第十四縁。
2010年、明けましておめでとうございます^^ 今年もこの『ボクと彼女と彼女の縁結び記』をよろしくお願いしますね☆
それは、きっと歯車がまた一つ組み合い、そして動き出した音色なのかも知れない。
そんなボクの歯車は、ゆきめさんのお母さん『雹堂 蒼樹』さんからの一通の手紙から始まっていたのかも。
ガコン。
そんな歯車が何処か遠くで奏で響いた音色と共に、まずはボクの目の前に突然ゆきめさんが現れた。
ガコンガコン。
そして、また一つ次の音色と共に、激しく扉を壊してあかねさんが登場して……。
ガコンガコンガコン……。
三度目の歯車が組み合う音色と共に、何処からとも無く空ちゃんがひょっこりと顔を出して行く。
ボクの歯車はこうやって複雑に組み合い、そして動き出してボクの日常を作り出していくんだと、何処か思うんだ。
もしこれが神様が戯れに作ったパズルの中で、少しずつ歯車が複雑に組み合いながら動いてるのだとしたら、そこに生まれた不確定要素の中でボクは蠢いてるだけなのかも知れない。
そうだとしたら、やがて訪れるかも知れない次の音色を奏でた時、いったいボクに何が起きるのだろうか?
ふと、そんな事を思うよりも先に、歯車はもう動き出していたに違わないのかも……。
ほら、何処か軋む様に動き出した歯車が音色を奏でてるから。
ギギギィィィ……。
ってね。
ジャラジャラ……。
そんな耳慣れないけれど、でも何処か知っている金属の鎖が擦れた音が何処からかする。
それは、どうやらボクが動くたびにする様な……そんな感じ。
何だろう……?
ボクはふと不思議に思いながらゆっくりと目を開けると、僕の腕に纏わりつく黒い物体が。
……ん?
早朝からの二度寝で、いまだハッキリしない眼を、指で擦るボク。
ジャラジャラジャラ。
眼を擦る動きと共に、ハッキリとした金属音を耳にする。
えっとー……なんだろうコレ……。
少し薄っすらとした視界に見えるのは、何故か僕の腕にされている見た目が凄く重そうな金属の腕輪と鎖……である。
そしてボクと鎖の間に見えるは、腰まではあろうかという綺麗な赤いロンストレートをベッドに乱れさせた、あどけなさがまだ残る可愛らしい少女が、理科の先生などが着る様な白衣姿でスヤスヤと安心しきった顔をボクに見せて眠っている。
空ちゃんがボクのベッドで眠ってるまでは、何となく解るんだけどー……何で白衣姿で、こんな金属の腕輪と鎖がボクの腕にされてるんだろう……。
気がつけば足首にも同じ様なものがされてる……っぽいし。
んー……。
と、軽く寝ぼけてる頭で考えるボク。
すると、空ちゃんがボクの腕の中で動いたかなって思えたその時、
「ふふっ、おはよう妖一殿」
可愛く優しい笑顔で挨拶をした空ちゃん。
それは何処か、天使みたいにも思えたボク。
「お……おはよう空ちゃん」
おかげで普通に挨拶が言えなかったのだ。
「どうしたんじゃ? 妖一殿??」
「……ン? いや何でもないよ空ちゃん」
と、不自然にも見たのかも知れないけれど、ふと空ちゃんから視線をずらして問いかけに答えたボク。
「そか」
軽く首を傾げる様にし、一つ頷いてみせ、
「ここ、思っていた以上に居心地のよく気持ちいいものじゃの。初めて知った……の。何処か懐かしくも思えるが、それとまた違ういいものじゃ……」
ボクの胸板を優しく擦ってスッと抜ける様な優しい声で零す空ちゃん。
そんな空ちゃんの顔は、何処か恥ずかしさを見せる様に頬を赤らめていたのかもしれない。頷きと一緒に顎を引いてしまったままなので表情までは見れなかったけれどね。
「あはは、ずっと一人だったみたいだからね空ちゃん。きっとボクなんかよりもあかねさんや、今はここには居ないけどゆきめさんとかと一緒に眠ると楽しいし気持ちいいかも知れないよ?」
ニッコリと微笑んでそう返すボク。
そんなボクの言葉に、ふと何かを零す空ちゃん。もそもそと何か聞こえた気がしたのだ。
もしかしたら気のせいかも知れないけれど。
「ところで妖一殿、体は平気かの?」
「え? 体って??」
突然問いかけられて、問い返してしまったボク。
体って言われても……特別になんとも無いし……。あるとしたらー……コレかな。
視線を腕に纏わりつく異物に向けるボク。物凄く重そうな、そんな金属の腕輪と鎖である。
って……あれ? それって何だか変……じゃない??
