7.処刑
鑑定師が俺を無能力者と判定した瞬間、明らかに場の空気が変わった。
それまではまるで祭りの場のように高揚し、賑わう人々だったが、うってかわって不穏な空気に包まれている。
俺はこれを知っている。
「ふむ、無能力者...なるほど」
王がまた一つため息をこぼす。するとその脇に佇んでいた騎士が口を開いた。
「王...では、ここは目覚めさせますか?」
「うむ、可能性はゼロではないからな。やれ」
「はい」
(...目覚めさせる?)
その言葉に嫌な予感をいだいた。その瞬間、瞬きする一瞬。
王の横にいたはずの騎士が目の前にいた。
(な!?は、はや)
「え、えっと...?」
「...」
無言の騎士。彼が俺の腕を掴んだ。
その時、彼のオーラに触れ理解した。圧倒的な力の差を。
まるで獅子の前に差し出された兔。どうあがいても勝ち目の無い、生物としての格の違い。
俺の全身から汗が流れ出し、隣のシロも小刻みに震えていた。
そして――
その騎士は俺の腕をそのまま折った。
「ぐあっ、あああ!?...があああ!?」
「クロサキ様!?」
「...」
あまりの痛さに床を転げ回る。しかし騎士は俺を踏みつけ動けないようにした。
「どうだ?鑑定師」
「ふうむ...ん?おお」
自分でも驚いた。折れたはずの骨がこの数十秒で元に戻り始めたのだ。
「回復力が凄まじいですな」
「...治癒能力と言うわけか?」
「いえ、オーラに癒やしの性質はあらわれておりません。なのでただ自己治癒力が高いだけ...何も能力は発現しておりませんな」
「...そうか。なら、仕方ないな」
騎士の視線が刺すようにこちらを射抜く。これは、紛れもない...あの時の暴漢と同じだ。
俺に対する明確な殺意。
ガチガチと歯がなり、震えが止まらない。
遠くで王がつまらなさそうに言う。
「まあ仕方あるまい。この世界に存在できる転移者、転生者の定員は決まってるしな...無能力者のクロサキとやらが存在していると一枠勿体無い。...殺れ」
「はっ」
騎士が剣を抜こうとしたその時、シロが口を開いた。
「お、お待ち下さい...」
「なんだ召喚師」
「...彼は生かしておいた方がよろしいかと。次の召喚に際しての魔力補充にはまだまだ時間がかかります...それまでにこの方が何かしらの能力を発現させるかもしれません...」
(...シロさん...助けてくれたのか...)
声が震えている、体も...。
そして王が頷き、口を開いた。
「ふむ。それもそうか」
騎士もまた、先程までの殺気を納め部下に指示をだす。
「ではクロサキとその召喚師は地下牢へ連れて行け」
(...この騎士...ただの騎士じゃない...)
ふと見れば、手がまだ震えていることに気がついた。
◆◇◆◇◆◇
「...すみません」
薄暗い牢屋の中、シロさんが謝罪を述べた。
「いえ、シロさんのせいでは」
「いいえ。私のせいです...無能力のあたなをこの世界へと招いてしまった。そのせいであなたは殺されかけて...」
なんだろう、その意図はないのだろうけど言い方が少し傷つくな。
「...能力の無い人間は殺されてしまうんですね」
「いえ、そんなはず...ないです。今までも、能力があるないに限らず、元の世界へ帰りたいと言われた方は帰ることが出来たはずです。なのになぜ...殺そうなどと」
「くくく」
牢屋の見張り番である騎士が笑い、答えた。
「んなもん出任せにきまってんだろ。帰りてえだの言った今までの転移者や転生者は皆殺されてるんだよ」
「...そんな」
シロは目を大きく見開き口を手でおおう。
殺されてる?勝手に呼んでおいて...戦力にならなければ殺す?
なんて利己的で独裁的な...。
「知らないのも無理はないがな。なんせ召喚術には恐ろしいほどの集中力が必要となる。だが召喚した人間が殺されるかもしれないと知ってしまえば、お前ら召喚師は術を行使することは難しいだろ?」
シロが重い口調で後を継いだ。
「...だから戦闘の意志が無いものは表向きには元の世界へ還すとされている...?」
「そうさ!...まあ王が口走ってしまったからあの場にいた召喚師はそれを知っちまったがな」
異世界転移で命が助かったと思ったが...。
俺はまた...死ぬのか?
「...シロさん」
「は、はい」
「どうすれば、いいですか...」
「...あなたに能力があることを示せば...助かるかもしれません。まだ時間はあります...なんとか、発現させましょう」
...能力が、あれば。死を免れる。そうだ、せっかくシロさんが時間を稼いでくれたんだ。
必ず、やってみせる。
――が、しかし。
「いいや、無理だ」
見れば牢の外に俺の腕を折った騎士がいた。
「処刑人として名を名乗らせて貰おう。...私は王国騎士軍、第1番隊隊長、アーサー。王の意向により、これよりお前を処刑する」
...は?え?
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