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第十六縁。

貴様きさま……の名前は?」

 ちゃぽん。と、再び湯に浸かるボクに彼女は問いかけた。

「え? あ、あぁ……」

 色々と考えつつかったボクは、上手うまく返せずに少々モタついてしまう。

「アタシの名前は『アーシャ=クライン』よ。これから一緒になる男の名前くらい知らないとおかしいでしょ?」

 何処か少しげんそうに言う彼女。

 もしかしたら少々モタついたボクにいらてたのかも知れないし、急にこうなったきょうぐうに対してなのかも知れない。

「ボクの名前は『高杉たかすぎ 妖一よういち』って……一緒になる……」

「タカスギ ヨウイチ? あんまり聞かないというか、初めて聞くイントネーションの名前ね」

 そんな彼女の言葉に、ふと言葉が続かないボクをじろじろとのぞく彼女……アーシャ。

 えっと……何だろう? 物凄く見られてるんだけどー。

 やっぱり、この世界では男性が少ないらしいから物珍しいのかな? それとも何処か変なのかな……。

 なんて思っていると、アーシャの視線がある一点へと留まる。

「あのー……そんなにそこをぎょうされると困るというか、恥ずかしいんだけどアーシャさん……」

 そう、アーシャが目を留めたのは、タオルで隠してるある部分なのだった

「貴様、じゃ無くて妖一。妖一の精紋ルマは何処にあるの?」

 と、もう一度ボクの体のあちらこちらを見、そして再びある部分を凝視してからアーシャは問いかけた。

 ルマって何の事だろう? もしかしてそのルマってのを探して色んな所を見てたのかな?

 だとしたら、そのルマってのがここの世界の人間には無いとおかしいのかな……。

「ど、どうして?」

 何気なく問い返してみるボク。

 すると、何を言ってるの? とゆう様な表情で、

「どうしてって、普通気になるでしょ? これからアタシの夫に成る人の精紋がどんな形でどんな能力なのかってくらい。これから生まれてくる子どもに夫の精紋がけいしょうされるんだからね」

 説明されるボク。

 うーん……、どうやら男性のその『ルマ』ってものが大きく重要で、その能力と形が子どもに継承されるって事らしいみたい。男性選びの基準にもなってるのかなぁ、これって。

 でも、何だか特殊な言い方されると不思議な感じがするけど、それって普通の『遺伝』と同じだよね? もしかしたら。

 なんて考えてると、アーシャはいきなり立ち上がってボクの目の前で体を隠していた薄布を外し、

「ほら、これがアタシの精紋よ。見える?」

 自分の左胸、谷間と逆の側面のにゅうぼうに描かれたしるしを指差して教える。

「ちょ、いや……その」

 急に脱がれた事におどろきつつも、そこにあるルマというものを見てしまうボク。

 別に、その、変な気持ちで見てる訳じゃないんだから。

 なんて自分自身に言い聞かせながらアーシャの指差した所をみると、そこにはくっきりとやや小さく紋章の様なものが存在していたのだ。

 小麦色の肌の上に黄色い三重線で囲われた三日月の紋章。その三重線の間には何やら文字の様なものが描かれている様である。

「アタシの精紋は、三重線囲いの三日月の形で、能力は肉体強化。見て解ると思うけど最大強化の段階は三つまでね」

 と、説明すると薄布を巻き直して湯に浸かり、

「で、妖一のはどこにあるの? 精紋って人それぞれある場所が違うからね、一通り見た所には見当たらなかったけれど? もしかしてやっぱり……」

 タオルで隠してある部分をジロリと見るアーシャ。

 あはは……そんなご希望な所になんて無いから。というか、そもそもそんなのボクの体には元から無いからなー……。

 すると、恐る恐るタオルへと手が伸びてくるアーシャに、

「無い無いっ! そんな所にもボクには無いからっ」

 思わずタオルで隠しながら、忍び寄った魔の手から横に飛び避けるボク。

「……え?」

 あ、マズい事言っちゃったかも……。

 うっかり口をすべらせた事に、不安がボクを襲う。

 うわ、だんまりしちゃったアーシャ。きっとルマが無い事に怪しんでるのかも。

「あ、あのねアーシャ」

 上手くそうと口を開いたボクに、アーシャは突然声を上げた。

「す、凄い! 風のうわさでは聞いた事があるけど、本当に精紋が無い男性が居るんだっ」

 と、喜びと驚きが入り混じった声を。

「えーっと」

「凄いのね、妖一って。見た目からはそんな風には見えないけれど、そうなんだね」

 そう言って、一層に喜びを噛み締めているアーシャの姿がボクの目の前にあった。

 そう言われた当人であるボクには、何が何だかさっぱりって感じなんだけど……。

「そんなに凄いの? 男性にルマが無い事って? 生まれた時から何も無かったんだけど」

 不安から恐る恐る問いかけてみるボク。

「精紋を継承させる男性にその精紋が無いって凄い事よ。知ってると思うけど、精紋ってあっても二つくらいしかないのが普通だし、それでも片方、ははかたからの方はあっても力は小さくて消えちゃったりするから、例外を除けば事実上一つの力だけか、少しだけもう一つ使えるってくらいなんだけど、その力を必ず継承させる男性が生まれながらに無いって事は、ようするに『継承された力が多く強すぎて一つの精紋として形を体に表し残せない』って事だからね」

