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夜汽車に揺られて

 ◆◇◇


「よし、これでついに俺たちの準備は整った」

 さて、ここは英吉利イギリスの異世界蒸気機関車を待つ鉄道駅。

 予想どおり列車を待つ多くの利用者で混雑しており、複数の行列が出来上がっているが、リックたちもなんとかそのうちのひとつに加わることに成功したようだ。

 すでに、乗車券もロイアルで購入済みである。


 なお、あれからのリックはというと、記念館で入手した『ウィッチ・バスター』をリュックに固定して持ち運んでおり、上機嫌を貫いている。

 どちらにしろ、強力な術式を操る百式の旅行魔女を追っている身。

 油断大敵な状況に変わりはないのだが。

 一行の調子はというと、やはりどこか緊張感に欠いたものである……。

「完璧だよ!」

 リックに同調して、七川が自信満々に頷く。

「ですわね、リック素人爵」

 シアラも相槌をひとつ打った。

「あの、忌々しき百式の旅行魔女めには……。首を洗って待っていてくださいましって言ってやりたいのです」

「まぁ、ワタシたちも運が悪けりゃ返り討ちされるかもだけど……ナ。あと敬語がどこか変だぞ、君」

 キアラの敬語にグリモワが突っ込みを入れる頃。

『まもなく列車が入ります! 白線の内側にお下がりください』

 ――――そんなアナウンスが流れて。


「「おお、来たよ!」」


 ついに、異世界蒸気機関車が一行の目の前に姿を現した。

 白い蒸気を大量に上空へと吐きだしながら、その『鋼の革命遺産』は鉄道駅『英吉利イギリス』へと進入してくる。


 ――――ギリ、シャリ。

 ギリ、シャリ。



 シャコシャコ、シャコ、シャコ。


 5人が並んでいる手前で、蒸気機関車の漆黒の巨大車両が、ついにその動きを止めた。



 ―――プシューッ!



『到着。到着。車両の扉が開きます。ご注意ください!』

 再びアナウンスが流れて車両の分厚い鉄扉が開かれた。


『皆様どうぞ、足もとにお気をつけてご乗車くださいませ』


 これを合図に、駅で待っていた利用者たちがぞろぞろと漆黒の車両に吸い込まれていく。

 当然、リックたちもそれに続くのだった。




 ◆◇◇




 ――――蒸気機関車が英吉利イギリスを出発してから、しばらく経つ頃。

 ぽつ、ぽつ。

 ぽつ、ぽつ、と。

 気づけば、冷たい雨が降りしきる薄暮れが訪れていた。

 この『ウィチメル』行きの蒸気機関車の進行先。歪な形の木々が生い茂る深い森には、まるで永遠に続くかのような長い線路が敷かれている。

 ただし、このルートに関しては周囲の雑草が伸び放題で放置状態にあったとしても不思議はない。

 というのも、それほどまでに時折、ガタガタと激しく揺れる車内。

 疑いようはなかった。

 もしや、それは老朽化していないだろうか。

 大丈夫なのだろうか。

 見た目以上に、レールが歪んでいたりはしないか。

 事前にちゃんと線路チェックをしていないのか。

 まぁ、見えていないから想像するしかないのだが。

 これからそこを通過する蒸気機関車に乗車しているリックは、コンパートメントからさまざまなことを危惧しながら目を閉じる。

 だが、その心配をよそに何事もないように機関車は煙を上げて、すさまじいスピードでそこを走り去ってくれたようだ。

「……ふぅ」

 車窓から流れていく暗い木々を眺めながら、彼はほっと一息をつく。

 どうやら、窓の向こう。不規則に降り続ける気まぐれな雨によってもたらされた杞憂だったようだ。

「あら、やだ。リックさまは怖がりなのですね」

「ですわね」

 そんな彼とは、対照的にすまし顔で読書に勤しむキアラと、シアラの賢狼姉妹が対面に2人。薄い客室のライトによって照らし出されている。

 肩まで伸びたさらさらの青髪に、血液の流れを感じさせないほどに白い肌、アンティークドールのような紫眼を備えたフェイスは「双子のお人形さん」と形容してもなんら差し支えないことだろう。

 それは、さておき。

「俺が怖がり……だと? 他の乗客よりも思慮深いと言っておくれよ。キアラ」

「ふぅーん。リックさま。強がりますね。それにしても、他の乗客さんたちの声は聴こえず、案外静かですね。コンパートメント最高です」

「だねー。たまにめっちゃ揺れるけど」

 すかさず、リックの隣に座る七川が相槌を打つ。

 同時に、鹿撃ち帽から伸びたこの探偵の黒髪がさらりと揺れるのが見えた。

 やれやれ。なかなか騒々しい列車旅になりそうだ。

「……ほむ」

 一方でグリモワはといえば、車窓からの景色をじーっと眺めている。

 その間、一言も発さず相変わらずのマイペースぶりと存在感を見せつけている。

 だが、まぁ。この調子なら大丈夫だろう。

 彼がそう考えて安堵した途端に、定期的な車両の振動によるものなのか、それとも長旅の中で蓄積した疲労によるものか。

 リックに抵抗できないほどの睡魔が襲い掛かってきた。

 

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