おまけ エインリヒの心中
エインリヒは思い通りにいかない現実にうんざりしていた。
その思い通りにいかない現実の中心は我が弟のペインであった。
実の母の不義理によって産まれた子、ペイン。
彼と自分は血は繋がっていないが自分の弟だ。
父も同じ気持ちらしく、ペインを息子として受け入れようとしたが容姿の問題で養子として扱うほかなかった。
ペインが産まれて五年が経ち、俺は彼に驚かされた。
ペインは五歳にも満たないうちに本を読みたいと言い師事をせがみ、まだ早いと言われれば我が家の私兵の真似事で棒を払い始めた。
俺が5歳の頃にこの様な事を自ら進んでやったであろうか?
ペインは物分かりはいいが覚えは普通と突出した才能はない。
しかしその心構えは貴族として自分より相応しい。
「エインリヒ様! お父上に似てなんとも聡明で……」
後ろをついてくるペラペラと喋る無能な貴族と比べれば雲泥の差だ。
コイツらに万が一でも担がれたりしない為に目の前でペインを侮辱し、神輿としての価値はないと知らしめなければならない。
その時間が俺にとってはなによりも不愉快だった。
喜ばせたい、守りたい存在を傷つけ、どうでもいい奴らが喜ぶのが耐えられない。
ペインもペインでこちらの意図を察しているのかどうかはわからないが否定せずに受け入れていた。
まだ五才の子供が拙いながらも政治をこなしているのだ。
この時ほど神という存在が恨めしく思う。
これほどの器を、私の弟を、たかが生まれや容姿で弟と呼ばないだなんてなんと理不尽な事だろうか。
俺は家のために、そして弟のためにまずは周りの家を削がなくてはならない。
まずは家の次期当主である長男たちと交流を重ね、父とは別の派閥の地盤を作らなければならない。
父のをそのまま受け継いで仕舞えばコイツらがそのまま自分の障害となるだろう。
そのためには自分が家を継ぐ前に排除しなければならない。
いつか弟を弟と何も気にせずに呼べる様になるにはまだまだ時間がかかりそうだ。