四男のペイン
あの日、自分がこの世界に生まれ落ちて五年の月日が経った。
僕はライルという名前を名付けられ養子としてドンドル家に迎えられた。
どうやらこの国では貴族など名のある家しか苗字がないらしい。
『ほんと意外だよねー。 貴族ってもっと長ったらしい名前ばっかりだと思ったのに』
『急に脳内に話しかけるのやめてくれない? まぁ、この国の神話では始祖神って言う有難い神の名前がリの一文字らしいからね。 その名前の短さが欲張らず己を律する事を重きに置いているって言う神らしいよ』
『人間ってほんとにそういうの好きねー』
『まぁ、そういうのに縋っていないと耐えられない人もいるからね。 話を戻すけど余りに名前を長くしすぎると欲深い者として見られる……って言う事らしいけど、まぁ常識の範囲内の名前なら皆気にしないよ』
『しっかし、お前見事に家の奴らと似てないな!』
神様はそう言うと脳内でゲラゲラと笑い始める。
ドンドル家の者たちは肌が白く髪は金色なのに対して自分は褐色の肌に白い髪と全く違う容姿をしていた。
どうやらかなり離れた国の人間の容姿の特徴らしい?
『五月蝿いよ、全く……この境遇も全部お前のせいとは言わないけどもうちょっと言動を…』
自分にだけ声が聞こえる友人の言動を嗜めようとしたところ目の前の廊下から人影が見える。
その人物は自分もよく知っている人物だった。
ドンドル家の長男であり嫡男、エインリヒだった。
彼に道を譲る形で廊下の隅を歩く。
「おい、ペイン。 何を端を歩いている。 こっちを向け」
「畏まりました。エインリヒ様」
声をかけられると同時に彼の前で膝を突く。
「おやおや、これが噂の四男のペイン殿ですか? エインリヒ様」
ペインというのは今の自分の名前だった。
あの日、生まれ落ちて数日後にメイドがこの名前で話しかけてきた。
その名前を目の前の兄エインリヒとその友人というには歳の離れた男たちが膝をついて頭を下げる自分を見つめてくる。
「おい、前から言っているだろう。 コイツは父上が気まぐれで養子にしただけの男だと。 まぁ、俺にはこんなのでも上手く使ってやれるから生かしてやっているが」
「流石エインリヒ様で御座います!」
「然り然り、ドンドル家も安泰で御座いますな!」
大の大人が自分の子供と同じ歳であろうエインリヒの機嫌を伺っているのを見るのはなんとも滑稽だと思えた。
エインリヒ、僕の兄が言う通りあの後僕は養子という事でこの家に向かい入れられたのだった。
「……身の程をしっかりと弁えれば悪いようにはしない」
「有難う御座います」
その言葉を最後に兄と太鼓持ちの集団は何処かへと行ってしまった。
『こ、これは許せない! おい、ペインざまぁだ! ざまぁをするしかない!』
『神様……兄には感謝こそすれど恩を仇で返すつもりはないよ』
『ちぇっ、つまんないなー』
神様は思い通りの答えを貰えずに拗ねてしまい黙ってしまう。
普段がうるさいくらいなのでいつもこれぐらいだと助かるのだが。
『んで、今日はどうすんのよ? 本か? それとも棒でも振り回すのか?』
『今日は書斎に行って本を読む……というより解読するよ』
『あいあい〜、まぁ頑張れや』
最近になって書斎の立ち入りを爺から許可をもらえた。
此方の世界のことを深く知りたいと思い本を広げたところ全く読めなかった。
それならと簡単な絵本を読み進めようと思うがこれもダメ。
前世の記憶が邪魔して碌に文字を覚えられない。
改めて文字や言葉は幼子のうちに自然に吸収するように学んだ方が効率がいいのだと痛感する。
『とりあえず知らなければ何もできない。 さぁ勉強の時間だよ神様』
『退屈だなー言葉は喋れるんだからええやんけ』
『文字もわかるようにしてくれれば楽だったんだけどなー』
そう脳内で話しながら書斎へと向かう。
この家に生まれ落ちて、五年。
日常をペインは謳歌していた。