不義理の証で、敗北の象徴
とある国の貴族の家、ドンドル家。
今日、その邸宅に新たな産声が鳴った。
その声を聞いた当主、ドンドル・ハインドは歓喜した。
「おぉ! 聞いたか、爺。 我子が産まれたぞ!」
「おめでとうございます、ハインド様。 どうやら無事に産まれたようで何よりでございます」
二人は赤子が無事に産まれた事を喜んでいると、愛する妻と子供がいる部屋から出産の手伝いをしたメイドが出てくる。
それと同時にハインドは詰め寄ってくる。
「おぉ! どうであった!? 赤子は? いや、妻の容体は無事か? 赤子は男であるか? それとも、」
「落ち着いてください、ハインド様。 初めての出産では無いのですから落ち着いて当主としての振る舞いを致してください」
「あ、あぁすまない、爺。 いやぁ、こればっかりは慣れないものだ。 それでどうだ? 様子を教えてくれ」
「あ、あの……それは……」
悦びに包まれている二人とは対照的にメイドは青ざめており言葉も上手く発せないという状態だった。
今日当主のハインドは天国から地獄の様な出来事を味わうことになる。
『はっはっヤバい息がしづらい。 泣かないとマジで出来ない。 ヤバいですよ神様!』
『自意識持って出産経験出来るとか滅多に出来ないんだから楽しみなさいよ。 大丈夫、大丈夫貴族に産まれたら安泰だからさ』
神は心の声が読める事を利用して脳内で神と会話する。
世の赤ん坊はこんな事を経験して産まれてくると思うともう産まれてくるだけで偉いのでは無いかと思ってくる。
なんとかして息をしようと泣いていると剣呑な雰囲気で入ってきた男が二人入ってくる。
『ん? なんかおかしくね?』
『神様何かありました? こっち息するだけでもうキツいんですけど』
「フラメア……これはどういう事だ」
「あ、貴方……違うの、こ、これは」
ハインドの妻、フラメアは狼狽えながら震えていた。
「随分と元気そうな男の子じゃ無いか。 あまりにも元気すぎて時折腹の外へ出て遊んだのかな? 日焼けをした様に随分と肌が黒いでは無いか?」
『え? 何これ神様これどういう事?』
『一言でいうと修羅場〜ですかねー』
『お、おまお前ー! 言ったやん! 左団扇余裕言ったやん』
信仰心、転生数分で崩れ去った瞬間であった。
「そこのアバズレを牢に連れて行け」
「あ、貴方待って、違うの! これは違うの!」
フラメアは狂った様にハインドの名と違うと言う単語を捲し立てる。
そんな事を意にも介さないかの如く家のものが赤子とフラメアを引き離し何処かへと連れていった。
「何故裏切った……フラメアッ!」
ハインドの怒気が部屋を包み込んだ。
『えーと、つまりどういう事なんですか』
『奥さんの浮気でこさえた子供がお前ってことよ。 せめて同じ人種だったらバレなかったかもしれんが、残念肌の色が違いすぎらぁ』
ハインドが怒りに身を震わせていると妙齢の男、爺と呼ばれていた男がハインドに話しかける。
「それでは赤子は此方で処分いたします。 メイド、ハインド様に落ち着かせる飲み物をお待ちしろ」
「『は?』」
ハインドの声と自分の心の声が重なった。
「な、何を言っているんだ……。 何を言ってんだ爺!」
「この様な醜聞、外に漏らすわけには行きませぬ。 今回の件は親子共々死産として扱った方が賢明かと」
「な、しかし赤子だぞ、まだ赤子だぞ!?」
「ですな、殺すです」
「わ、我が家の子供として産まれたのだぞ?」
「ですがハインド様の血は入っておりません、殺すのです」
爺と呼ばれている男の冷たい刃の様な圧力がハインドを圧倒する。
ハインドは震える声で言葉を紡ぐ。
「……この子は、この赤子は私の敗北の証だ。 今でも憎たらしく思える」
「ですな、そう思って同然かと」
「私は妻を、フラメアを処断する。 それは家の為でもあるが……私の身勝手からだ。 私はこの募りを妻にぶつけなければどうしようもなくなる」
「この場で遮断しないだけで十分な温情かと」
一瞬の静寂が辺りに流れる。
ハインドの視線には不義理の証で自分の敗北の象徴が目に入った。
「じゃあ、この子はどうなる? 一体この子になんの咎があるというのだ、爺」
その言葉に爺は答えない。
「親の咎を子に引き継ぐことは愚か者がすることだ。 私は情け無い貴族と呼ばれても愚か者の親と呼ばれるのは耐えられん」
ハインドは爺に向き直る。
先程までのように怒りに包まれているわけでもなく、震えているわけでも無い、ありのままのハインドがそこにはいた。
「この子は我が家、ドンドル家の子である。 それを何人たりとも否定することは許さない」
「そうでございますか。ではそういうことで」
先程とは打って変わり爺は飄々という。
あまりの落差にハインドは間抜けな声をあげてしまう。
「ささ、こうしてはおられませんぞ! 色々な手続きや工作、やる事は山積みでございます!」
「なっ、爺! カマをかけたのか!?」
「さぁ、なんのことか?」
爺はメイドに赤子の世話を言い渡すと部屋を出る。
ハインドも爺に突っかかりながらその場を後にした。
後に残るは赤子の世話を行うメイドとドンドル家の子供だけだった。
『こ、これがノブレスオブリージュ……!』
『神様、正座しろ』
貴族以前に人間の格の違いを目の当たりにした二人? なので有った。
とりあえず描きたい部分は描きました。
続きは要望があれば書くと言った感じです。