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ゲートを開けば

しかし、当の魔道兵器はといえば。

「ん……。どーした? ワタシを移動式ゲートに連れて行くんだろ?」

 きょとんとした様子だ。

 事態を把握するどころかつぶらな瞳で、青ざめた旅の一行をじーっと見つめている始末である。

「資産家は俺たちを助けたいのか、殺したいのか。よく分からんな」

「ですわね。逃げる時間的にも、この子に強い衝撃を与えたら、もはやボクたち助かりませんよ」

「死ぬときは、この子もろともというわけか……。嫌だ、嫌だーっ」

 リック、キアラ、七川がそんな皮肉を言う頃には、

「……さっさと、連れてけ」

「ひぃっ!」

 すでにシアラのスカートの裾をつかんで、グリモワはそんな催促を始めている。

 こうなれば致し方あるまい。

「やれやれ。連れて行くとしよう」

「ううう。この子の存在はボクたちにとって、いわば最終兵器なのですかね」

「まぁ案外、もしもの時も役に立つかもな。ジョーカー的な意味で」

 彼らはしぶしぶながら覚悟を決めた。

「……ジョーカー、ね」

 グリモワは満足そうにリックのセリフを一部復唱する。

 こうして、新たなメンバーに魔道兵器・グリモワを加えた猫捜索団の一行。

 彼らはまず裏庭へと戻ると再び例の扉のドアノブをひねり、異世界に飛び立っていった。 

 

 ◆◇◇

 

 レナグルード商業共和国。

 商店街から延々と続くように見えた石畳の舗道。

 その奥域にて辺りを威圧するようにしてそびえ立っているのは巨大な鉄門である。

 この鉄門こそ、レナグルード商業共和国の『移動式ゲート』(国によってゲートの形式は異なる)だという。

 移動式ゲートのずっと前方では、封鎖網が張られている。

 そこを警護する衛兵は3人ほどだ。

 3人の中で一番、背の高い衛兵が低い声で、そこにたどり着いたばかりのリックたちに尋ねた。

「出国のために必要な専用旅行パスはあるか?」

「…………いや、ないです」

 一行は少し悩んだうえでそう言って、首を横に振る。

「じゃあ、出国できませんぜ」

 3人の中で一番、背の低い衛兵が高い声でそう告げて。

「ふむ」

 3人の真ん中にいた中間的な身長の衛兵は冷たいため息を放つと、リックたちを面倒くさそうに手で払って「おまえら、帰れ」と言った。

「えええ、そんなぁ!」

「ひどいですよぉっ!」

 メイドたちが泣き出しそうな声を上げるが。

「帰ってたまるか!」

 やはり、探偵は強気な発言だ。

 だが、七川のいうとおり当然、ここで帰るわけにはいかないのだ。

 リック素人爵は、傍らでぼーっとしていたグリモワを自分の前方へと連れてくると見ていろとばかりに叫んだ。

「おい、衛兵ども。よく見ろよ。専用旅行パスはない。だが、それより上を行くフリーパスならここにいるぞ! 魔道兵器グリモワだ」

「フリーパス? 魔道兵器だと?」

「何を言ってやがるんだ、おまえは」

 しかし、衛兵たちから戻ってきた返事は予想外のものだった。

「え、どういうことだ!? これでいいんじゃなかったのか」

 リックが呆気にとられている合間に、ひょいっとグリモワは身を低くしてその場から脱出する。

「あ! グリモワ、おまえ」

「……おまえら、うるさい。ワタシ先にいく」

 そしてこの低姿勢のまま、素人爵のほうに気をとられていた衛兵たちの脇をも、タタタっと素早く駆け抜け、一瞬のすきを突く形で奥(鉄門のほう)へと消えた。

「あ、おい。おまえ!」

「あいつ、ゲートのほうに行きやがった!」

「チビガキ。ぶっころしてやる!」

 すぐさま、怒り狂った衛兵たちはグリモワを追いかけようとするが。

「まぁ、まぁ。こらえてくれよ。本当に魔道兵器なんだよ」

 リックがそう言って衛兵たちをなだめた。

 しかし、それもつかの間。

「……いまのガキが魔道兵器だと!? 嘘をつくなよ、二枚舌。公務執行を妨害する気ならば、ただじゃおかんぞ!」

 衛兵の一人がリックの胸ぐらをグイっと掴み上げる。

「ほ、本当だよ。……っていうか魔道兵器は、専用旅行パスの代わりになるんじゃなかったのかよ。話が違うーっ。それに午前中の衛兵のほうが色々と情報を教えてくれて、あんたらより親切だったぞ!」

「うるせえ! 俺たちはいま、むしの居所が悪いんだよ! 本当にあのガキが魔道兵器だったら門まで行かせてやる! でも、その前におまえを殴り飛ばすほうが早いか」

「ええええええ」

 そんな悲鳴を上げつつ素人爵が弱弱しく手足をばたつかせていると。

「悪いな、衛兵ども。やっぱり午後のおまえらは頭が堅すぎるようだ」

 七川のやれやれと言った口調が響く。

 そして。


 ―――銃底が3回、連続して振り下ろされて。……鈍い音。


 この音を最後に、3人の衛兵たちはその場に崩れ落ちて大人しくなった。

「七川さん、一体なにを?」

「まさか……彼らを」

 メイドたちの瞳が驚愕に見開かれる前に、私立探偵はさらりと言い放つ。

「なーに、手順は多少違えど、旅行魔女と同じことさ。特製の魔法で、ぐっすり眠らせたんだ」

「……ふっ」

 ほんのりとスパイスの利いたブラックジョーク。

「グッドなのです。ふふ」

 これには賢狼メイド姉妹も、力の抜けた笑いをこぼすことしかできない。

「さて、鉄門にいこうか」



 ◆◇◇


「はぁ、はぁ」

「到着なのです」

 魔道兵器を追って、4人が息も切れ切れで移動式ゲートの正面へとたどり着いた時。

「……おっ、やっと来たか~。おつかれ」

 その巨大な門前には、グリモワがすでにちょこんと佇んで待っていた。

 まるでバランス感覚が狂ったかのような鉄門と少女の大きさの対比である。

「おう。でも、これ本当に開くのかい?」

 七川からの問いかけにグリモワは、

「うん。……開くよ。らくしょー、らくしょー」

 さも当然というような口調でそう返した。

 だが、見たところ、巨大鉄門はあまりも分厚く、ちょっとやそっとの衝撃ではとてもじゃないが開きそうにもないのだが……。

 と、そうこうするうちに。


「専用旅行パスを門前にかざしてください。パスをかざした場合に限り自動で開きます」


 鉄門から自動アナウンスのような無機質な声が大音量で流れた。

 もし、これが本当ならもはや手立てはない。

 先に出会った衛兵たちの存在はただのお飾りに過ぎなかったということになる。

「ああ、もう参ったな。これじゃあ、さすがに無理だぜ」

「ですよね。素人爵」

 リックやシアラが途方に暮れたように肩を落とす。

 その隣で、魔道兵器の少女がすっと手をかざせば。

「…………」

 沈黙が幾重か、通り過ぎた後。

「開いたよ」

 グリモワのそんな声につられるようにして、移動式ゲートの鉄門はギィィィ、と重厚な扉を開いた。


「パス認証完了! 移動式ゲートが開きました。これより出国可能です。良き旅を!」


 無機質な自動アナウンスが5人の前に『新たな旅の幕開け』を告げている。


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