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第二縁。

 ふとチャイムが鳴る。

 こんな夜に誰だろう?

 夜の7時という夕飯時の訪問者を迎えに、ボクは玄関まで行く。

「はい開いてますからどうぞ〜」

 玄関の扉向こうに居る人へ声をかけると、すると綺麗な声で、

「初めまして今晩は妖一よういちさん」

 中に入るなり、にっこりと微笑みながら同い年くらいの女性が挨拶したのである。

 黒く綺麗なしっとりとした背中まで伸びた長い髪に、優しい笑みと端麗な顔立ち。胸元にフリルが付いた青いデニムのキャミソールワンピースから覗かせるは、白く透き通るような美しい肌をした女性である。その容姿から、まるで何処かのご令嬢さんみたいにも思える。

 え……なんでボクの名前を??

 初対面のはずの彼女に名前を呼ばれたボクは、ただ呆然とする。

「今日からこちらでお世話になる事になった『雹堂ひょうどうゆきめ』です、よろしくお願いしますね妖一よういちさん」

 再びにっこりとして、礼儀正しくお辞儀をする彼女。

「あ……はい、こちらこそよろしくお願いします」

 丁重に言われて、返事を返すボク。

 と、その瞬間思考が急に鈍くなり、

「って……え?? 雹堂って……」

 数秒、きっと数秒の沈黙を置いて、思わず問いかけたのだった。



 と、問いかけたボクの姿に『ふふっ』と笑みを零して彼女は、

「ひょうやあられの『雹』に、どうどうとの『堂』で『雹堂』と言います妖一さん」

 解りやすく説明をしてくれる。

「や……えっとそうじゃなくって……あのー……」

 ちぐはぐな言葉しか出ないボクに、彼女は優しく微笑ほほえんだ。

 あ……可愛かわいい。

 なんて、その瞬間そんな言葉が思い浮かぶ。

「もしかして手紙届いてませんでしたか? 私はその送り主の娘なんです」

「あっ! じゃ雹堂ってあの封筒の雹堂さんなんだ!」

「はい」

 と、にっこりとボクに微笑む彼女。

 なんとなく言いたい事が言えた気がするボク。

 そっかー。やっぱりこの雹堂さんなんだ〜。そっかそっか〜。

 ……。

 …………。

 ……え。

 解決した次の瞬間、ポツンと次の疑問が頭に浮かぶ。

 その雹堂さんが何でボクの家に来てるんだろう……?

 そう言えば……今日からこちらでお世話に〜って言ってなかったっけ??

 ……え!? 何で!? 娘って!?

「あの〜? 妖一……さん??」

「え? わぁっ!」

 気がつけば、目の前の彼女の顔がボクを覗き込んでいて、急に目の前に現れた彼女の顔に思わず驚いてしまったボク。

 大丈夫ですか? なんて尻餅しりもちを付いたボクに手を差し出す彼女。

 あはは……大丈夫大丈夫と照れ笑いを浮かべつつ立ち上がり、

「よく理解が出来てないんだけど……とりあえず家の中に入ってよ雹堂さん。今温かいコーヒーでもれるからさ」

 そう言いながら家の奥へと彼女を招き入れたのだった。


「美味しいですね。あんまりこうゆう物を飲んだりした事が無かったので、何だか嬉しいです」

 可愛らしい微笑を浮かべつつ彼女はコーヒーをすする。

 どこか絵になるなぁ。

 なんて、コーヒーを啜る彼女の姿に軽く見とれてるボク。

「へー……そうなんだ。でもホットじゃなくていいの? 夜になると意外に冷えたりするから温かい方が安らげると思うんだけど」

「十分これでも安らげますよ〜妖一さん」

 ふふっ。と、浮かべて返し、また一口と啜る。

 そう、彼女に出したのはホットじゃなくて冷たいアイスコーヒーなのだ。ボクがホットでと言うと、彼女が『冷たいアイスでお願いします、妖一さん』と返したので、アイスで出したのだ。

