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お屋敷の後日談

《エピローグ》



 あれから少し時間が掛かったものの、旅行魔女の手から黒猫を取り戻した5人は、『ハザマ屋敷』に無事帰還することができた。


「じゃあ、さっそくだが。俺たちの大成果を資産家に報告してくれたまえ、七川よ」

「了解! ただ、報酬の一億は五人で均等に山分けに変更させてもらう。全員が魔女退治に貢献したのだからね。いいかな?」

「もちろんだとも。それなら異議はないさ。あの苦労は何事にもかえられない」


 ハザマ屋敷の居間にて。

 リック素人爵との交渉が成立した七川若奈々はさっそく文書転送機を取り出すと、あらかじめ作成しておいた資産家への報告文書を送信する。


「これでついに2千万が手に入るのですね」


「もう下級貴族とそのメイドたちとは呼ばせません」


 賢狼メイドたちは嬉しそうにハイタッチして顔を見合わせる。

「……やれやれ」

 一方でグリモワはといえば、あまり関心がなさそうだった。

 ソファに身をゆだねて、ぼーっとした無表情で朝刊を広げている。


 相変わらずのマイペースぶりだといえよう。


 さて、まもなく。


 七川の携帯型端末がピリリと鳴りだした。

 通話ボタンを押して探偵少女は待ってました、とばかりに電話にでる。

「こちら、七川です」


 その後。

 電話の相手としばらく話し込む七川。


 だが、そのうち。


「え、どういうことだ」

 明るかった七川若奈々の表情が曇り出す。

 そして段々と青ざめる探偵少女。

 やがて通話が終わり、心配して駆けつけたリック素人爵たちに七川は意気消沈した様子で、


「契約は無効。報酬は無しだ」


 と短く言った。


 混乱するリックたちを前に七川若奈々は肩を落として再び説明する。

 それは、どうやら『捜していた猫が資産家の邸宅の屋根裏にいるところをつい先ほど侍女の一人が偶然にも見つけた』という信じられないものだった。


 これにより契約はもはや無効。


 任務は未達成なので報酬は支払われないとのことらしい。


「どういうことだ! 意味が分からない」

「そうですよ。じゃあ苦労して捕まえた、この黒猫は何なんですか」

 行き場もない怒りで抗議するリックと賢狼メイドたちの傍らでは、黒猫が飄々とした様子で尻尾を揺らしていた。


「まったく。本当にどうなってるんだ」

 リック素人爵が首をひねっていると、今度は七川がぽん、と手を打って言う。


「ごめん。どうやら似ているけれど無関係な猫だったみたいだねー、この子。わたしとしたことが事件解決を急ぎすぎたあまり早合点して、そっくりな別の黒猫を追跡してしまっていたようだ。すまんな。ドジっ娘属性の炸裂だよ、うむ」




 すぐさま3人の怒号がこだまする。




「「「こ、このバカアアアアァーッ!」」」



「ご、ごめーんっ!」

 この後に七川の泣きそうな声が響いた。

 机に積んであった書籍がばらばらと崩れる音も続く。




 ――――その後。


「しかしながら、異世界を身近に感じられる旅もできたし結果的には、まぁいい経験になったのかもな。……今回はやむなしとしよう」

 リック・ワーグナー素人爵はやがて、そう言うと口元に手を当てて欠伸をした。

 もはや青年の表情は穏やかなものに変わっている。

 さて、シアラとキアラもやがて落ち着きを取り戻したようで。


「仕方ありませんわね」


「だね。ボクたちも旅を通して、実は成長できたのかもしれませんし」

 とそれぞれが納得するのだった。


「……それくらいの気構えがいいかもナ」

 魔道兵器グリモワが悟ったような口調でつぶやいて、読み終えた朝刊を畳んでテーブルに置いた。


 テーブルの上には、5杯分のアイスコーヒー入りグラスが冷たい汗をかいている。





 ◆◇◇


 さて余談にはなるが、それからのハザマ屋敷では時折、喧噪を挟みつつも穏やかな日常が続いているらしい。

 ただし再び私立探偵が依頼を持ってこないとも限らないので、素人爵やメイドたちはまた異世界にいく準備を整えている最中だとか……。

 





 ――月明かりが密かに照らす、ハザマ屋敷の裏庭にて。


「ニャオーン」

 異世界扉の近くで気配がして、黒猫が何か催促するような声を出す頃。


 ……ギギギ。

 木製の扉がゆっくりと開いて、新たな旅の訪れを告げている。


「やれやれ仕方ないですね」


「軽く行ってみるとしますか」



 星ひとつない夜空の下、賢狼メイド姉妹の賑やかな声が響いていた。

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