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カフェと洋菓子とウエイトレス

 やがて、席に案内されて。

「ご注文を承ります」

 そう言ったウエイトレスに「この子に合いそうなお菓子をお願いします」と七川が注文すれば、「かしこまりました」と告げてウエイトレスは姿を消した。

 ついでにテーブルの上には5人分のお冷がいつの間にか置かれている。

「お菓子がくるまで、魔女退治の作戦でも練りますか」

 というわけで、注文の品がくるまでの十数分ほど。


 ……一応は腰を据えて魔女対策について話しあってみたが、一同に名案はこれといって浮かぶことはなかった。

「まぁ、正直なところ、まだまだ未知の能力者だからね。百式の旅行魔女エンジェってやつは。……おまけに例の睡眠導入魔術をくらわせられたら完全にアウトだ。戦いも何もあったもんじゃないよ」

 武装私立探偵の七川がやるせなさそうにこうぼやいて、ソファにもたれかかる。

 確かに百式の旅行魔女には謎が多い。いや、むしろ殆どが謎に包まれているのだ。

「あの方の睡眠導入魔術は確かに厄介ですわね。おまけに、素人爵に至っては戦う前に運が悪ければ即死させられていましたね」

「あの落とし穴。やられた側は避けようがないですからねぇ……」

 賢狼メイドたちもげんなりとした表情で、はぁっと溜息をつくとそのままお冷のグラスに口をつける。

「俺は戦力にならないのは分かっていたが、まさかあれほどとはな。……俺の強運もなかなかのものなんだろうが、やつもなかなかの策士だった」

 リック素人爵は案外、プラス思考な見解を述べたが。

「もぅーっ。あんまり自分を前向きにお考えにならないでくださいましです、ボクのリック様!」

「キアラの言う通りですわ! あんまりポジティブになられすぎても困ります。場違いな発言が5回を超えたらグラスの底で殴りますよ、素人爵」

 真剣さに欠けると見られたらしく、むしろメイドたちからの反感を買うことに。

「まぁまぁ」

 なんとか七川がメイド姉妹をなだめたところで。

「……百式の旅行魔女も無敵ではない。弱点は必ずある。それに、魔道兵器のワタシもとりあえずは援護する。だから、次に出会えばある程度までは渡り合えるのではないかと予想しているのん」

 グリモワがルビー色の瞳を輝かせて言い放った。

 この頼もしい発言を聞いて、メイドたちも少しは機嫌を直したようだ。

「やっぱりね。連れてきてよかった。風の噂にも聞くいにしえの魔道兵器群。この子の存在は頼りになるはずですよ。この先、きっと!」

「ボクたちにとっては、想定していなかった戦力ですからね。魔道兵器グリモワちゃんの存在は、あの時にはなかったのです。だから、きっと旅行魔女を追い詰められます。ボクたちさえしっかりとしたやり方で戦闘に臨めば」

