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ウィッチ・バスター

 ◆◇◇


 ギシギシ、という音を立てる木造階段を昇った後、彼らはある一室の前で立ち止まることになった。

「では、ご覧いただく」

 短く述べて、ウサギ館長は古い小さなカギを取り出すと鍵穴へと突っ込んだ。

 ガチャッという音で、施錠が外れて扉が開く。

 部屋の装飾は非常に質素なもので、必要最低限の書斎や棚、小さな出窓などがあるだけのようだ。


 そして、部屋の中央にあるガラスケースの向こう側には、一丁のマスケット銃が、まるでいまは亡き主人を待つようにして立て掛けられていた。

 銃の周囲には不思議な気品と威圧感が漂っているようにも思える。

 それはあたかも、その場に実在していながらその場に実在していないようにさえ感じられる幻惑のコレクション。


「これが、ウィッチ・バスターだよ」


 ウサギ紳士が少々、緊張を含んだ声で紹介する。


 これぞまさしく、都市伝説として逸話に語られる魔女狩り銃の実物。


「「「これが……っ」」」


 思わず、5人が5人とも息を呑む。

 あの、気楽でマイペースなグリモワでさえも、小さな肩を震わせていた。

「このマスケットの重厚感、すご……」

 魔道兵器の娘はそんな感想を漏らすと、魔法帽子からはみ出した髪の毛をくるりと指で巻き上げる。

 一方で、七川や賢狼メイド姉妹も。

「わわ、確かに。カッコいいけど。不思議な魅惑が……」

「ですわねー。賢狼族の私ですらそれを感じています。なんだか美しいような恐ろしいような」

「ボクも姉サマと同じく。ただただ、魅入られそうな銃ですね、これは」

 すると、それまで黙って腕を組み、じっとマスケット銃を見つめていたリックが口を開く。

「あの、館長さん。もしよかったら、このマスケット銃をケースから出してもらって構わないかな?」

 だが、ウサギ館長は首を横に振った。

「悪いな。それは無理だ。出して見せてやりたいのは山山なんだがね」

「というと?」

 このリックからの質問に、館長は。

「君たちは岩に刺さって抜けない伝説剣の話は知っているだろう? あれと同じだよ。誰にも棚からこのマスケットを引き出すことができないのだ」

「そんなバカな……。ありえないでしょ」

 傍らで話を聞いていた七川が思わず、肩をすくめる。

「なんなら、ケースを開けてやるから誰か取り出してみたまえ。無理だと思うぞ。もし、動かすことができれば、それが全ての対価を物語っているということだ。タダ値でくれてやってもいい。もちろん、そんな奇跡は起こらないだろうが……」

 ウサギ館長は自信ありげに言うと、こほんと小さく咳払いした。

 この発言を聞いて、黙っていられなくなったらしい。

「よっしゃ、やったる」

 我先にと七川若奈々が身を乗り出す。

 腕まくりした彼女は、くくくとダークな笑みを浮かべて「一度、タダ値と言ったからには二言は絶対に無しだからね。ウサギさん。後悔しなさんなよ」と言い残すとそのまま棚のガラスケースに手をやって、ガラガラと開けた。

 そして、七川はその銃身に手を掛けてそれを持ち上げようと試みる。

「……あれ、あれ、あれ! 嘘!」

 銃は全く微動だにしていない。

 傍から見る限りでは、七川が単純にふざけているようにしか見えないありさまだ。

「だから、言っただろう。この銃は持ち主を選ぶのだ。正統な資格者でないと絶対に動かすことなどできない。試しに残りの君たちもやってみたまえ」

 一方の館長はそう述べて、まずはシアラ、キアラに挑戦を促した。

 もちろん、彼女たちは望むところだといわんばかりにその挑発を受け入れる。

「2人同時にでも、いいんですかね?」

「いいよ」

 そんな言葉に触発されたメイド姉妹は、2人で一気にマスケット銃を棚から動かそうと試みる。

 賢狼メイドたちは細腕で必死に力を加えるが、シアラはおろか、キアラの怪力を以ってしても『ウィッチ・バスター』は一向に定位置から外れる気配を見せなかった。


 それどころか、先ほどよりもさらに銃身の輝きを増しているようにすら思える。


「ワタシも無理だーっ」

 その後、グリモワも挑戦したが結果が同じだったのは言うまでもない。

「さて、ラストは俺か……」

 最後に、リック・ワーグナーがマスケット銃に手をかけるべく、ゆっくりとその棚に近づいていく。

 もはや結果は火を見るよりも明らかなはずだ。

 しかし、リックを見守る周囲の胸には不思議な安堵感が存在していた。

 何故だろうか。


「よいしょっ、と」


 そんな言葉と同時。素人爵の色白の手が、銃身を動かさんとばかりに添えられて。


「「お、おおおおおっ!」」


 それまで固唾をのんで見守っていた周囲から大きな歓声が沸き起こるのだった。

 ウサギ館長も、赤い目をこれ以上ないほどに大きくしている。

 そして言った。


「……まさか、とは思ったが。まさか、な。今まで銃を動かすことができたのは初代館長だけだった。その歴史をいま君は変えることに成功した。つまりは銃が君を選んだということだ。光栄なことだと思いたまえ」


 リック・ワーグナーはそんな館長に向けて短く問う。

「ありがとよ。じゃあ、このウィッチ・バスターは持って行っていいのか?」


「…………」


 当然、少しばかり沈黙があったが。


 ほどなく。

「ふ……、伝説の銃は伝説の剣と同じで使いこなせる者が持ってこそ、意味があり輝くことができるというものだ。持っていくのならば、くれぐれも大事にしてやってくれ」

 館長はあっけなく銃をリックに進呈することを認めた。


「さすがだな。あんたはいつでも頼りになる」

 リックのそんな発言を聞いた彼はどことなく嬉しそうに。


「なに、どうせ自分には使いこなせない代物だ。構わないさ。なお、付け加えておくと相当の年数を重ねた銃だから、不発もありうるし、なによりも弾丸数には限りがある。そこのところには注意してくれ」


「オーケー。進言ありがとうな。了解したよ」


「ふ、君たちの旅の成功を祈らせてもらう」


 そんなやりとりを最後に5人は館長と別れ、記念館を後にした。

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