシャロンちゃん」
不思議そうな顔をしてボクを覗いていたシャロンちゃんに、本当に何でもないからねと返したボク。
するとその時、バタンッと後ろの方で扉が開いて閉まる音がしたのを耳にし、そちらを振り向いたボクは、
「……あ。ゴメンね、シャロンちゃんっ、ボクちょっと急用を思い出しちゃったので行くねっ」
と、目を点にして再び手すりを登って元居た部屋へと跳び帰ったのだ。
「何処にも居ないと思ったらこんなシャロンの部屋に……。逃げるな妖一っ、妖一はアタシの専属の世話係でしょ!? だったら寝る部屋だって同じに決まってるでしょうがっ!」
そう吼えるアーシャにボクは逃げる様に、
「それはやっぱり、例え女同士だったとしても勘弁してよ~~アーシャ~~」
泣き言を言い残して急いで部屋を出て行く。
「今夜は特別に外へ出なくてもいい日なんだから、そうゆう日こそ気を遣いなさいってっ!」
「あははは、何だか大変だぁ」
再び吼えたアーシャの声と、笑いながらそう言ったシャロンの声が、ボクの背中の方で聞こえた気がしたのだった。
「シャロン……何か言ってた? 妖一」
ジャラ……。
少し動くと、例のあのベッドの上でボクの首の辺りから冷たい金属音が小さく鳴り響く。
それは、皮製の少し細めの輪に、そこから繋がれた軽い金属製の鎖。その鎖を何処へ行くのやらかと辿ってみれば、言わずと知れたアーシャの手の中に。
そう、余りにもボクが逃げるので、今夜は鎖付きの首輪を首に巻かれ、一緒にアーシャのベットで寝ているのである。あの所謂お姫様ベッドという物の上で、あまりにも似つかわしくないシュチュエーションで……。
「……うん。夜が嫌いだって泣いてた」
直ぐ隣で眠るアーシャに背中を向けて横のなるボクは、シャロンちゃんの言葉を思い出しながらそう呟いた。
「そっか……夜が嫌いか」
と、タメ息混じりにアーシャは、
「それは酷だよね、シャロンにとっても。アタシ達ランシャオ族って妖一も知ってると思うけど……夜になると力が戻り、肉体の底に眠ってる先祖譲りの本来の獣の血が騒ぐんだよね……」
ゆっくりとした口調で語る。
「…………」
「まぁ……シャロンは幸か不幸か戦タイプじゃないから、無理に見なくてもいいものを見ないで済むから、アタシとしては嬉しく思ってはいるんだけどね。闇に魅入られた仲間が、狂気に深くエグく熱気でむせ返す様な血の臭いのする戦場で倒し倒される姿を見なくて済むから……」
胸に、重い何かを抱えた様に零すアーシャ。
「夜は、いつもああやって外を見てるって」
「……そっか」
ボクの言葉に何かを含みながら頷いた。
アーシャの言葉とシャロンちゃんの言葉から推測すると、夜になるとアーシャ達はいつも戦いとなって誰かを倒しに行くらしい。そして、戦いに参加が出来ないシャロンちゃんは、ああやって外を眺めては、きっとアーシャ達が無事に帰って来れる様に見てるのかも知れない。
「妖一……シャロンは優しいんだ」
「うん。ボクもそう思うよ」
アーシャの言葉に素直に頷いた。お姉ちゃん思いのいい、可愛くて優しい女の子だから。
「『頑張って』ていつもアタシ達を見送りながら、心の中じゃ『敵も味方のどちらも傷つかなければいい』って思い願ってるくらい、あの子は優しいのよ。
……さっき戦タイプじゃないって言ったけど、シャロンは頭がいいし、戦おうと思えば敵と直接対峙しないで十分戦えるくらいの才能はあるわ。
でも、その才能は診療薬師としての才能に使う事をあの子自身で選んでる。『傷つけるばかりが力じゃない』って思うくらい優しい子だからね」
そうシャロンちゃんの事を話すアーシャは、何処か優しくも嬉しそうに語る。
同じ様に、アーシャも本当に優しい女の子なのだ。
すると、アーシャは辛そうに、
「でも……戦なんてものは、そんな感情だけでどうにか成るもんじゃないし、命を狙われるからには、その命を守る為に相手を殺めなければならない事の方が多いのは当然だよね……。アタシ達にだって明日を生きる権利はあるハズだから、明日を生きてゆきたいから戦わなくちゃいけない。嫌でも肉を裂き、血に塗れなくちゃ生きてゆけない。それは……戦わなくていいのなら、戦わずに済めばいいってアタシだって思うけどね……」
