表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/38

第十三縁。

 ここは、ただ今、早朝6時を時計の針が示そうとしている、そんなボクの部屋。

 教科書が立て並んで置かれた机、漫画や雑誌がいっぱいに詰め込まれた本棚、お気に入りのCDが積まれたMDコンポ、そして洋服タンスにベットというアッサリとした部屋に、ボクと彼女と少女がお茶を飲みつつ淡い青のジュータンが敷かれた床に座っている。

 ふとここからのぞき見た人が居るとしたらきっと、ほんの少し前まで屋根がちりも残らぬほど燃やし尽くされ、大穴が開いたこの部屋で、今や目の前で悠長ゆうちょうにお茶をすする彼女達が戦っていたなんてそんな事を、とうてい想像すら出来ないだろう……。

 ズズッとお茶を飲み終え、コップを静かに置いて、

「で、アンタ誰なのよ?」

 と、問いかけるあかねさん。

 今はもう、さっきまでの姿とは違って、髪もいつも通りに短くなり耳も尻尾も生やしてはいない。

「ん? ワシかの?」

 はて? と言った様子で問い返し、再びお茶を啜る少女。

 なんでお年を召した方の様な口調なんだろう……。そのせいか和服姿のせいかは解らないけど……小学生くらいなのに、お茶を啜る姿が合い過ぎてるよね……この子。

 なんて事を思うのは、もしかしたらボクだけなのかもしれない。

「アンタ以外に誰が居るって言うんですか? ねー……」

 怒りの色を声ににじませつつあるあかねさん。

 きっと、何処かこれぞ『和』と言わんばかりの悠長で悠久ゆうきゅうさえも感じさせる少女に、苛立いらだてたのかも……。

 ピリッとした空気が、一瞬漂った気がするボク。

「そうか、まだワシの事を何も言って無かったのう」

 はっはっはっは。と、子ども特有の声で年月を隔てた者が発する様に笑う少女。

 ぶちっ。

 音にしたらそんな音だろう、きっと。

 隣で、漂わせる空気の色を今一つ深く黒く落としたあかねさんを、ボクは横目で捕らえてたのだった……。

「んー……『プリティー不思議少女 くうちゃん』でどうじゃろ?」

「それ、どんな少女向けアニメですか……」

 何気ない口調で言った少女に、思わずツッコミを入れてしまったボク……。

 しかも頭から『プリティー』って何時いつ世代の少女向けアニメなんだろう。

「こうな、手を胸の前で横切らせ持ってきて『くうちゃんにお任せあれっ』とな」

「はいはい、お子ちゃまに付き合うほどお姉ちゃん達暇じゃないの」

 身振り手振りで『プリティー不思議少女 空ちゃん』のキメポーズらしきものを教える少女を、一蹴いっしゅうするあかねさん。

「なんじゃ、最近の若い子はノリが悪いのー……」

「アンタの方が十分若いでしょう、おじょうちゃん」

「ふむ。まだツッコミを入れるこの子の方が可愛かわいげはあるの」

「この子って……ははは」

 ボクよりも小さい子に幼く呼ばれて、一つ苦笑いを浮かべるボク。

 ギッ! と、そのままつらぬきそうな鋭い視線を少女へと向けるあかねさん。

 あははは……。笑うっきゃないよね……多分。

 ボクはそう思いつつ、

「せめて君の名前くらい教えて欲しいかなって……ダメかな?」

 優しく質問してみる。

 隣で漂うオーラが何処か痛いし怖いので……。

「名前かー、本名はもう忘れたので、あざなの一部でくうでいいかの?」

 本名を忘れたって……いったいこの子って……。

 頭の中ではてなマークが飛び交うボク。

 とりあえず、

「それじゃ『空ちゃん』でいい?」

 聞いてみる。

 すると、にっこりと子どもらしい満面まんめんの笑みを浮かべて、

「空ちゃんでおねがいする」

 コックリとうなずいた少女……空ちゃん。

 その笑顔にこちらもつられて笑顔になるボク。

「妖ちゃん、その子『ただの子ども』じゃないから気を付けた方がいいよ……。じゃないとまた……アレされるし」

「うっ。うん……」

 少し前の事をふと思い出して頷く。

 確かにその……アレもあったけど、それ以外にも不思議な力を見せてもらったから……きっと人間じゃないって事くらいボクにも解るよ。普通の人間が、あかねさんの変化+妖力を少し開放させた状態の巨大な炎を、いとも簡単に力の分散をさせる事なんて出来ないだろうし、それに……一瞬で破壊された部屋を元に戻すなんてね。

