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火炎弾

「ふ、くく。いいぞ。振り下ろせ」

 遠くから旅行魔女の冷たい声が飛ぶのが聞こえた。

「助け……、て。死にたくない」

 七川の願いが叶うはずもなく、ゴーレムの拳がそのまま振り下ろされる……。

「やめてええ!」

 探偵少女の悲鳴。

 直後。

 ――ダアアアン!

 ピンチを救ったのは、乾いた銃声。

「……ひぃっ」

 七川が恐る恐る敵を見上げれば、ゴーレムの小さな頭は木端微塵に吹き飛んでいた。

 稼働停止。

 そのままの形で、ぴたりと動かなくなる巨人兵。

 まるで、意思なきソレ自身が突然の銃撃に驚いているかのようでもある。

「いやー、的が小さいと狙いにくくてさー。……まぁ、七川の本気で怯えた顔が一度、見てみたかったっていうのもある」

 ほどなくして銃撃の実行者、リック・ワーグナー素人爵の声が聞こえた。

「もー、リックのバカ!」

 殆ど涙声で七川が悪態をついた。

 しかし、素人爵も一筋縄ではいかない人物らしい。

「本当のヒーローってのは、ぎりぎりのところでヒロインを助けるものだ。だからこそ格好がつくのだよ」

 これを聞くや、七川の頬がほんのりイチゴ色に染まる。

 そして誰にも聞こえないように少女はつぶやくのだった。

「惚れちゃったら責任とらせるから……」

 この発言はもちろん誰にも聞こえていない。

 さて、一方で頭部を失った木製のゴーレムはといえば未だに沈黙したままだ。

 死んだのだろうか。

 いや、しかしそうだとは限らない。

 そこに百式の旅行魔女の詠唱が加われば、死者は何度でも動き出す。

 木製の巨体が完全に滅び去るまでは油断できないのだ。

「…………われは百式の旅行魔女、エンジェである。悪魔との契りを交わした者なり。ナンバー38! 百式の部分再生よ、いざ我のために作動したまえ」

 どこからともなくエンジェのそんな声が聞こえる。

 嫌な予感。

 ――ギ、ギ、ギ。

 万力が軋むような音とともに、ゴーレムが再び動き出そうとしていた。

「ち、こいつ」

 七川若奈々はようやくガレキに埋もれた身体を起こしたが、彼女の額には、さっそく冷たい汗がにじんでいる。

 一難去ってまた一難とはこの事か。

「やれやれ」

 深い溜息をついた彼女は残り弾を確認。

 それを取り出すと、回転式リヴォルバーに素早く装填した。

 探偵少女に再び訪れた生と死のはざま……。

 背中に寒気を感じながらも七川はガチリと銃の撃鉄を起こしてゴーレムの再生した頭部を狙った。

 どちらにせよ一発でも外せば終わりだ。

 もし彼女が丸腰だったならば、それはまるで象と蟻の対決。

 一撃で粉砕されていたはず。

「運がいいのか。悪いのか」

 七川は口元に引きつった笑みを浮かべた。

 さて、遠方からは先ほどと同様リック・ワーグナー素人爵も敵を狙ってくれているに違いない。

 しかし、魔女の呪文で何度でも再生する化け物に打つ手などあるのだろうか。

 いや、それは考えるな。

 マイナスなことを考えてはだめだ。

 今度こそ殺される。

 そんな思いが七川の脳裏を駆け巡る中で、ゴーレムは再び彼女に向けて太い腕を伸ばしてきた。

 嫌だ。

 来るな。

 来るな。

 来るな。

 来ないでよ。

 ……やめて。……嫌っ。

「やめてええーーっ!」

 七川の口から思いもよらぬ悲鳴があがった瞬間。

 ゴーレムと七川との間。

 そこに小さな人影が現れていた。

「世話が焼ける。……おまえ、泣き虫だしバカヤローだナ」

 両手を広げたグリモワ。

 何故、彼女がここに。

 それまで到底、即座に駆けつけられる距離にいなかったはず。

 だが、これは事実。事実なのだ。

 いま、魔道兵器の幼女は小さな身体で確かにここにいる。

 彼女はゴーレムの前に七川を守る盾として立ちふさがっているのだ。

「……ぐ、グリモワ……、ちゃんっ!? だ、ダメえええええええっ!」

 次に七川の口から上がったのは殆ど声にならない叫びだった。

 だが、グリモワは何も恐れていないように見えた。

 普段通り。

 いつもと同じに表情に見えた。

 ルビー色の瞳は相変わらず眠たげだ。

 不可解。

 なんなのだ、この子は。

 恐れというものがないのか。

 そして、七川若奈々にとって何よりも不可解だったのは……。

 魔道兵器グリモワ。

 この幼女がいま、口元にうっすらと微笑みさえ浮かべているということだった。

 何故。

 そんな疑問に応える間もなく、ゴーレムの巨大な拳はまずグリモワに向けて振りぬかれていく。

「……灼熱のメガフレイム」

 グリモワが何気なく術式を述べて、すっと前方にかざした手のひら。

 そこから巨大な火炎弾が発射される。


 ――ボンッ!


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

 巨人兵の絶叫。

 バチ、バチと燃えあがる巨体。

 本来、ゴーレム族を殺すためにはその身体の何処かに隠された「emeth」と書かれた呪符を破壊する必要がある。

 だが、グリモワの放った灼熱の前ではそれすら不要だったらしい。

「……ふくく、く。外套ロリ娘は伝説の魔道兵器かな。やはり、魔道兵器が相手ではゴーレムなど無力な存在に過ぎないか。不足が多すぎる。まぁ、勉強になった」

 遠方から指示を送っていた旅行魔女エンジェは「仕方あるまい」と、結末を予期していたかのような微笑を浮かべた。

 そして、再び目を閉じると精神統一する。


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