 異様にこうふんしながらそう語るアーシャ。

 そうなんだー……。

 でも、元から無い世界で生まれてるボクだから、きっと物凄い勘違いさせちゃってるなー。

「そして力の継承は、子どもが生まれたその時に、その妻にも同時に継承されるんだから、凄い事じゃないっ。もしかしたらアタシと妖一に子どもが生まれたら、この戦いも……」

 と、ボクの事実を知らないまま、ふと視線を湯へと落として考え込むアーシャの姿。

 どうしよう、本当に何も無いって知った時が何だか怖い気がする……。

 うん。でもそうゆう事をしなければいいし、する気も無いかららぬ心配かもしれないな。

 なんてボクは思いつつ、立ち上がらない様にゆっくりと静かにその場を離れようとする。

 これ以上の長居は無用、長居は無用と。

 しかし人生ってものはそう簡単に上手くは行かないもんで、

「何処行くの妖一?」

 どうやってかは解らないけれど、一瞬でボクの目の前まで回りこんで、短剣ダガー片手に問われるボク。

「ちょっと荷物を取りに戻ろうかな~……なんて」

 と、苦しい言い訳と共に苦笑い一つ浮かべるのだった。


「ここよアタシ達の街は」

 軽量型の胸当てに真っ赤なマントとキャロットスカートの様な銀のよろいを着たアーシャは、ふと立ち止まって後ろを歩いていたボクを手招きする。

 そんなアーシャに半分以上無理やりに連れて来られた場所は、何も変わらない森の風景が広がるばかりの所。

 ここよと言うわりには、街らしいものはやはり無くて、だまされている様にも感じられるのだ。

「アーシャ、何処に街があるの?」

「いいから真っ直ぐ歩いてみなさい」

 と、疑いのまなしを向けながらも言われるまま先を進んだその瞬間、まばゆい光に包まれ、

「……凄い」

 目の前に広がるその後景に思わず言葉が零れたボク。

「ようこそ、大森林の都ババルゥへ。ここはいくつもあるランシャオ族の街や村の中でも最も大きく、ちゅうすうになう所でもあるわ。そのおかげで各地のランシャオ族の特産品やしょう品が集まり、いつでも街からはにぎわいがみれるのよ」

 街の入り口で片手を広げて一礼をし、そして説明するアーシャ。

 そこは、物凄く広大な土地に緑の木々が溢れており、大きな大木の一本一本がそれぞれの家となってる様で、その大木に窓や扉がくっついている。そしてそんな家が見渡す限りに何百・何千とあちらこちら並び、人々が賑わいを見せて生活をしているのだ。中にはアーシャの説明通りに色々なアクセサリーを売っているショップがあったり、木の実や果物・肉や魚などの食品を扱っているお店もいっぱいある様だ。

「この通称『ショップだいがい』を抜けてさらに奥に行くと、そこにはちょっとした広間があって色んな人がいこいを楽しんでるわ。どう? ここも妖一の村や町(街)にも負けないくらい広いでしょ?」

「うん、凄く広いね。森の中にこんな場所があるなんて思っても見ないよ。さっきだってこんなの全く見えなかったし……」

「あぁ、それは視界結界魔法ビジョルアでここの姿を隠してるからね一応。外からじゃただの森にしか見えないから。ちなみにシッカリとした道順じゃないと魔転移通路レントを通ってここまで辿り着けない様になってるから、ランシャオ族以外は辿り着くのは難しいかもね」

 そう嬉しそうに自分の街を語るアーシャ。

 どうりで、ここまで来るのに色々クネクネと動き回ってた訳だ。

 ふと今までの可笑おかしな道のりに納得するボク。

「で、ずっと先の方にあれが見えるでしょ?」

 あれと指差すアーシャ。

 それは、ボクの視界の中央に遠くそびえる様に存在する超巨大の大樹。見た目の距離から言ってもかなり遠くにありそうなのに、ここからでも解るくらいその大樹だけは大きく太くこうごうしいまでの存在感があり、その姿に息をんで圧倒される……。

「う、うん。見えるも何も存在感がありすぎて見るなって言われても見ちゃうよ……」

「そうでしょ? ふふっ、今からあそこへ向かうからちゃんと着いて来てね妖一」

 圧倒されるボクをしりにそう言うと、アーシャは先を歩いてゆく。

「あ、待ってよアーシャ」

 と、少し大きな声で呼びかけて、先に行くアーシャを追いかけると、その場に居た小麦色の肌をした人々がとつじょこちらへといっせいに振り向いたのだ。

 ……え? 何??