自分で思って、ふと疑問が浮かぶ。
何でこんな重そうな腕輪と鎖をしてるのに、何とも感じ無いのだろう? と。
「ふふ、気がついたみたいじゃの、妖一殿」
ニヤリと、悪戯っぽい笑顔になる空ちゃん。
あー……何だか嫌な感じがするんですけど……。この悪戯っぽい笑顔を別の誰かさんでよく知っているからなお更……ね。
そうなると、これは空ちゃんの仕業なんだろうなって、思えるボク。
「ご名答、妖一殿」
まるでボクの思案を読み取ったかの様に、ニッコリと笑う空ちゃんが目の前に。
あはは……やっぱり。
ボクは一つ、タメ息を吐いて、
「この状況についてとか色々訊きたい事あるんだけれど……ボクがあれこれと訊くより、空ちゃんが説明してくれた方が早そうなので、お願いしてもいいかな? 空ちゃん」
腹をくくる。
すると嬉しそうな満面の笑みを見せて、
「そうこなくっちゃね、妖一殿」
楽しそうな声で頷いた、天才超科学者空ちゃん。
「ではでは、まずその鎖から説明をするかの」
「お願いします……」
スルスルとボクと鎖の間から抜けて、ベッドに正座する空ちゃん。そして、コホンと咳を一つして説明を始めた。
「その鎖付き腕輪はワシが作った特殊な物で、手首同士で一つ、足首同士で一つの計二つで構成されておる。それは先に言った様に特殊な物でな、普通の鎖付き腕輪とは違って重量を状況に関係無く強制的に体全部に均等にかけてくれるのじゃ」
「体全部って?」
「ほれ、鉄アレイあるじゃろ? アレを持った時に重さがかかるのは何処じゃ?」
えっと、重さがかかるのはー……。
「持った腕だけ?」
「うーん、ちょっと違うかの。順に言えば持った掌に重さがかかり、それを腕や体・足などで支える。それが普通のものの仕組み。
けれどこれは、重さを均等割りに体全体にかける。すなわち力を入れるのに必要な部分だけじゃなくて、頭や内臓から足・つま先まで体というもの全てに重さをかけるのじゃよ」
要するに……バランスのいいインスタントメタボリック?? みたいなものなのかな? バランスの取れたメタボリックて言うのも何だか変な感じたけど……。
ふと、そんな事が頭を過ぎるボク。
「いや、簡単に言えばインスタント重加減装置かの」
またボクの頭の中を覗いた様に、ニッコリと微笑んで語る空ちゃん。
「妖一殿、少し動いてみてくれるかの?」
ボクは言われて、ベッドから降りて歩いたり、しゃがんだり、跳ねたりしてみる。
けれど、重さが体にかかってるなんてちっとも感じ無いのだ。
本当に重さがかかってるのかな……?
「ふふっ、あかね(狐)につままれた様な顔じゃのー妖一殿。ワシとしても嬉しい反応じゃ。妖一殿、その鎖付き腕輪によってどれだけの重さが体にかかってると思うかの?」
「え? やっぱり重さ何てあるのこれに?」
「うむ」
「えっとー……全部で5キロか10キロくらい?」
何となく思った重量を言ってみるボク。実際言ったほどは愚か、全く無いとも思えるのだ。
「あはは。もっともっとじゃよ」
「……え!?」
正直、空ちゃんの言葉に驚かされる。
だって、到底10キロ以上もかかってるなんて思えないのだから。
すると、ボクの驚きにクスクスと笑みを零して、
「実はその鎖によって、妖一殿の体重の4分の3キロも体に加えてあるのじゃよ」
と、恐ろしい数値を軽々言う空ちゃん。
「ええええええぇぇぇっっっ!!」
驚愕。
いや、それは驚くなと言うのが絶対に無理無理。
ボクの体重の4分の3って言えば……37.5キロもあるのだから……。
総重量で言えば、今のボクの体重は87.5キロだという事である。
「でも、重さを感じないじゃろ?」
その問いかけに静かにコックリ頷くボク。
「それが解ったら、もう半分は説明が出来たのも同じじゃの」
困惑するボクをよそに、ニッコリと微笑む空ちゃん。
えっとー…………。
うん、解らないんだけど……全然。
ン? と、疑問顔を浮かべる空ちゃん。
「うーん、体重が4分の3増えても全く何も感じ無いって事は、それがいつもの体重50キロと同じ感覚になっている訳じゃよ妖一殿」
「ボクの体重が4分の1になってるって事??」
「半分当たりで、半分不正解」
微笑ながらそう言い、
「もしそうなら、妖一殿の体は凄くほっそりしてて、正に骨と皮とちょびっとばかりの内臓人間か2歳児ぐらいの体型になっておるの~。物質量が4分の1になるって事だからじゃの。ま、要するに『この世界の重力が4分の1になってる』って事じゃ」
とんでもない事をスラッと何でも無い様に語る空ちゃん……。
重力が4分の1って!?
