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第十二縁。

「あ、そうじゃ。続きをお手本として見せる相手が居ないでは無いか」

 ふと、何故かそうゆう点に頭が回る少女。

 ぬー……しまったしまった。と、軽く首をかしげて、やがて何かを思いついたのか手をポンッと軽く打って、

「一回アヤツの事を拾ってくればいいの」

 そう結論を導き出した。

 するとその少女の答えに、これでもかと怒りの色をにじませた声が返ってきたのだった。

「……けっこうよおじょうちゃん……。自分の足で戻ってこれるから」

 長く足元まで伸びた輝くブロンドの髪をなびかせ、頭には同じ毛色の耳と、尻には毛先を白く染め上げた三本のしっらめかせて。

 姿はさっきまでとは違うも、声はボクの知ってるあかねさんそのもの。

「……妖ちゃんから……離れなさいよアンタ……。アタシ、この姿で手加減出来るほど器用じゃないから死ぬよ……」

 あかねさんの青い瞳が紫の瞳へとだんだんと変って行くのが見て解るボク。

 そんなあかねさんの姿に驚きもせず、

「怖い怖い。嫉妬しっとに狂った狐ほど恐ろしいものは無いのー」

 クスクスと軽く嘲笑ちょうしょうする様に笑う少女の姿が、そこにはあったのだった。

「お主、コレがそんなに好きか?」

 と、コレとボクを……ボクのを指差して問いかける少女。

 目の前でそんな事を言われて……何故か恥ずかしい思いがするボク……。

「それもそうだけどアタシはようちゃん全部が好きなのよっ、何か悪いかな!?」

 彼女の何処かおちょくる様な投げかけに苛立いらだてた声を上げるあかねさん。

 それもって……ははは。

 何処か、本当に何処か悲しい様な恥ずかしい様な……そんな感じである。

 すると、突然温かく柔らかいものを感じたボク。

「な……!?」

「ほー……さっきまでしてた事と言葉とは裏腹と言った所かのー」

「そ、そこから……手を退けなさいっ!」

 ぷにゅ。

 ゾクッ!

 今まで感じた事のない感覚がボクの中をすさまじい勢いでけ上った……。

 そして直ぐ様、ゾクゾクッ!! と、次の感覚が走る。

 ボクはおかしくなりそうな頭の中で、

「み……見ないで……く……ださ……いっ」

 あかねさんに懇願こんがんする。

 こんな姿を、何故か見せたくないと思ったのだ。

 真っ赤な顔をさせつつボクを見ている彼女……。

 ぅ……見ない……で。

「純情じゃのーお主。まだまだこれからじゃと言うのに、もう赤面せきめんしておる」

 ゆっくりと柔らかく手を動かしながら、挑発をするかの様にニヤリと笑う。

 すると、一つ下に顔をうつむかせて、ゆっくりとした、それでも怒りの色を滲ませた声で、

「……うるさい。純情で何が悪いのよ……。いいからその汚わらしい手を妖ちゃんから退けなさいよ……」

 と、言葉を零す。

「『嫌じゃ』と……言ったら?」

 何かを含んだ挑発する少女の言葉に、キッとした鋭い視線を向け、

「妖ちゃんはアンタみたいのが触れて良い物なんかじゃないんだからっっっ!!!」

 気迫きはくといものだろうか? そうゆうものを込めてえた。

 その瞬間、目の前に見えたのは、彼女がボクの上にまたがって右手を出していた姿。

 突然感じた体への重みに反射したボク。

「遅い遅い、こっちじゃよわっぱ

 突然部屋の出入り口から聞こえた声に驚きつつ、そちらへと目をやると、ちっちっちと指を横に振ってあかねさんをおちょくる少女の姿があったのだ。

 その様子からすると、あかねさんの動きにもボクはついていけなかったのに、少女はそれ以上の動きで攻撃をかわした事になる。

「ばか力のクセに素早いじゃない……」

 ゆっくりと声の方へ視線を向ける。

「そうかの? ただちょっと歩いただけじゃけどのワシは?」

「……そう。これだけ差があるなら、それじゃちょっとアタシは力を使わせてもらうけど別にいいよね……?」

 静かな口調が、妙に恐ろしいあかねさんの言葉に少女は、

「はっはっはっは、構わんよ」

 何一つ表情を曇らす事無く余裕たっぷりに笑って見せる。

 それじゃ遠慮なく。と、あかねさんが言葉を零したそのせつ

 ブンッ!

 突然、あかねさんの尻尾の一本が大きく振動し、今まで以上に輝きを強くした。

妖尾ようび……第一尾開放」

 静かにそう呟いた次の瞬間、ブバフゥッ!!! と、あかねさんを中心にして突如一瞬の暴風が舞い上がるっ!