「別に獲って食べはしないから平気じゃよ。まー……たまにああゆう事をしてもいいと、この子が言うのならさせてもらうけれどものー」

 と、悪戯いたずらっぽい笑みを浮かべる空ちゃん。

「あの……妖一よういちでお願いします。それと、そっちは遠慮させていただく方でご賢答けんとう願えれば……」

 ン? そか。と、呟いて一口お茶を啜る。

「まー……ワシは解るように『一応妖怪』みたいなもんじゃ」

 ですよねー。

 なんて、空ちゃんの告白に心の中で一つ頷いてみるボク。

「でしょうね。でも変なにおいもするのねアンタって」

「失礼な。いくら女子おなご同士でもそうゆう言い方は失礼じゃぞー」

 全くもう……。と、ばかりに言葉を吐く空ちゃん。

 まー……あかねさんの事だから、そうゆう意味じゃないとは思うんだけどね……ははは。

「失礼ついでに一つしつも~ん」

「ン? なんじゃ?」

「この部屋を元に戻した『力』って、妖術じゃないよね? アタシの知ってる感覚とも何だか違う感じがしてたし」

 ふと、問いかける。

 それはボクもどうやってと思っていた同じ疑問。妖術かどうかなんてのは解らないけどね。

「ふむ。お主の感覚は鋭いのう」

められても嬉しくなーいアタシ」

 そうバッサリと斬るあかねさん。

 まぁいい……と小さく呟いて、

「これはこの世界で言う『科学』という代物しろものじゃ。ただし、この時代にはオーバーテクノロジーであって今の時代の技術じゃ到底無理なもんじゃ。

 で、さっきやったのは『空間の特殊異空間転換保存』と『特殊ベクトル返還』と言うものでの、簡単に言えばこの空間に全く同じ空間を、新たに作り出した特殊な異空間に作り、そしてその異空間を完全保存して小さく圧縮しておくのじゃ。そして部屋が壊れたりしたら、圧縮しておいた異空間を元に戻して、壊れた部屋と保存しておいた無傷の部屋と転換し、異空間を消滅させる。そのあとは特殊ベクトルで『交換する前のワシらの時間』と『壊れる前の部屋の止めていた時間』を同時に返還したのじゃよ」

 色々難しい説明をしてくれる。

 えっと……どうゆう事だろ……。

 正直良く解らないし、話に着いて行けなかったんだよね……。

 ふとあかねさんの顔をみると、同じ様にちんぷんかんぷんといった様子だ。

「いい反応じゃの。もっと簡単に言えば『オーバーテクノロジーで部屋を元に戻した』って事じゃよー」

 ボク達の反応を見て楽しむ空ちゃんの姿がそこあった。

 とりあえず、凄い科学の力で元に戻したって事だね……了解。

 と、納得いかせるボク。

「と、言う訳でこれからここでよろしく、妖一殿」

「え? あ、はい、よろしくお願いします」

 にっこりそう言う空ちゃんに、こちらも言葉を返したボク。

 ……。

 …………え!?

