神が愚かなのだから、人が叡智を手に入れられるはずが無い
「おめでとう! 異世界転生の時間だ! オラァ!?」
真っ白な何も無い空間で一人の男が道化師の如く身振り手振りでそう言う。
「は? 此処はというか…」
「はいそこまで! 無理に直近の記憶は思い出さない方がいいよ」
目の前の男はそう言いながら記憶を思い出そうとする自分を嗜める。
「えーと、貴方は一体……?」
「よーーく聞いて下さりました! さぁ耳の穴をかっぽじってよ〜く聞きなさい! 君らが神だと言って崇める存在がこの僕ちんでアタチなのよ〜!」
大袈裟なジェスチャーと共にそういう目の前の自称神。
まだ会話は数えるぐらいしか交わしてないがもう既に彼の人となりが分かってきた。
「それで何故直近の……いや、僕は死んだのか?」
その考えに至った理由は目の前の全てがその答えに結びつけてきた。
天井も、床も、空も、大地も無いまっさらな空間に浮いているのは自分と自称神の二人だけ。
挙句自分の体は妙な浮遊勘が包み込みその場から移動することが出来ない。
もう此処があの世と考えた方が自然では無いだろうか。
「大正解! 流石だね! 賢いね! 神様の花丸を上げちゃうよ〜」
「そ、それで何故直近の、死んだ時の記憶を思い出さない方が良いのですか?」
「どこかの爺さんの乗った車とガードレールに挟まれて内臓潰れた挙句、道ゆく人に見て見ぬ振りされてSNS用の動画はしっかり撮られて、地獄の二十分を味わって死んだ記憶がみたいだって?」
「あ、なんでもないです」
そんな酷い死に方したのかと思うとやるせない気持ちになる。
「挙句にその爺さん、君らでいう所の上級国民って言うんだっけ? 寿命までゴネて天寿全うするぜ〜。 うける」
目の前の神を自称する男はケタケタ笑いながらそう言う。
あぁ、なんで人間がこんなにクソなのかやっとわかった。
目の前の愚か者の男が神だとしたら、それに造られた人間が叡智を手に入れられるはずがないではないか。
「ちょっとそこまで言わなくても良くないかい?」
「なっ!? 此方の考えてることがっ……!?」
「ハハハ、わかるわかる。 これでも一応、神だからね。 まぁ! 君らのなんちゃって神話みたいに全知全能とかはないけどね」
この男は本当に神なのだと認識する。 認識してしまう。
極度の緊張を自分は感じているはずなのに身体は驚くほどリラックスしており、汗の一つもかかない。
「さぁーて、それじゃあ異世界転生でもやっちゃいましょうや! ハーレムかい? 俺つえぇかい? それともザマァかい? なんでも叶えてあげようじゃないか!」
「なんでもいいさ、どれも一緒だよ。 期待すればそれだけ痛いしっぺ返しがくるのは前世で痛いほどわからされたよ」
自分の言葉を聞いた神は不思議そうに首を傾げる。
「なんかおかしくない? 前世、何があったのよ?」
「ハハ……よくありふれた出来事ですよ」
「ちょっと記憶覗くからじっとしてくれ、確認するわ」
神はそういうと此方をじっと見つめる。
まるで視線が蛇のように身体の中を這いずり回るような感覚が襲う。
「何が「ハハ……」じゃい! 笑い事じゃねぇぞゴラァ!」
感覚が引くと同時に髪が怒りの声を無い天に向かって上げる。
「暴行、その他諸々をいじめの一言で片付けては行けない。 イイネ?」
「アッハイ」
「とりあえずとびきりのチートを上げるから! なんなら貴族の家の子供だぞ! 中世系ファンタジーだから何もせずとも貴族なら左団扇よゆうだよ! 勝ち組だよ!」
目の前の神は自分の境遇に怒り、気遣ってくれている。
それだけだが、それが何よりも嬉しく感じた。
だから、だからこそ、
「神よ、お気遣い感謝いたします。 そして先程までの無礼大変申し訳御座いません。 今更ながら貴方のお言葉を信じる事をお許しくださいませんでしょうか」
これを人は信仰と呼ぶのだろう。
「……許そう。 さぁゆけ、我が子よ。 新たな生を謳歌してみせよ」
その言葉と共に意識が途切れた。