 その後景に驚くボクをよそに、次の瞬間、歓声と驚きの声が入り乱れた。

「あっ! アーシャちゃんお帰りっ!」

 満面まんめんの笑みでアーシャを出迎える人々に、

「わあああっ!! アーシャ様が村に誰かを連れて来たみたいよ~!」

 アーシャの直ぐ後ろに居たボクをいち早く見つけた人たちの驚きの声。

「アーシャ様、ご無事で何よりですっ!」

 感涙かんるいで顔がボロボロになる人々も居れば、

「わぁ~可愛いあの子~、こっち向いて~」

 と、ボクをどこぞのアイドルかの様に呼ぶ女性も居たりとかで……わんやかんやでアーシャへの喜びの声だったり、ボクへの注目の声だったりと、それは凄まじい声の群れである。

「アーシャ……ちょっと怖いかも」

「何も怖がる事は無いよ妖一。皆はアタシ達の事を歓迎してくれてるんだからさ」

 アーシャの背中で脅えるボクにそう言いながら、ただいまー、皆ありがとうっ! なんてこの大人数に圧倒もされずに手を振るアーシャの姿。

「ほら、妖一も小さく縮こまってないで皆に手を振って胸を張りなさいよ」

 優しい微笑を浮かべながらボクに言う。

 ボクはその言葉に、胸は大きくは張れないけれども、腕を振って応えてみると、

「キャー、あの子、男の子みたいな女の子しててれいわいい~~」

「手を振ってるわ、なんか少しオドオドした所が『クル』みたいで愛くるしい~」

 更にキャピキャピな声が一層に強くなったのだ。

 確かに男なのに女の子みたいな中性顔ってただただ言われた事あるけど……ここでも言われるなんて思わなかったなー……。

「ほら、大人気でしょ妖一?」

「ボクはこれでも男の子だから『可愛い』って言われても……あんまり嬉しくは無いかも」

「それじゃ、妖一のために綺麗なドレスでも見立ててあげようか?」

「それ……イジメだよね? アーシャ」

 ジトー……とした視線で投げかけるボクに、

「いいや、何処か愛くるしい妖一への愛情表現の言葉だったりね」

 あははは~っと、れしく笑うアーシャ。

 何だか嫌々仕来しきたりで一緒になるとは言え、何処か嬉しそうに見えるのはボクだけだろうか?

 なんて思えてくるボクである。

「まー、皆の事は許してあげて。ここに一族以外の誰かが来るのなんて500年ぶり以上くらいだし珍しいのよ」

「何だか初めて訪れたパンダのしんきょうが解る気がするなー……今のボク」

 アーシャの言葉に、ふとそんな言葉がぽつりと零れてくる。

「何か言った? 妖一」

「ううん、何でもない」

 首を軽く横に振って、アーシャの後を着いてゆくボク。

 やがて長い人々の歓声の間を抜け切り、途中大きな踊り場にある椅子で休んでから進み、目的地へと到着するボク達。

「これ、一体樹齢何千歳くらいあるの?」

 遠くからもしっかりと確認できた目の前のその大樹を指差して問いかける。

 するとアーシャは軽く、

「80万年くらいって聞いた覚えがあるけど、確かな事はちょっと解らないかな」

 とんでもない年数をさらりと言うのである。

 80万年!?

「根回りだけでも直径5kmはあって、じゅこうは3200mあるとかだった気がするけどー……その記録自体が随分ずいぶんも昔に測ったものらしいからね、未だ生長をしてるという報告もあるから確かなものは解らないかもね」

 あはは……凄い大樹の中に家を作ったもんだ。高さだけならボクの世界にあるあの富士山から500m弱少ないだけの高さだって言うのだから……。しかも未だ生長を続けてるらしく、まだまだ大きくなるらしい。

 ボクは改めて、その大樹にはめ込まれた5メートルはあるかという鉄製の大門を目の前にして呆気あっけにとられる。

 大門があるという事は、きっと今まで見てきた様に、この大樹の中には衣食住の空間が存在するだろうなんて、あんに想像が出来るのだ。

 そして、そんな事を考えていたボクにアーシャは、

「ようこそ我が家、ババルゥ城へ」

 やっぱりそう来るよね。というボクの予想通りの言葉を告げるのだった。



 ボクと彼女と彼女の縁結び記

 第十六縁『ボクとルマと大森林の都ババルゥ。えらい所に呼ばれちゃったなって……ボクは目の前にして思ったんだ』


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