「な……アンタここで一緒に暮らす気なの!? もしかして!?」

 一番に声を上げたのは、言うまでも無くあかねさん。

「平気じゃ、博康ひろやす殿には了承りょうしょうを昨日の内にてるからのう」

 たん々と言って、お茶を一口し、急須きゅうすからお茶を継ぎ足す。

「父さんとっ!?」

 思わず驚きの声を上げるボク。

 昨日の内って……ボク達が買い物に行った日の内にって事ですか……。

 ボクは頭を抱えて一つ真面目まじめに思う。

 父さんは一体何を考えてるの……? と。

「うぬ。それに、ほれ、部屋ももう作ってあるから部屋割りの心配は無いから気にするな、な」

 そう言って、勝手に物置スペースとしてある場所のふすまを開ける空ちゃん。

 するとそこには、小さな物置スペースとしてあった場所は無く、小さな小窓が付いたオレンジ色の扉が一つ存在するのだった……。

 それは、知らない人が見たら、まるでそこに元から扉が設置されていたかの様なおかしな風景である。

「まー、まだ新築したばかりだけども、良かったら入ってみるかの?」

 そう言う空ちゃんに、ボク達はボクの家なのになぜか空ちゃんに案内されるのだった。


「ここは……どこなんですか?」

 ボクは扉を開けた先に広がる世界に驚かされつつ、隣の空ちゃんに問いかける。

「ぬ? どこって、妖一殿の家の中じゃないかのう何を言っておる」

 と、あっさりと返されるボク。

 いや……元々ならボクの家なんだった所なんだけど……こうも変わってしまうと、その事実の現実感も何も無い気がするんですけど……ねー空ちゃん。

 目の前に広がるは、東京ドーム何個分ですか?? という広大な土地。そこは、様々に咲き乱れる花に植物達がしっかりと整理と管理されたどこぞのおやしきにある中庭の様な場所。中央には、これまたどこぞの国で世界文化遺産に登録されそうな素晴らしい造形美がほどこされた大きな白い噴水がある……。

「空って……ここ家の中だったよ……ね?」

 と、ふと驚愕きょうがくの言葉を零すあかねさん。

 そう。何故か『室内』であればあるはずの天井が無く……一面に広がる青い空があるのだ。

「ああ、リアルじゃろ? なんせ本物だからの。ちょっとした異空間転送の応用で実際の空をここに持ってきてるから、当然本物の風が吹いたり雨が降ったりも出来るんじゃよ、これ。

 まー、いじればここだけ思うがままの天候にもできるがの」

「……ここ室内ですよね……」

「うぬ、しょうしんしょうめい室内じゃ。ただ高さがこの地球と同じぐらいあるってだけだから気にする事もあるまい」

 …………。

 それって、室内って言うの??

 なんて思うボク……。もう『ボクの家』という次元は超えきっちゃってます……。

「ここは植物フロアで、他にも別フロアが8箇所があるんじゃが、全部見るのは大変だろうから……ワシの部屋に直通でいいかの?」

 あははは……。

 心の中でさえそんな渇いた笑いが零れてくるボク。

「……お願いします」

 ボクはコックリと頷いて、

「今来た扉の隣にある扉から行けるぞ」

 隣の扉の奥へと案内されるのだった。


「ここがワシの部屋、特別研究室兼マイルームじゃよ」

 そう言って案内されたのは、先ほどとは違って奥が見える広さの研究室だった。奥が見えると言っても、広さ的には学校の体育館ぐらいは余裕で納まるほど。少々大きいスペースにテーブルやベットに日用雑貨が多少あるだけで、他にはあちらこちらに大なり小なりの見た事が無い機材の様なものが置かれており、研究室と言うだけの事はある部屋だ。

 周りを見渡してから、ボクはふと思い、

「ね、空ちゃん」

 問いかける。

「ん? 何じゃ妖一殿?」

 ボクは何気なく返した空ちゃんと、自然と視線の高さを合わせて言う。

「こんな広い部屋で一人で寂しくないの? あのさ、空ちゃんが良かったら……」

 すると、ボクの視線に優しい笑みを浮かべながら言葉が終わらぬ内に、

「ふふ、妖一殿は優しいのう。みなまで言わんでも妖一殿が言いたい事は解った。でも平気じゃよ、ワシは今までずっと一人じゃったからそうゆうのは慣れとるからの。いまさら広かろうが一人だろうが何も心配は無い」

 優しい口調でそう言う空ちゃん。

 あ……余計なお世話な事言っちゃったかな……。

 ボクはそう思い反省する中、空ちゃんはにっこりと笑って、

「でも、ありがとう妖一殿。その温かい心がワシにはとても嬉しかったぞ。ま、折角だからたまには甘えさせてもらうとするかの」

 そう返す。

 その顔は、どこか嬉しくも恥ずかしそうな表情をしていた様に、何故かボクには思えたのだった。



 ボクと彼女と彼女の縁結び記

 第十三縁『プリティーで謎で超科学。……ボクには解らない事ばかりだなぁと思ったんだ』


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