 床がたたみの居間、通称『畳の間』に彼女を通してコタツテーブルにて話すボク達。

 素晴らしい掛け軸や置物なんて無い至って普通の居間だから、かえってその方がくつろぐには最適かも知れない。

 それでも、コーヒーよりもお茶の方が似あいそうかも。

 なんて、差し出してからふと思うボク。

 居間にコーヒーの香りと三人分の啜る音が広がり、何処か居心地の悪い沈黙だけが少々漂っていた。

 ……何か言わなきゃ。じゃないと何も始まらないしね……。

 僕はそう思い、沈黙に背中を押されるように口に出す。

「えっと……雹堂さん。あのー……さっきの事なんだけれどね」

「はい妖一さん。あ、私の事なら『ゆきめ』って呼んで下さい。私も『妖一さん』とお呼びしてますし」

 にっこりと促されて、ボクはそれじゃぁ……とばかりに言おうとするけれど、何だか気恥ずかしくなって、

「ごめん『雹堂さん』でいい?」

 なんて苦笑いを一つ浮かべる。

 すると少し残念そうな顔を見せながらも、

「はい、妖一さんがそうしたいのなら構いません」

 と、微笑と一緒に返してくれたのだった。

「あのね雹堂さん。さっき『今日からここでお世話になる』って言ってたじゃない? あれってどうゆう事なのかなってボクは思うんだけれど〜……」

「あれ……? 博康ひろやす様から何も聞いて……ないんですか?」

 キョトンとした顔でボクを覗く彼女。

 彼女が言う『博康』とは、隣で眼鏡を曇らせながら黙ってコーヒーをすすっているボクの父さんの名前である。

「いや……『何かを聞いた』って言えば聞いたんだけど……ちんぷんかんぷんでさ、今日雹堂さんが家に来る事も知らなかったりなんだよね……ははは」

 うん。ボクの言葉に一切の嘘は無いよね。

 本当に意味が解らないまま雹堂さんが突然訪ねて来たかたちだからねー……。

「えっと……」

 ボクに向けたキョトンとした顔を、そのまま父さんに向けて、そしてもう一度ボクへと戻しながら、

「簡単に言いますと……」

 説明しようとする彼女。

 コホンッ。と、一つ咳払いをしてからテーブルから身を後ろに出し、姿勢を整えて彼女は、

「私、雹堂ゆきめは『妖一さんのお嫁さんになりに来た』次第です。不出来な所もただただあると思いますが、今夜からどうぞ私をよろしくお願いし致します妖一さん」

 と、にっこり素敵な微笑みを浮かべ、そして三つ指で丁寧に頭を下げて言う。

「あ、そうなんだ〜ボクのお嫁さんにね〜」

「はい」

「そっか〜」

「はい」

「そっか〜。

 ……って、えぇぇぇええええっ!!」

 ちょっと待って!!!

 そんなの知らないし、急に言われてもボクは困るって!!!

「……父……さん?」

「…………」

 ギギギギィと重くきしむ様な音を響かせる様に振り向き、父さんに問いかけるボク。

 しかしその父さんはというと、曇った眼鏡も拭きもせずに黙ってコーヒーを啜るばかり。

 やがてそれから二・三口コーヒーを啜って、父さんはやっと口を開いたのだ。

「すまん……妖一」

 その二言だけを言う為に。

 ぇぇぇえええっっっ!!

 ちょっと父さん!! 謝れてもボクは困るよ父さん……。

「お、落ち着いてください妖一さんっ。こうゆう時は冷たいものでも飲んで落ち着くのが一番いいって何かの本に書いてありましたよっ」

 はい、どうぞ。と、彼女からアイスコーヒーを手渡され、

「あ、ありがとう」

 急に、一気に渇いたノドを冷たいものを流してうるおすボク。

「ふー……」

「落ち着きましたか? 妖一さん?」

「う、うん、少しは」

 アイスコーヒーの冷たさで熱が冷やされる感じがする中、グラスをテーブルに置いてふと気が付いた。

 ……あ。

「……あ。間接……キスですね」

 どこか視線をグラスから放せられずに頬をカァッと赤らめて、恥ずかしそうに言う彼女。

 ボクはそんな彼女の姿と言葉に、心臓の音が聞こえてしまうんじゃ無いかっていうほどの大きさで、ドクンッと一つ鼓動が波打った。

 彼女がどんどんと頬を赤らめていくに連れて、僕の鼓動もしだいに大きく早く波を打つ。その間はきっと数秒なんだと思うけれど、僕には数十秒にも思えて、恥ずかしさのあまりに思わず、

「ご、ごめんっ!」

 と、慌てて謝った。

 しかし、その慌てにつられてか……、

「キャッ……」

 グラスを急にテーブルに戻したのがいけなかったか、ガシャーと響かせてアイスコーヒーを彼女の服に派手に零してしまったのだ……。

 その状況にさらに慌てて傍にあったタオルで拭くボク。けれど、タオルを取り出して拭いたものの、中々全部は拭き切れずに零れたコーヒーは染みになりそうだった。

 その姿に父さんは『申し訳ない、直ぐにその服は洗うから、その間良かったら雹堂さんはお風呂でコーヒーのベタベタを流してきてはどうかな? 思った以上にかかった様だし、きっと気持ちが悪いでしょうから』なんて助け舟を出してくれたのだ。

 すると、彼女はしばし何か考えてからにっこりと微笑んで、

「これも何か一つの運命やえにしなのかも知れませんね。では、お言葉に甘えてお風呂を頂戴いたしますね博康様」

 そう言って父さんに案内されるままお風呂場へと向かう彼女。

 途端とたん、居間に一人だけで残されたボク。

 そんな二人が抜けた空間で、ふと思ったのは……。

 これからボクってどうなるんだろね。

 なんて、少々他人事気味た事。

 一人で居る居間は、何故かとても広く感じれ、ボクに何かを考えさせてくれるのだった。



 ボクと彼女と彼女の縁結び記

 第二縁『運命って信じる? ボクは運命なんて言葉はまだ理解なんて出来ないんだけど……ね』

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