木製ゴーレム
――――パパパパパ、ン!
ダブルアクションリヴォルバーでないと不可能な5連射が私立探偵の手によって、いとも簡単に撃ち放たれる。
「……ほむ。これは詠唱が間に合わんな」
咄嗟に旅行魔女は喫茶店の大看板に飛び込み、弾除けにした。
「ふ、く」
鉄看板には銃痕こそ残ったが、なんとか七川の連射攻撃は回避できたようである。
籠の中で黒猫が「にゃー」と悲鳴を上げていた。
「あははははははは。……ふぅ」
だが、先ほどまでの余裕はエンジェから消えていた。額の汗をぬぐう。
ついでに短く嘆息。
「それにしても、カラクリ持ちかな。あの小娘は。シングルアクションリヴォルバーには連射機能はありえないはず。あいつ、パワーアップしている。さすがに油断した、か」
看板裏から身を上げて、彼女がそんな言葉を吐いた時。
「さて、おかえりエンジェちゃん」
彼女の目前では、七川の持つリヴォルバーの銃口が待ちわびたかのように黒光りしている。
「終わりだ。ヘッドショットで楽にしてあげよう」
ギリリっと、一瞬にして撃鉄が起こされた。
しかし、今度ばかりはエンジェのほうに時間的な分があったようだ。
「ふく、く。……いや、今度はこちらの番のようだな」
旅行魔女は口元をにやりと引きつらせて素早く呪文の詠唱を開始していた。
「…………我は百式の旅行魔女、エンジェである。悪魔との契りを交わした者なり。ナンバー11! 百式の簡易召喚術よ、いざ我のために作動したまえ」
「「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン」」
次に響くのは怪物の雄叫び。
これと同時、どこからともなく現れた何者かの丸太のように巨大な拳がリヴォルバーでエンジェに狙いを定めていた七川若奈々に襲い掛かる。
「ち、こいつ……」
ぎりぎりのステップで重厚なる一撃を回避した七川若奈々。
しかし、怪物の一撃が路面にめり込むと同時に恐ろしい衝撃が発生する。
地面がグラリと揺れて閃光が起きていた。
「うわあああああああっ」
とてつもない衝撃波を受けて七川は、あっという間に遠くの家の外壁まで吹き飛ばされた。
衝撃でガラ、ガラとレンガ造りの外壁が崩れて、私立探偵はそのガレキの中で大の字になった。
もはや、これの修理代について考える余裕はない。
それよりも怪物はいったいどこから降って来たのか。
旅行魔女の召使いともいえる、この恐るべき巨人兵は……。
さて、ね。
「な、七川ぁっ!」
「「わああ、七川さんーっ!」」
リックと賢狼メイド姉妹が殆ど悲鳴に近い叫びを上げていた。
「………む」
グリモワはというと、唇に指をあてて何やら思考を巡らせているようだった。
そのうち、彼女のルビーアイズは儚げに閉じられる。
まるでこの先に起こる何かを予測したかのように。
――――ドスン、ズズズ、ドスン、ズズズ、ドスン!
「……行け。愚か者どもをおまえの太腕で押しつぶせ」
百式の旅行魔女の指令で生贄を求めてそれはゆっくりと、しかし猫捜索団メンバーに確実な死を与えるべく歩き出した。
巨人兵を思わせる木製のゴーレム。
正確には分からないが、恐らく4メートルはあるだろう。
切り出した丸太のように太い腕と長い脚。
古代鎧のように寸胴な巨体の上には、それとは対照的な小さな頭が載っており、洞穴を思わせるような漆黒穴が2つ空いている。
――――ドスン、ズズズ、ドスン、ズズズ、ドスン!
そうこうする間にも次第に距離は詰まっていき、やがて木製ゴーレムはターゲットの元へとたどり着いた。
「グオオオオオオオオオオオン」
怪物の声を耳にして、再び意識を鮮明にした七川若奈々。
「……う。ちくしょう。まだ、うまく動かない」
しかし、彼女の意思とは裏腹に肉体は言うことを聞かない。
まだダメージが回復しきっていないのだ。
「く、わたしも……、これまで、か」
私立探偵少女の眦から、一筋の涙がこぼれていく。
時は残酷だ。
待ってくれない。
「「オオオオオオオオオオオオオオ」」
それを体現するかのように、ゴーレムの腕は無慈悲に振り上げられる。