と、言葉を零すのだ……。
「きっとシャロンちゃんだって、解ってると思うよ」
ふと、優しい口調で言うボクの言葉に、
「そんなの解ってる。だから……あの優しいシャロンだから『夜が嫌い』って泣いてるんじゃない。どうしようもないから泣くしかないんじゃないさ……」
ボロボロと涙声で言うアーシャ。
ボクは背中を向けるアーシャの方へ振り向いて、その長い綺麗な髪をそっと撫でる。
指通りのいい、シャンプーとアーシャの優しい香りがする綺麗な髪。
「妖一……」
ゆっくりと振り向き、ボクを見るアーシャ。
その瞳は濡れていて、ふと差し込んだ月明かりがアーシャの頬を照らし、日の差す時のアーシャとはまた違っていて、何ともいえない切ないものを感じさせる。
その姿は、何処か思わず『綺麗だ』なんて口から零れ出てしまいそうなくらい。
「アタシ達は……どうして生まれたのかな? 誰かを殺す為に? それとも殺される為に? ……何百年何千年もその歴史を繰り返し、それを伝える為にアタシ達は生まれて来たの?? ねー……妖一」
ギュッとボクへと繋がる鎖を握り締めながら、額をボクの胸へと埋めて泣くアーシャの姿が、そこにはあった。
どうしようも無く、抗える事も無く続く連鎖に、ただひたすら悲しみの涙をする女の子の姿が、ボクの胸にはあった。
普段あんなにも強く勇ましいくらいなのに、今のアーシャは、とても小さくて、ふとした事でも崩れ落ちてしまいそうなくらい、か弱い姿を見せている。
……ここにも、ボクの世界にある戦争と何も変わらない、悲しみや遣る瀬無さがあるらしい。戦争が作る傷や傷痕に苦しむ、そんな人達が存在しているのだ。
怒りの拳を振り上げるも何処へ落としていいか解らなくなる様な、ボクは何とも言えない思いを感じ噛み締めつつも、
「そんな訳……無いじゃないか」
涙が零れ落ちそうなのを堪えながら、ギュッと、アーシャの頭を抱きしめる。
誰かを殺す為だけに存在する理由。
誰かに殺される為だけに存在する理由。
そんなくだらない理由だけで存在しているなんてあってたまるもんかっ。人はもっと自由に生きていいハズだから、ボクはそんなの絶対に認めたくは無いっ!
すると、そんな事を思っていたボクに、アーシャはゆっくり顔を上げて、
「ね、妖一。アタシ、これからもきっと醜く酷い事をすると思う。何千人も殺したくないと思いつつも、殺すしかなくてしちゃうと思う。そしたら、血と肉と闇で汚れて、これ以上は綺麗な身体のままでは居られないけど……妖一はアタシを抱きしめてくれる……かな? 愛していてくれる……かな?」
切なく苦しそうに、ボロボロと涙を零しながら必死に微笑を浮かべて、問いかけた。
ボクは、ズルくて最低だ。そんなアーシャの言葉に何も言えない……のだから。
でもそれは、いずれボクの世界へと帰る日が来るかも知れないからだ……。だから、そんな出来ないかも知れない約束は出来ないし、しちゃいけない気がする……のだ。
ボクは、言葉には出来ないけれども、ゆっくりとアーシャの頭を胸へと抱きしめた。それは一生懸命なアーシャに対して最低で低俗な行為かも知れないけれど……これが今のボクに出来るアーシャへの精一杯の応えである。
やがて、そのままの状態でゆっくりと時が流れ、
「ねー、妖一。この戦が終ったら、しき……」
「へ?」
ボクに呼びかけては、言葉の途中で睡魔に誘われ眠りに着いたアーシャの姿。
何処か安心しきった静かな寝息をボクの胸で立てるアーシャは、まるで子どもの様にも思えたボク。
夜は血が目覚めると言っていたけど、今日は色々あったし疲れてるのかもしれないな、アーシャ。
そう思いつつ、アーシャの後ろ頭を二・三回撫でて眠気に襲われるボク。同じ様にボクも色々あったから疲れてるのだ。
ボクは、アーシャとボクを照らす月明かりを眺めながら、
『どうか今夜だけは、この義姉妹にその穏やかな月明かりの祝福があります様に……』
と、ふと漆黒を照らす月明かりに願い、体を眠りに預けたのだった。
ボクと彼女と彼女の縁結び記
第二十縁『ボクと月明かりと義姉妹。どうか今夜だけは……そうボクは心の底から願ったんだ』