前から、君のこと・・・
高校に入学して二ヶ月。
学校にも慣れて、遅刻しないギリギリがわかる様になった。で、家を出るのが遅くなって、毎朝校門で先生に「走らんか、遅刻するぞ」って焦らされてる。
六月、衣更えはしたけど、暑くてたまらない。
朝から学校に走り込んでるから、汗だくだし、まったく。
オレはカッターシャツの胸元をバサバサしながら、教室へ向かう。隣のクラスはあまりの暑さに、朝から廊下の窓を全開にしてる。
おっ、廊下側の席の女子、オレ好み。たまんねぇ。夏服、可愛い。あんな可愛い子、居たのか?
ってか、あの娘今オレの方見てた? いや、勘違いか?
その日から、朝、隣のクラスの前を通るのが楽しみになった。
隣のクラスの彼女をチラッと見ながら通ると、彼女の方もオレを見てる。目が合いそうになると、恥ずかしそうにパッと目を伏せる。
あー、やっぱ、たまんない。可愛いー。
そんなのが何日か続いた、放課後。
帰ろうと廊下に出たら、隣のクラスの窓際の彼女が立ってた。
「あ、あの・・・」
顔を真っ赤にして、チラッとオレの方を見て、恥ずかしそうに目を伏せる。
「うぇあぁい?! お、オレ??」
突然声かけられて、オレも変な声が出た。カッコ悪っ、と思いながら彼女を見た。
彼女は顔を上げずにコクリと頷いて、紙袋を差し出した。
「あのっ、・・・前から、君のこと、・・・えっと、気になってて。だからコレ、あの、良かったら!」
彼女はしどろもどろで話し始めたのに、最後はめちゃくちゃ早口になって、オレに紙袋を押し付けて去っていった。
廊下の端で女子の「きゃー、ついに?」「え? マジで?」と、きゃいきゃいした声がして、彼女が何人かの女子に囲まれてるのが見えた。
家に帰って、彼女がくれた紙袋を開けてみる。
ヘアムース、ワックス、ブラシ、手鏡・・・。
コレで格好よくなってくれ、ってことかな?
次の日、いつもより早起きして、彼女がくれたムースで髪を整えて家を出た。
隣のクラスの廊下側の窓は今日も開いてる。
彼女は・・・、いつもの席にいない?
と思ったら、始業まで時間があるから廊下で友達と話してるのが見えた。
「美佳、昨日気になる彼に、例のブツ、あげたんでしょ?」
「だって、気になるじゃない。あんなにすごい寝癖。」
「たしかに、あれは、笑える。それも、毎朝、美佳の方ガン見して通るし。」
・・・えっと、オレ、寝癖スゴかったんか?
いや、でも、今日は彼女がくれたので、キチンとしてきたし。
「あ、あの。おはよう。」
ちょっと気まずいけど、声をかけてみた。
「ん? え? あっ、おはよう? 誰?」
「あの、昨日はありがとう。髪、整えてきたんだけど。」
「あ、寝癖の君! ごめん、毎朝頭だけ気にしてたから・・・。」
「毎朝、目があったら恥ずかしそうに目、伏せてたよね?」
「あんまりスゴい寝癖だから、目が離せなくて、ガン見してるのバレた!って、恥ずかしかったから、目そらしてた、だけだよ?」
「昨日、前から気になってた、って言ってたのは?」
「前から、君の寝癖、どうにかならないかなって、気になってたの。ムース派か、ワックス派かわからなかったから、両方入れたんだけど、使えた?」
「えっ、あ、うん。」
「あ、良かった。・・・じゃあね。」
えっ?それだけ?
恋が始まったかも、オレ、初彼女?とか一人盛り上がってたのに、恥ずかしい!
次の日から、オレは遅刻しない程度に準備をして、寝癖を直してから登校するようになったけど、隣のクラスの女子には未だに「寝癖の君」と呼ばれている。