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魔道兵器・魔法食いのグリモワ

 ◆◇◇


「では」

 賢狼メイド少女の瑞々しい唇が短く言葉を紡いだ後。

 現代へと接続された木製扉のドアノブをシアラ・グルードのか細い手が「ガチャッ」と気持ちの良い音階で回す。


 ――――ギィイイ。


「さてさて一時帰還です」

「なのです。いつでも異世界から現代の移動中は不思議な気持ちになります、姉サマ。あは」

「うん、そうだねー。ふふ」


 ――――パタン。


 呑気な賢狼メイド姉妹のやりとり。

 このさりげない会話が殆ど終わるか終わらないかのうちに、異世界からの木製扉は一行をハザマ屋敷へと無事に送り届けていた。


 いつも通りにスマートな現代世界への帰還だ。異世界と現代世界を結ぶ回路が順調に機能していることが分かる。

 異世界扉のある裏庭から屋敷へと戻って。


「んむ!?」


 居間に入ってきた一行の目にまず飛び込んできたのは、専用旅行パスポートを入れただけにしては、あまりにも巨大な段ボール箱だ。

 行きがけにはその場になかった、それが無造作にぽつんと置かれた光景。

 箱の側面には何故か「割れ物注意」と書かれたシールが貼られているうえ、資産家がサインしたものだろうか。簡素な署名がされたメモもあった。

「資産家のサイン入りメモが挟んであるから間違いないだろう。印鑑はつかなくてよかったんだろーかね?」

 七川が不思議そうな表情で顎に手をやるが、リックは冷静に指摘する。

「問題はそこじゃないだろ」

 ……リックの言う通り、本当の意味で一行が気になったのはダンボールの不要なまでのサイズについてである。

「パスだけなら、ダンボールはこんなに大きなものじゃないですよね。でも、こんなに大きいということはまさか他の追加アイテムが……。少しドキドキします」

「開けてみようか」

「ですわね。素人爵、お願いします」

「え、開けるの俺かよ。……仕方ねーな」

 そんな言葉を最後にして、さっそくダンボールはリックの手により開封された。




 ――ぼわわん。

 



 何とも形容しがたい音がして。

 箱の中から一瞬、まばゆい閃光が漏れ出してきたように見えた。

「こ、これは!」

「す、すごい。……女の子だ!?」

 シアラ、そしてキアラの驚嘆の声が響き渡る。

「…………っ!」

 七川とリックは声もなく目を見開く。

 それもそのはず。 



 ―――彼らの目線の先には、魔法使いが被るようなツバの長い帽子に懐中時計のペンダント、マント型の外套、手袋、ホットパンツに黒ニーソ、膝がぎりぎり隠れるくらいの丈の軍靴ブーツという恰好をした華奢な体躯の少女が出現していたのだ。



 年の頃は11~2歳程だろうか。ビスクドールのような美しい顔だちに、腰まであるさらさらの青髪、ちょっと眠たそうなルビー色の目がとてもかわいらしいが、どこか気だるそうな不思議なオーラも漂わせている。

 幼い女の子は出現するなり、何故かリック・ワーグナーをじっと見つめた。


「な、なんだ。おまえ」


 リックは動転した口調でそんなふうに尋ねたが、少女は特に動揺すらしていないようだ。

 やがて、少女の瑞々しい唇が開かれて。

「……ワタシは魔道兵器なり。通称は魔法食いのグリモワ」

 やや虚ろ気味な目をこすりながらも、彼女は確かにそう言った。

「魔道兵器……。魔法食いのグリモワだと!?」

 七川がその名を復唱する。



 ――――さて、魔道兵器とは、強力な術式が施された戦争用生命体の俗称だ。

 古くは辺境の土地に住む職人や学者に某国の政府が委託して作成させたもので、並外れた魔法操作能力と情報管理能力を持つのが、この種族(?)の特長だといえよう。

 なお、魔道兵器の中には擬人化能力を持つものも一定割合で存在するとのことであり、この少女もそれに当たるのだろう。

 しかし、現物を目にするのはここにいる4人とも初めての経験だ。



 一方、グリモワと名乗った少女は。

「……いかにも。……ワタシこそが匿名資産家から君たちへの旅の支給品だ」

 ルビー色の瞳を輝かせて、そう満足げに頷くのだった。

「えええ、この子が旅の支給品だっていうのかよ……っ!?」

「いやいやいや。これ……。どういう反応をすればいいのやらです」

「はい……。さすがに想定しないですよ、魔道兵器が仲間に加わるなんて展開は」

 七川をはじめとして、4人がそれぞれ困惑した表情を浮かべていると。

「……安心しろ。魔道兵器のワタシは君らの予想以上に万能だよ。それに、七川若奈々からの情報を元にして研究所で作成されたデータがすでにワタシの中にプログラミングされているから、君たちの異世界旅を十分にサポートできる。つまり、ワタシを移動式ゲートとやらにつれていけばゲートを抜けること……可能なの」

 これを聞いてもなおリックたちが半信半疑なのは変わらない。何しろ、相手の外見はまだ年端もいかぬ少女なのである。


「そう言われてもな」


 リックは苦笑いしながら指で額をかく。

「うーむ」

 だがしかし、ここは連れて行くしかないのか……。

 グリモワは確かに4人の素性もあらかじめ知っているらしい。

 それに加えて、自称・魔道兵器の少女は移動式ゲートについてもまだ誰も口にしていないにも関わらずそれがこれから立ちはだかる障壁だと認識しているようだ。

 少なくとも、一考の余地はあるだろう。


「…………」

 わずかな沈黙を挟んだ後に。

「く……。やるしかねえ。一か八かで試してみるか」

 リックがそう宣言した。

「「はい」」

「……仕方ないすな」

 これにメイドたちも同意する。それは七川も同様だ。

 というか、専用旅行パスが『彼女』以外で見当たらないということはそういうことなのだろう。むしろ、それ以外には考えられないし、どちらにしろ彼らにとれる選択はそれしかなかったというのもある。

 署名されたメモには短く『支給品として魔道兵器を送る』というセリフと、いくつかの注意事項が記されている。

 いわく。



 ・必ず、一日一回はオヤツを与えること。



 ・グリモワに極度の衝撃を与えるのを避けること。



 ・一度、取り込んだデータはグリモワの内部に蓄積されること。



 ・専用旅行パスのデータも彼女に内部インストールされているということ。

 


 ・その他、細かい注意事項はグリモワにプログラミングしてあるということ。



 ・万が一、極度の衝撃をグリモワに与えてしまった場合、彼女は半径3000メートル規模のものを全て道ずれにして自爆すること。



 ・異世界猫さがし旅の健闘を祈るということ。



 ……そういうことらしい。

 ただし、かなり重要かつ恐ろしい事案が文章のうち、簡素に紛れていたことには反応せざるを得ない。

「「「おい、おい、おい」」」

 グリモワを除く、4人の顔からは一気に血の気が引いていく。

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