お疲れロボット
星新一のショートショートにハマっていた時に書いたものです。
こちらも大学時代に書いたものです。
個人的に自分の中でもお気に入りの作品です。
さっと読めるので暇なときにどうぞ。
「こちらが当社で新しく開発された生活支援ロボットです。これがあれば料理、洗濯、掃除、買い物などの一切の家事を手伝ってくれます」
「すごいロボットだ、最近はこんなものまで作られたのか。値段はどれぐらいですか。やはり高いんでしょう」
「まだ大量生産されておりませんので、お値段は少々高めです」
「なるほど。しかしまあ手が届かないほどの額ではない。よし、これを買いましょう」
「ご購入ありがとうございます」
数日後。男の家に生活支援ロボットが届いた。説明書を読んで手順通りにやるとロボットが起動した。
「始めに声紋と指紋認証をします」
ロボットが勝手に喋りだした。
「これはすごいな、科学はここまで来たか」
男は声紋と指紋を読み取らせて、早速命令を与えた。
「よし、ではまずこの部屋の掃除をしてくれ」
「かしこまりました」
そう答えると、ロボットは部屋の隅にある掃除機のところまで行き、それを使って部屋の掃除を始めた。動きはとてもスムースで、ロボットとは思えないほど手馴れた様子だった。
「こんなに便利なものがあるならもっと早くに買っていればよかった」
男はとても感激した様子で、販売元の会社に感謝の電話をかけた。
「あなたの会社はすごいものを作りましたね。いやはや本当に買ってよかった」
「お気に召してもらえて光栄です」
数週間がたった。男はあれから部屋の掃除、食器洗い、料理や買出しなど、全ての家事を毎日ロボットにやってもらっていた。
「おい、これもやっておけよ」
「……かしこまりました」
そして、あろうことか男は自分の残った仕事もロボットに押し付けていた。
「あと今日は会議で遅くなるから、夜飯はいらん。その代わり昨日渡した書類作りをやっておいてくれ、仕事で必要だからな」
ロボットにそう言って男は家を出た。
男が家に帰宅すると、どういうわけか部屋の中が散らかっていた。
「なんだこれは、泥棒でも入ったのか」
恐る恐る部屋に脚を踏み入れると、今度はガラスが割れる音がした。
急いで音のした台所のほうに行くとそこにはロボットがいた。ロボットは台所にあった鍋やフライパン、食器などを放り投げてガラスを割ったり昨日の残りの料理をぶちまけたりしていた。
「おい、止めろ。投げるな」
命令してもロボットは言うことを聞かなかった。
男はロボットが壊れたと思い、急いで販売元の会社に抗議の電話を掛けた。
「ちょっと、どういうことですか。あなたの会社のロボットが突然壊れてしまいましたよ。まだ買ってから数週間も経っていないのに。これでは話が違います」
「落ち着いてくださいお客様。もしやお客様、家事をほとんどロボットにまかせっきりだったのではないでしょうか」
「だったらなんだ」
「ちゃんと説明書をお読みになりましたか。家事をまかせすぎるとロボットだって参ってしまいますよ」
「どういうことですか、壊れたのが私のせいだと言いたいのですか」
「いえ、違います。わが社の開発したロボットには心の機能があります。ですからあまりに家事を押し付けすぎると嫌になってしまうのです。それでストレス発散のために物を壊したりするかもしれません。決して壊れたわけではないのです。あくまで生活を支援するロボットですので、使用者が何も家事をやらなくなるのは本末転倒になってしまいます。なので、この機能を搭載いたしました」
「まったくいらない機能だな。第一そんな話は聞いてないぞ」
「申し訳ございません、それはこちらの不手際でございました。きちんと販売先に説明をするようにと言いつけておきます」
「まあ壊れていないのだったら良い。それでどうすればなおるのだ」
「家事をロボットだけにやらせなければロボットも不満がなくなるでしょう。それか、何かご褒美を買ってあげれば良いです」
「そうか、わかった」
男は台所に行き、狂ったように暴れるロボットにこう言った。
「おい、もう暴れるのは止めてくれ。今度からは俺も家事を手伝うから。それに俺の仕事をやってくれたら何でもご褒美を買ってやる」
するとロボットは暴れるのを止めて大人しくなった。
「ご褒美ですか」
「そうだ、ただし俺の仕事をやってくれたらだ。それで、ロボットのお前が一体何を欲しがるというのだ」
男がそう聞くと、ロボットはまるでその台詞を用意していたかのように、淀みなく答えた。
「新しいロボットが欲しいです」
2chで晒した時は2件しかコメントなかったので少し寂しいかった記憶があります。
かなり皮肉がきいたオチになっていると思うのですが、いかがだったでしょうか。
こんな夢の様なロボットがいつか開発されると良いですね。