……え、その前に『この世界』って……。
ボクは途轍も無く不安が駆け巡り、直ぐ様に直ったばかりの窓に駆け寄り、降ろしていた簾を上げて外を見る。
するとそこにはあるはずの隣近所の姿は無く、その代わりに広がるのは一面の森……。
ここ……二階だったのに……窓から外に直ぐ地面があるなんて……。元々あったここから下の一階はどうなってるのだろう……それにあかねさんはどうなってるのだろうか……。
その後景に、重くなって来た頭がグラグラっと揺れ、そのままベッドに膝をつけて座り込むボク。
ここは一体何処なんだろう……。
そんな疑問を持ちながら、スー……と空ちゃんに視線を向けると、
お手上げじゃよ。と、何も言わないまま両掌を肩上まで上げて微笑む空ちゃんの姿が。
物凄い事をしてしまうくらい天才の空ちゃんがこのポーズ。
と、なると、本当にどうにも成らないのだと、その時心底思ったボク。
「ここは何処なの? 空ちゃん。何でこんな事になってるの??」
ダメ元で、天才空ちゃんに問いかけてみる。
うーん……。と、一つ唸り声を零して、
「ま、大きな原因は解ってるけど、何故この結果になったと言うのは解明出来ないのー……。ここは何処と言う質問にも、シッカリと明確な事も言えないし……。
ただ解ってるのは、ここはワシらが居た世界とは別の世界じゃって事だけかの。重力が今まで居た世界の4分の1しかない所から考えて、急に地球の重力が減ったとも考えられないし、辺りの雰囲気や様子が元々とは全く違うから『別の世界』と考えるのが妥当じゃの」
と、語る空ちゃん。
そっか……。
頷き、ふと二言目を問いかけようとするボクに空ちゃんは、
「『原因が解るなら、元の世界に帰れるかも知れない?』じゃろ?」
先を読んでいたらしく、思ったそのままの質問を口にしたのだ。
「先に言っておくが、もしかしたら帰れるかも知れない程度の確立があったら、真っ先にそっちを何とかしてるよワシは。それが出来ないから妖一殿の為にその鎖付き腕輪を作ってあげたのじゃからなー、当分の間ここで生活が出来る様に」
「そう……なんだ」
絶望に近い、そんな思いと共に頷いたボク。
「……でも、望みは捨ててないからこそ、元の世界と同じ体で居られる様にソレを作ったのかもしれないのっ、妖一殿。いつか戻った時にここの重力で体を壊さない様にって」
ニッコリと、素敵な微笑を浮かべた空ちゃんの姿。
絶対の暗闇だとしても、そこに光を見たがって捻り作り出すのが学者の悪い性分なのかも知れないのー。ハイ、そうですか。なんてすんなり受け止めたくはないからの。なんて、笑いながら言うのだ。
そんな諦めきってない空ちゃんの姿に、少しだけ希望が見えた気がしたボク。
ふと、ボクにも希望の微笑が零れて来た中……。
ギギギィィィ……。
何処かで、そんな何かの歯車が軋む様な音色を奏で動いた様に、ボクには聴こえた気がするのだった……。
ボクと彼女と彼女の縁結び記
第十四縁『鎖と少女とボク。歯車が回り始めた先って……ボクはとんでもない事になってるじゃないかなって心なしか思ったんだ』