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第八縁。

「まー……なんだ」

 ボクを右に左に引っ張り合う雹堂ひょうどうさんと今野こんのさんを目に、コトンッとお茶が入ったコップをテーブルに置き、改まった口調で一つ言う父さん。

 その声に、ピタリと引っ張るのを止める二人の姿。

 父さんは続けさま口を開き、

「雹堂さんの件は私にも責任があるので白紙にして欲しいと思うのだが……」

 雹堂さんに提案をする。

「そんなっ!? 博康ひろやす様!?」

 そんな急な提案に、思わず驚く雹堂さんと、

「じゃ、ようちゃんはアタシと一緒になろうね」

 にっこにことする今野さんの姿。

 けれども、そんな今野さんに父さんは続けさま、

「待てまて、けれど今野さんの件に関しては、妖一が若干悪い所もあるかも知れないが、あまりに一方過ぎな気がするので、一緒になるとかいう話はまだ先にして欲しいと私は思う」

 と、語る。

「そうです! いくらなんでも一方過ぎですよねっ」

 ここぞとばかりに、反撃する雹堂さん。

「アンタだってきっと同じような事してるんじゃないかなぁっ」

 しかし、そんな雹堂さんの反撃を軽々と返す今野さん……。

 バチバチバチィッ!

 ボクの目の前で、火花が散ってるいるのは、きっと気のせいじゃないと、ボクは……一人思う。

「そう言う訳で、二人共『まずは白紙にして』くれないだろうか?」

「まずは?」

「白紙に??」

 父さんの言葉に、花火を散らしいがみ合っていた女性二人は、思わず問い返した。

 二人の顔をゆっくりと見て、父さんは言う。

「お互いスタートラインは一緒。思いも記憶も全部捨てなさいとは言わないから、許婚いいなずけとか赤い糸でとか全部失くして、始めてはくれないかな? まーそうゆう事だよ。もしこの条件をめないのだったら、悪いが妖一よういちは渡せない。でも呑んでくれるなら、もちろん手紙を貰った雹堂さんの方には私から手紙と直々に挨拶をしに行ってあげるけれどもね」

 えっと……。どうゆう事……なの? 父さん??

 ボクは、満足げに語り切った父さんを前に、キョトンとしたままだった。

「妖ちゃん争奪の真剣勝負って事ね、妖ちゃんパパ。アタシはそれでいいよ、負ける気しないからっ」

「……博康様がそうおっしゃるなら……私もそれで構いません。私だって、こんな方などに負けてるとも、負けるともは思いもしませんから」

 その言葉に、

「負けてるのはその牛乳うしちちだけだけどねー」

 なんて売り言葉を吐く今野さん。

「う……牛……。アナタって本当にデリカシーが無いのですね。品性の底が見える様です」

 顔をカァーっと赤くしながら、冷静に雹堂さんなりの毒を吐く。

 と、どうやらボクをのけ者にして話が進んでいく様子……。

 ボクって……一体何なんだろう……。ゲームか何かの景品ですか……?? ひょっとして……。

 なんて思えてくるのは、決して間違ってはいない気がする。

 まぁまぁ……。なんて、にらみ合う二人をなだめながら、

「ルールは何でもありだけれど、ただ付け加えるのは、警察けいさつ沙汰ざたなどになる破壊行為などをしない事と、二人は今日から妖一のいとこ同士という事。もちろん今夜からこの家で住んで貰うし、妖一と同じ学校にも通って貰うけれどもいいかな?」

 言い聞かす様に二人に語る父さん。

 ちょっと……いきなり二人もの女性と暮すの!?

 急すぎる飛びぬけた話に、思わず気が動転しそうになるボク……。

 いったい父さんは本当に何を考えて……。

「で、妖一」

 突然声をかけられ驚きつつも、何? と返すボク。

「妖一にはこの二人から将来の嫁を選べとは私は言っていないから自由にしなさい。二人には妖一を選ぶならという事で言ってるだけで、妖一に他のと恋愛をするなとは言っていない」

「う……うん」

「この二人の娘さんは、今からは家族でもあるし、妖一にとって大切な人になるかも知れない。ただそれだけだ」

 父さんの真剣な眼差まなざしと言葉に、コックリとうなずくボク。

 すると、ふと急に笑顔を見せて、

「という事で、頑張れ」

 その二言だけをここに言い残して、テーブルの上にあった鍋などを持って部屋から出て行こうとする父さん。

 あ、逃げ……。

「って事だから妖ちゃん、今夜からよろしくね~。もうっ、寝床の世話なら任せてっ」

「寝床って……今野さん……」

「やーだ『あかね』って呼んでよ妖ちゃん。もう同じ苗字なんだし『高杉たかすぎあかね』で『今野』じゃおかしいでしょう?」

 悪戯いたずらっぽい笑みを浮かべ、ギュッと片腕を引く彼女。

 するともう片方の腕も引かれ、そちらを見れば雹堂さんが赤くなりながら、

「……私も今日から『高杉ゆきめ』です……『雹堂さん』じゃなくて『ゆきめ』と呼んでください妖一さん。その……妖一さんが望むのなら私はどんな事だってし……してあげますから、な、何なりとお申し付けくださって……く、ください」