 フゥゥゥ……と、ゆっくりと大きく息を吐き、

「完了」

 静かにそう告げるあかねさん。

「驚いた、手加減出来て無いんじゃ無かったかかの? 確か」

 口では『驚いた』と言うけれど、全くそんな様子を微塵みじんも見せない少女。

 驚いたと言うよりも……どっちかと言えば喜んでいると言った方が正しい気がするボク。

「アタシ狐だもん。かすのが筋ってものでしょう?」

「あはは、違いないのう」

 ふと見せた少女の不敵な笑みに、右のてのひらを天井へとかかげるあかねさん。

「……狐火こか……滅炎めつえん

 と、言う言葉と共に、


 ゴォォォゥッッッ!!!


 突如、炎が燃え上がる凄まじい音を響かせて、かかげた掌からあおい巨大な炎の塊を生み出したのだ……。

 それは、以前にゆきめさんへと投げつけた火炎弾とはけたちがいの威力である。その証拠に、ボクの家ぐらいはありそうかというあまりの大きさに、家の天井が瞬時に丸々焼き消えたのである。

「今度は逃げ場は無いけど、どうする? お譲ちゃん」

 にっこりと微笑み、問いかける。

 凄い……。

 ボクはその凄さをの当たりにし、呆然ぼうぜんとする。

「妖ちゃんは危ないから、ちょっと結界けっかいを張らせて貰うね」

 その言葉と共に、薄緑色の薄く幕みたいな物に包まれるボク。

 多分これがあかねさんの言う『結界』というしろものなんだろう……。

 目に見えるだけで、至って先ほどと何も変わらない感じがする。

「全く面白い娘じゃの、まだ第一尾開放だというのに妖気で肌がピリピリしよる。このまま第二尾開放を見てみたい所じゃが、そろそろ空間保存の時間切れじゃ……。

 よって、ワシの降参じゃよ、今野こんのあかね」

 え!?

 少女の言葉に驚くボク。

 なぜなら初対面のはずのこの子の口から、ついこの前までの名前を口にしたのだから。

「待ってあかねさんっ!」

 いつしか動けるようになっていたボクは、ギュッと彼女捕まえる。

「ゴメン妖ちゃん……待てないかも」

 薄っすら苦笑いを浮かべて返すあかねさん……。

 ……え。

 嘘でしょ……あかねさん。

 彼女の言葉が終るよりも早く、巨大な蒼い炎の塊は、ボク達へと脅威をふるおうとしていたのだ……。

 すると、全く何をしておるのじゃっ! という少女の声が聞こえた次の瞬間っ!

 ブバッと目の前で炎がいっぱいの桜のつぼみに移り変わり、一気に咲いて、そして瞬時に小さな粒子となりてキラキラとピンク色に輝かせながら、舞い散らすのだった。

 空いっぱいに舞い降りてくるこの輝きと、そのあまりの幻想的な美しい世界に、見ていた誰もが見入ってしまいそうである……。

「ふー……あやうく周りに張った結界までの妖気を分散させる所じゃったわ……」

 呟いて、

「後片付けをさせてもらうぞー……」

 少々疲れた口調で何かをする少女。

 その刹那、ブンッと目の前の全てが一瞬の歪みを見せ、それこそ瞬きすらしない間に破壊された家が元のボクの家へと復元したのだった……。

「よし……これで空間は元通りと……。

 で、今野あかね」

 唖然あぜんとしてるボク達を見、あかねさんを呼ぶ少女。

「……え? 今野?? ……てか何で年下なんかに呼び捨てされなきゃいけないのよ、アタシ」

 と、不満たっぷりに返すあかねさん。

 この際、一応恩人だからそこは追及しなくても……。

 なんて思うのは、きっとボクだけなのかもしれない。

「……不満はさて置き……さっきは試してすまなかったの」

「は??」

「東の妖狐のおさの娘が家出をしたって聞いたのも驚きじゃが、男を追って里を降りたと聞いたもんじゃから、ちょっと興味が湧いて試させて貰ったのじゃよ。長の娘がどれ程の男に惚れ込んだのか、そしてどれ程の娘なのかをのう」

 そして淡々と、今までがテストの一部じゃよなんて語る少女。

 ボクはその言葉に、どっと疲れが降りてきた気がする。

「まぁ、楽しかったので、つい遊んでしまったのも事実だったり……してのう」

「この……ジジイ少女……」

「まぁまぁ、理由も解ったし、家もあかねさんもボクも無事だったんだしねっ……あかねさん」

 今にも振り上げた拳を振り下ろさんとするあかねさんを後ろからおさえるボク。

「妖ちゃん止めないでっ! お願いだからアタシにこの子殴らせてっ!!」

「気持ちは解るけど、小さい子を殴っちゃダメだってあかねさんっ」

 はっはっはっはと、ボク達を見て笑う少女。

 そして再び暴れようとするあかねさんと、それを抑える僕の姿が、何も無かった様に時を刻む部屋にはあるのだった。



 ボクと彼女と彼女の縁結び記

 第十二縁『きっと何もかもが嘘だったんじゃないかななんて、ボクには思えないだろうなって思ったんだ』


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