魔道国家ウィチメル
「……重大な理由?」
「いったい、どんな理由なんですか。それは?」
3人のくりりとした瞳がリック・ワーグナー素人爵をとらえる中、彼は落ち着いた口調でその『事実』を淡々と述べた。
「街角で小耳に挟んだが、この魔道国家は近いうちに近隣国へ侵略戦争を開始する算段を立てているらしい」
「「「なっ……!?」」」
「というわけで魔法戦争への参加要員をこの国は現在、血眼になって探しているみたいだぜ。どうやらウィチメル出身の上級魔女や上級魔道師の参加に関しては殆ど義務に近いものがあるようだ」
これに驚きを隠せない3人だが、すぐに七川が純粋な疑問を呈す。
「でも、旅行魔女がその国の出身だってことは分からないんじゃないかね?」
対して、リックは小さく微笑して告げる。
「なーにそれは間違いないさ。これは、やつが所持していた小地図だろ? そしてよく見ろよ。ここに押印されているのは紛れもなくソレだ」
小地図の右下には確かに、『魔道国家ウィチメル』のものらしき国印がなされていた。
「おお! 本当だ!」
「地図や文具への国印は愛国者であることを示すために行われることが多いです。魔道国家ウィチメルの国印がされた小地図を彼女が持っていた。はい、すなわちウィチメルの出身者で間違いありませんです!」
キアラ・グルードが目を輝かせて明るい声を上げる。
れっきとした証拠により、百式の旅行魔女がウィチメルの出身者だということが半ば確定したのだ。
こうなれば、猫捜しのために4人が向かうべき場所はある程度決まったということになろう。
「というわけで、俺たちはこの国への到着を目標にして旅を続けることになる。もし、それでダメだったら、その時はその時で考えればいい」
「さすがはリック様です! ボク惚れ直しました」
「素人爵……。案外、この異世界旅を真面目に考えてくれてたんですね。私としたことが、キアラと同じく惚れ直しましたよ!」
「ありがとう、君たち。俺的には悪くない気分だ」
賢狼メイド姉妹に今日のリック・ワーグナーはモテモテだが、彼もそれにはまんざらでもなさそうである。
「さて、そうと決まればいざ行こう! その魔道国ウィチメルとやらに!」
そんな中で素人爵が、ふと目をやれば、七川は相変わらずのペースでパイプをくわえて、決めポーズで声を張り上げている。
せっかちで行動が早い彼女らしかった。……素晴らしいではないか。
「あっ! でも、その前にまずは報告書を打たないといけないな。ついでに専用パスのことも書いとくよ。てへへん、わたしとしたことが、浮かれてあやうく忘れるところだったよ。危ない、危ない」
探偵少女はガサゴソと革製のカバンをあさると、小型の文書転送機を引っ張り出した。
そして、それを近くの木箱に載せるとさっそく報告書を作成し始めていた。
「…………ごにょごにょ、と」
――ほどなくして。
「よし、これで完成だ」
七川は出来上がった報告書を手短に校正した後、依頼人の事務所へと送信して、ほっと一息をつく。
「どんな内容で送ったのですか?」
シアラから問いかけに、七川は「んーと?」と顎に手をそえて簡潔に応える。
「とりあえず、食レポ的なことと、旅行魔女との衝突までのなりゆき、ついでにこれから旅行魔女を追うために異世界を旅することになったから、専用の旅行パスポート4人分の支給を郵送で至急頼むってな具合のことを送った……。うん。まぁ、支給品だけに至急おくってくれと。そんな感じだ」
「なるほどな。食レポはいらないだろうけれど、魔女を追う上で、移動式ゲートを抜けるための専用旅行パスは必須になるはず。俺としたことが見逃していたぜ。盲点だった……。いずれにせよ、でかしたぞ、七川」
リックが続けて「そのままゲートに行っていたら、恥かいてたかもな……」と頬をカリカリと指先でかいて、ハンチングの鍔を引っ張る。
彼らの言う通り、専用旅行パスは異世界での国単位の移動をする上で必須になってくるであろう代物だった。だが、問題はこれをどこで受け取るかということだが。
それを考えていると、間もなく。
ピリリリリン、と音がして、探偵がカバンに入れていたらしい携帯型連絡機(俗にスマホともいう)が鳴った。
「あ、わたしです。ふむ。了解した!」
カバンからそれを取り出した七川が淡々とした返事を述べたうえで、携帯型連絡機の通話スイッチを切る。
どうやら、異世界、現代世界のどちらからでも通話ができる特殊な電話回線らしい。
通話を終えた七川は瑞々しい声で3人に言った。
「資産家によれば、とりあえず超速達にて専用旅行パスを支給するから、一度ハザマ屋敷に戻って待機しておいてくれとのことだ」
「「「了解」」」
こうして彼らは宅配物の受け取りのため元々の屋敷へと一時的に帰還することになった。