 軽く斜め下にうつむいて恥ずかしそうにたどたどと零す。

「い……いとこはそんな事しないからっ、二人共!?」

 何となく……二人の言葉の意味が解りかけたボク。

 ガッシリとつかまれあたふたする中、再び父さんが部屋に顔だけをのぞかせ、

「妖一、今日はそこで二人共寝てもらいなさい。お布団はお前が出してあげる様にな。……それと、いとこ同士は一応結婚は出来る事になってるからな、心配は要らん」

 らぬ事までふと告げて、トコトコとキッチンへと向かう父さん。そんな父さんの足取りは、どこか軽くも聞こえた気が……するボク。

 ……。

 …………。

 父さん、何もこの状況で油を注がなくてもいいなじゃい……ばかー……。


「電気、消すね」

 ボクはゆっくりと立ち上がり、電気のスイッチになっているひもを三回引く。

 すると真っ暗になり、直ぐ様両手を引かれるボク。

 仰向あおむけの状態から顔を右へ向けると、

「おやすみ、妖ちゃん」

 甘い声でそう言う彼女、あかねさんの姿が。

 そしてぐるっと左を向けば、

「お休みなさい、妖一さん」

 同じく甘い声でそう言う彼女、ゆきめさんの姿が。

 がんじがらめで動けないボクの二本の腕を確認し、ふと天井を見ながら、

「お休みなさい、あかねさんにゆきめさん……」

 彼女達の返事をしたのだった。

 お風呂に入ってからお布団を二つ用意したのはいいもの、二人は一向にボクの腕を放してはくれず、仕方なくこうやって三人で寝る事になってしまったボク。

 ふー……。と、心の中で一つ大きくタメ息をいた。

『妖……ちゃん』

 すると、あかねさんが小声でボクの耳元で呼ぶのに気が付いた。

 小さく、何? と、返す。

「今日はゴメンね、色々。キスしたり抱きついたり、扉壊したったり」

「はは……うん、もういいよ」

 一つ苦笑いするボク。

 ふとぎるは、抜けっぱなしになっている、その玄関……。

 明日からどうしようかな……。なんて、心の中で吐いたタメ息と共に出てくるそんな言葉。

「ありがとう妖ちゃん。アタシね、キスしたり抱きついたりするのもいいけど……今こうやって妖ちゃんの手をにぎって眠れるのが、一番嬉しいんだ」

 ふふ。と、小さな笑みを零し、ギュッとボクのてのひらを握って告げるあかねさん。

 その言葉は、さっきまでのあかねさんとは違って、まるで子どもの様にも思えたボク。

 あかねさんにもこうゆう所あるんだな……。

 なんて感心してた次の瞬間、

「でも、やっぱりキスとか抱きついたりとかしたい。もっともっといっぱい妖ちゃんとしたいな、アタシ」

 少し前までの悪戯いたずら気味な声で言うのだった。

 おやすみ。と、最後に告げて、ゆっくりと静かに寝息をたてて眠るあかねさん。

 そうとう疲れてたんだろうな。ゆっくりと息をしながら直ぐに寝ちゃったみたいだし。

 ボクはそう思いつつ、小声でおやすみと返した。

『妖一さん……』

 ボクが再び仰向けになると、ふと左のほうから声がしたのを耳にしたのだった。

「起きてたんだ」

 ゆっくりと左へ首を向けて問いかける。

「はい。声をかけようと思ったんですけど……先にあちらが妖一さんを呼び止めたので……」

 小さな声でそう言うゆきめさん。

 あ、小声だけど聞こえてたんだ。

 ボクが、どうしたの? と、問いかけるとゆきめさんは、

「その……したんですか…………キス……」

 言葉を詰まらせながら問い返した。

 う。

 ゆきめさんの問いに、思わず言葉が詰まるボク。

 あかねさんと出逢であって、ほんの少しの間に確かにしてしまったのだ……。

 いや……したと言うよりされた方なんだけれどね……ははは。

「そうですか……」

 ボクが言葉を詰まらせた微妙な沈黙に答えを見出して頷く。

「や……その、頬に。でもあかねさんが急にしてきたん…………」

 言葉が詰まる。

 いや、言葉が出せないと言った方がいいかも知れない……。

 この柔らかく気持ちの良い弾力感はもしかしたら……なんて思っていると、フッと唇からの感覚が消えたのだ。

「……これは秘密ですよ、妖一さん。その……誰とでもじゃなくて、妖一さんとだからですから……ね?」

 それは、暗闇に慣れたボクの瞳には、ゆきめさんが自分のした事をはじらうように、軽く俯いた様にも見えた……。

「それじゃ……お休みなさい妖一さん」

 ギュッとボクの掌を握って、恥ずかしそうな声で言葉をつむぐゆきめさん。

「お、おやすみなさい……」

 その言葉を聞いてから直ぐに、ゆきめさんも寝息を静かにたてて眠る。

 …………。

 ……されちゃった……。

 あの一瞬の感覚を再び思い出し、ボッと顔が熱くなるボク。

 きっと今日は……寝付けはしないかも知れない……ね。

 そう思いながら瞳を閉じて、ゆっくりと幾頭いくとうも数えるだろう羊を、ゆっくりと数えるのだった。



 ボクと彼女と彼女の縁結び記

 第八縁『二つのキスと気持ち。嬉しいのに何処か落ち着かないなってボクには思えたんだ』

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