 しかし、リックはそこに付け加える。

「でも、やはりグリモワだけではなく。俺たちにも決定打となるものがほしいところだよな。特に俺なんかは。……まぁ、うん」

「だよなー。いまのままだと、リックが戦闘能力ゼロだし」

「うーむ。言いにくいのですが、それは確かにそうですね」

 これには七川だけでなくシアラ、キアラも同意せざるを得ない。

 さすがに戦闘時の備えが文庫本だけでは心元ないというものだ。

「何かいい方法があればいいんだけれどなー。うーむ」

 七川が顎に手を添えて再び考え始めた時。


「あら、魔女について話しておられたのですね」


 涼やかな声がして。


「んむ?」

 5人が席の傍らに目をやれば、洋菓子が載ったシルバートレーを手にして、先ほどのウエイトレスが一行に微笑みかけていた。

「あ、聞かれてしまった?」

 七川がすっとんきょうな声を出して、こめかみを指でかりかりとかく。

 すると、ウエイトレスは、

「少し小耳に挟んでしまいまして。……しかも少し興味深いお話でしたから」

 そう言って、洋菓子の皿をテーブルに置いた後に、「すみません……」と丸眼鏡を持ち上げ、恥ずかしそうに頬を染めるのだった。


 彼女はなんだかもじもじとし始めていたが、すかさずリック・ワーグナーが質問を投げる。

「ほう。そりゃ光栄だ。ところで、魔女について興味があるっていうことは詳しいのかい? もしかして百式の旅行魔女エンジェっていう人物について君は何か知っていたり、小耳に挟んだことはないか? どんな小さな情報でもいい。俺たちはよそ者だから魔女のことについてはまだまだ無知なんだ。もちろん、何も知らないなら何も知らないで結構なんだが、もし何かしら情報があれば、些細なことでもかまわない。ぜひ人助けだと思ってネタを分けてくれ、可愛いウエイトレスさん」


「リック様。ボクたちの目的は情報収集ですからね、さりげなくナンパはだめですよ?」


 何故かキアラの独眼がきらりと光る。


「ナンパじゃねーよ」


 すぐに否定するが、リックの目は泳いでいる。

「……ええええ、可愛いだなんて、そんな。旦那様……、お恥ずかしいですよぉ」

 割と顔だちの整ったリックに見惚れ始めたのか、ウエイトレスの頬がぱぁっと赤く染まっていく。

「コラコラ、ウエイトレスさんもっ!」

 ウエイトレスの娘にも、キアラからの少々キレ気味な突っ込みが入る。

 万が一、キアラがウエイトレスにやきもちを焼けば面倒なことになるだろう。

 だが、これは情報収集、情報収集……。

 自分の中でリック・ワーグナーは呪文のように言い聞かせる。

「えーっと」


 と、恥ずかしそうにシルバートレーを胸の前で抱きかかえたまま、今度はウエイトレスが口を開いた。

「あの、すみませんが、百式の旅行魔女という方については存じません。ただ……、うちのお爺さまは、かつて魔女狩りというものが英吉利イギリスをはじめとする異世界各地で流行した時代に、魔女狩りのスペシャリストと呼ばれていたそうです。だから、この国にはその時代の名残の小さな記念館があります。そこに、魔女に関する何かしらの手がかりがあるのではないかな、とか……勝手に思いまして。あの、その、……はい」


 そう言い終えたのち、相変わらず自信なさげにモジモジとするウエイトレスだったが、この時の彼女の言葉は、猫捜索団のメンバーたちにとっては攻略不能にみえた暗闇に差し込んだ一筋の光とも呼べるものだった。

「本当か」

「その記念館っていうのはこの街にあるのですか?」

 5人から矢継ぎばやに飛んでくる質問に、ウエイトレスは「そうですね。この店を出て通りを挟んだ向かい側に魔女記念館がありますよ」とだけ短く返事をする。

「ほうほう、情報ありがとうございますです」

「あの、もしよかったら他にもいくつか聞かせてほしいことがあるんだけど、大丈夫だろうか?」


「じゃあ、次はわたしも」

 しかし、あまりにも一行が次々に質問を投げすぎたために、とうとうウエイトレスは、

「……ご、ごめんなさい。ウエイトレスも人間嫌いのため、コミュニケーション能力皆無です。このため注文以外の用件はなるべく話しかけないでください。ではでは」

 それだけ言い残して、その場から足早に立ち去ってしまった。

 少しばかり警戒感を抱かせてしまったらしい。

 まぁ、致し方あるまい。

 というわけで。

「とりあえずここを出て、その記念館とやらに向いますか」

「ですね」

 ぐびぐびっとお冷を一気飲みして、シアラとキアラが威勢よく立ち上がった。

 だが、すぐに彼女たちのスカートの裾が下側からぐいっと引っ張られる。

「まだ、ダメ」

 グリモワだ。

「その前に洋菓子たべるもん」

 魔道兵器幼女は短く言った。

「あ……」

 姉妹の脳裏にはすぐに『爆発』の二文字が浮かび上がって、

「たんとお食べくださいませ」

「はい」


 2人は苦笑しつつも席に座りなおすと、グリモワの頭を魔法帽子の上から撫で始めていた。


「じゃあ、いただきまーす」

 グリモワの無邪気な声が店内に響き渡る。

 これで、しばらくは自爆の恐怖からは逃れられるのであろうか。

 ……答えは未知である。

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