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魔女記念館

 ◆◇◇

 

 一行はグリモワにお菓子を十分食べさせた後、ついに喫茶を出る。

 その後、彼らが向かったのは通りを挟んだ向かいに立つ小さな記念館。

「よし、入ってみようか」

 意を決してリック・ワーグナーが、ガチャリとドアノブを回すと長い間、誰も訪れていないのだろうか。何やらかび臭い匂いが5人の鼻をつく。

「ジメジメする」

 グリモワが指で目をこすりながら、そんな小言を吐いた。

 木造の小規模な建造物ではあるが、一応は二階建てになっているようだ。

 彼らが奥へ進むと、有料の展示コーナーがあった。

 リックがなけなしのロイアルをコーナーに設置されていた小皿へと投入して中へと入場する。

 そのガラスケースの向こう側には魔女に関するさまざまな資料がところ狭しと並べられていた。

 古文書、歴史画、解説書など。

 一般人の目からすれば、これらの品々は無意味な羅列にしか映らないかもしれない。

 だが、魔女の情報を探し求める5人からすれば、これは宝の山だった。

「おお、これはすごい」

 彼らが驚嘆の声をあげて資料を見つめていると。

「……興味がおありですか?」

 背後から、突然声がして。

 一行がそちらを見れば、そこには燕尾服に身を包んだウサギが立っていた。二足歩行なうえに、手には真鍮製の杖まで携えているではないか。

 何やら、見覚えのある獣人である。

 ……しかし、リックたちはすぐにこの人物のことを思い出すことになった。

「あっ、もしかして。あの時の!」

 リック、シアラ、キアラがハッとした表情を浮かべる。

 役所へ行く前に異世界扉から転がり出て、ロイアルをめぐんでもらった光景が3人の脳裏をよぎったのだ。

 なお、七川とグリモワも獣人の出現には大変驚いているようだが、2人に関してはこの長耳の紳士についての事情を知る由はない。

「おお、君らは」

 ウサギ紳士のほうも、リックやメイドたちの顔は記憶していたようで、彼の丸く赤い瞳は、一瞬のうちにさらに丸くなった。

 ぷっくりと膨らんだ鼻がヒクヒクと上下する。

「なんで、あなたがここに?」

 シアラは当然ともいえる質問を、ウサギ紳士へと投げる。

 すると、ウサギ紳士は、「亡くなった館長にここの保存運営を頼まれたのだ」と言って微笑した。

「ふむふむ。っていうことは、ここの館長さんだった方と親交があったんですか?」

 次に、初対面の七川がこの獣人に尋ねれば。

 ウサギ紳士は「ああ」と頷いた。

「……当初は魔女に関する情報を集めるためにここに来ていたんだけどね。熱心に訪れるうちにここの館長と親しくなって、館長の亡きいまではここの運営や保存活動も兼務しているってわけだよ。お金にこそならないが、なかなか楽しい仕事さ」

「なるほどな」

 リックが納得したように腕を組む。

「そういえば、君たちはどうしてこの記念館に来たんだ? 普段なら人入りもそう多くないのだが何か魔女について知りたいような事情があったのか?」

「それが……、実はあれから……、旅行魔女と黒猫をめぐる騒動に巻き込まれてしまってですね――――」

 この、ウサギ館長からの問いかけに対して、キアラがこれまでのあらましをザッと説明していく。

「――――というわけなのですよ」

 キアラがこれまでのフローを全てウサギ館長に語り終えた時、彼は顎に手を当てて何やら考え込むようなしぐさを見せていた。

 傍から聞く限りではやはり、ざっとした説明だったが、どうやら事態の把握はしてくれたらしい。


「…………」


 少しばかりの沈黙を挟んだ後。

 やがて、獣人紳士は何やら重々しい様子で口を開いた。


「本当に魔女を倒したいのなら、それなりの覚悟は必要になる。君たちはウィッチ・バスターというマスケット銃の存在を知っているかね?」




「ウィッチ……バスター……っ」



 その言葉を聞いて5人は思いがけず、ざわついていた。


「そう。ウィッチ・バスター。その名の通り、魔女の完全なる殲滅を目的に据えたものだ。某銃器メーカーで忌まわしき魔女狩りの時代に限定生産されたフリントロック式マスケット銃だが、この埃被った記念館には、そのうちの一丁が保管されている」

「「本当ですか!?」」

 これを聞いたシアラとキアラから驚愕の声があがる。

 なお、この『ウィッチ・バスター』。

 その名はいわずともしれたもので、異世界出身者は誰もが一度は風の噂なりで耳にしたことがある代物だった。

 しかし、対魔女戦において絶大な威力を誇るとされる伝説の銃は、普段では目にする機会がないどころか、異世界においても都市伝説的な話題にあがっては消えるような空想産物のはずであった。

 それが、ウサギ紳士の話によれば、この小さな記念館にいま保管されているというのだ……。


 普通ならば到底、ありえない話。

 しかし、リックたちには、この獣人紳士の赤い目が嘘をついているようにはどうしても見えない。


 それに加えて、あの黒猫を取り戻すためには、これに懸けてみるしか手段はないというような状況。

 5人に迷いはなかった。

「ぜひ、拝見させてください」

「お願いしますです!」

 一行の言葉を聞いた獣人紳士は。

「いいだろう。では、二階についてきたまえ」

 そう言って、ゆっくりと先頭を歩き始めていた。猫捜索団のメンバーたちは、すかさず彼の後へと続く。

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